「花のさくら通り」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|荻原浩

花のさくら通り

著者:荻原浩 2012年6月に集英社から出版

花のさくら通りの主要登場人物

杉山利史(すぎやまとし)
主人公。広告制作会社の社員。奇抜なアイデアを次々と思いつく。酒が原因で結婚に失敗している。

岡森守(おかもりまもる)
父親から受け継いだ和菓子屋を切り盛りする。

山本光照(やまもとみつてる)
お寺の息子。大学を出て修行先を検討中。

寺脇初音(てらわきはつね)
女子大生。 実家は教会だが光照と付き合い始める。

高橋早苗(たかはしさなえ)
杉山の娘。 小学3年生。地元の少年サッカーチームで活躍中。

花のさくら通り の簡単なあらすじ

ユニバーサル広告社が新しくオフィスを移した場所は、さびれた商店街・さくら通りに立つ3階立てのビルの中です。

恒例行事であるさくら祭りのチラシを一新したことから、杉山利史は地元の人たちから頼りにされていきます。

お祭りが大成功で終わった頃に、杉山は離婚して以来疎遠になっていた娘の早苗と久しぶりの再会を果たすのでした。

花のさくら通り の起承転結

【起】花のさくら通り のあらすじ①

桜が舞い散るシャッター商店街

都心の一等地から東京都の外れ・桜ヶ森へとユニバーサル広告社がオフィスを移転したのは、4月の初めのことです。

平日だというのに閉まっているお店も多く人通りもまばらなさくら通り商店街の一角、岡森ビルの3階に杉山利史は家財道具一式を運び込みました。

1階に店を構えるのは和菓子屋の岡森本舗で、店主の岡森守からさっそく仕事の依頼があります。

毎年6月の第3土曜日から日曜日にかけて商店街が主催している、さくら祭りのポスターとチラシのレイアウトです。

さらには今年に入ってから3件の放火事件を起こしている犯人を捕まえるための、夜間パトロールにまで駆り出されてしまいました。

放火が友引の夜に限って行われていることに気がついたのは、商店街のどん詰まりにある行覚寺の跡継ぎ息子の山本光照です。

光照は放火犯が香典泥棒の常習者であることを推理して、杉山や守の活躍もあり見事に犯人を警察に突き出します。

パトロール活動を通して光照は、桜ヶ坂の教会の娘・寺脇初音と仲良くなりました。

【承】花のさくら通り のあらすじ②

ふたつの地域とふたつの宗派がひとつに

さくら通りは代々この地で暮らしてきた年配者たちが多く、対する桜ヶ坂は若い店主たちが中心なために両者は上手くいっていません。

杉山は斬新なデザインのポスターを破格で完成させて商店街の会合に乗り込み、これまで対立していたふたつの地域の仲を取り持ちました。

光照と初音は順調に交際を続けていましたが、それぞれの父親である住職と牧師にはなかなか打ち明けることができません。

今年の春に大学の仏教科を卒業した光照は、間もなく群馬県の岩龍寺というお寺で最低3年は修行することが決まっています。

出発の日の朝になると光照はバリカンで頭を1厘刈りに剃り上げて、旅装束に着替えて脚絆を履いて準備万端です。

さくら通りと桜ヶ坂通りが交差する地点に差し掛かると、朝日を浴びて銀色に輝く十字架のネックレスをぶら下げた初音が抱きついてきました。

戒律が厳しい岩龍寺では来年の2月までは休暇をもらえないシステムで、携帯電話の持ち込みも禁止で外部からの電話は受け付けません。

しばらくは手紙のやり取りを続けると約束して、ふたりはキスを交わします。

【転】花のさくら通り のあらすじ③

妻を失ったふたりの男

守はさくら祭りに向けて大々的に売り込む新商品を開発中ですが、いいネーミングが思いつきません。

さくらんぼを葛の生地で包んだお菓子を杉山のアドバイスに従って「冷やし金魚」と命名して、手書きのイラストが入ったポップも用意しました。

すっかり打ち解けたふたりはお互いの仕事を早めに切り上げて、さくら通りの中ほどから路地に入った先にある小料理屋「小春」に飲みに行きます。

大手の家電メーカーに勤めていた守が岡森本舗を継いだのは、尚子という同僚と結婚した9年前です。

その尚子も店の手伝いや義理の母親の介護に追われているうちに、子宮がんを患って亡くなってしまいました。

杉山もユニバーサル広告社の前には大手代理店・帝国エージェンシーに所属していたり、元妻の幸子が1年前に乳ガンになったりと共通点が多いです。

短い結婚生活の間には小学3年生の娘・早苗を授かっていましたが、幸子が再婚してからは会っていません。

「会えるんだから会ったほうがいい」という守の言葉を聞いて、杉山は久しぶりに早苗に手紙を書きます。

【結】花のさくら通り のあらすじ④

祭りのあとに親子の対面

さくら祭り当日には商店街の演出として、この季節には珍しい桜吹雪が岡森ビルの屋上から降り注いでいました。

岩龍寺の境内には冬桜という種類の木が植えてあって、毎朝新入りの僧侶が庭の掃除をするのが決まりになっています。

集めた花びらをごみ袋に入れて光照が石段の上から蹴り落とし、下で待ち構えていた商店街のメンバーがトラックで回収してきたものです。

岡森本舗では冷やし金魚の売れ行きが好調で、ユニバーサル広告社も軒先を借りて輪投げや揚げ大福などの露店を出して貢献しました。

祭りが終わってから商店街の打ち上げに向かっていた杉山は、岡森ビルの前できつねの仮面をかぶった女の子に声をかけられます。

つい最近になってパソコンを使えるようになったという少女は、「ユニバーサル広告 杉山利史」と検索してここまでたどり着いたとのことです。

仮面の下から現れたのは自分にそっくりな切れ長の目で、杉山は思いっきり彼女を抱きしめるのでした。

花のさくら通り を読んだ読書感想

シリーズ第1弾では過疎地の村おこしを、第2弾では極道集団のイメージアップキャンペーンを。

これまでにもひと癖もふた癖もある顧客たちから数多くの無理難題を押し付けられてきた、ユニバーサル広告社のさらなるチャレンジが楽しいです。

駅からは歩いて15分くらい離れたところにあり、昼間から閑古鳥がなくシャッター通りには哀愁が漂っていました。

いやいやながらも商店街の活性化にひと役を買うことになり、地元の人たちの信頼を勝ち得ていく杉山が頼もしく見えてきます。

対立していたさくら通りと桜ヶ坂が歩みより、僧服を着た光照と十字架をつけた初音が抱き合うシーンが感動的です。

お祭りを成功へと導いた杉山に、ラストで待ち受けているサプライズにもホロリとさせられました。

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