著者:羽田圭介 2011年4月に河出書房新社から出版
不思議の国の男子の主要登場人物
遠藤(えんどう)
主人公。男子高校1年生。妄想は達者だが経験はない。
志賀尚美(しがなおみ)
高校3年生。 身長170センチで力もあり男に媚ない。
南(みなみ)
遠藤の小学校時代のクラスメート。中性的な見た目で女子から警戒されない。
山田美希(やまだみき)
南の彼女。中学2年生。 屈託がなく思ったことを口にする。
川田(かわだ)
遠藤の先輩。 ギターの腕前はプロ級。
不思議の国の男子 の簡単なあらすじ
男子校に通う遠藤は他校の文化祭で知り合った志賀尚美と、同い年のふりをして友だち以上で恋人未満な関係を続けています。
ダブルデートで距離を縮めるはずがかえって気まずくなってしまったために、文化祭でバンドをやって見返すつもりです。
文化祭は無事に終わってふたりはいい感じな雰囲気になりましたが、最後まで一線をこえることはありません。
不思議の国の男子 の起承転結
【起】不思議の国の男子 のあらすじ①
お茶の水にあるM大学付属の中学校からエスカレーター式に高等部へと進学した遠藤でしたが、男子校なのでなかなか異性とお付き合いするチャンスがありません。
ある時に女子高の文化祭に男友だち数人に無理やり連れて行かれて、その後の合同カラオケで何も歌わなかったのが志賀尚美です。
周りの女子メンバーからけしかけられた尚美が急接近してくると、遠藤はとっさに同じ高校3年生だとウソをついてしまいました。
それ以来ふたりはラブホテルで密会して、ボンテージ衣装に着替えてSMではなく「SS」ごっこをしています。
お互いにムチでたたき合ったり罵声を浴びせたりするだけで、それ以上の関係には発展することはありません。
遠藤が特殊な衣装やロープなどの小道具を購入している場所は電気街・Aにある、真新しいコンクリートで固められたタワー型のショップです。
ある時に店で買い物を済ませて出てくるところを、小学生時代の懐かしい顔に目撃されてしまいました。
【承】不思議の国の男子 のあらすじ②
3年ぶりに再会した南の背丈は見違えるほど伸びていて、髪の毛も校則に引っ掛からない程度に染めていて別人です。
受験が終わってからの春休み以来付き合っているという、2歳年下の山田美希とのツーショット写真を見せびらかしてきました。
ふたりに会ったら自分たちにも新しい発見が訪れるという尚美の提案によって、4人で渋谷へダブルデートに行ってみることにします。
美希はしゃべり方が年齢以上に幼くて、女子学生というよりも幼女にしか見えません。
女性としての魅力では尚美の方が勝ってはいるものの、「お互いに分かり合えている」という美希のひと言がショックだったようです。
気まずいムードが漂い始めた途端に尚美は先に帰ってしまい、それからというもの遠藤のメールに対しても返信をしません。
放課後にいつもファーストフードでたむろしている悪友たちに相談してみると、間もなく自分たちの高校で開催される文化祭の出し物でバンドをやってみることになりました。
【転】不思議の国の男子 のあらすじ③
楽器が弾けない遠藤のために協力してくれたのは、スタジオでレコーディングをしてお金を稼いでいる3年生の川田です。
寄せ集めのバンドが結成されてリードギターを担当するのは遠藤ですが、ステージの裏で川田に代わりに弾いてもらうために実際に演奏する訳ではありません。
文化祭の実行委員会に話をつけて体育館を使わせてもらい、遠藤はひたすらに空ピッキングの練習に励みました。
ライブに誘うメールを文化祭の1週間前に尚美に送信しましたが、当日の開演30分前になっても姿を現しません。
尚美が来ているのか判然としないままで本場がスタートしますが、遠藤は見た目だけは華麗なギタープレイを披露します。
ライブが終わってスタッフと一緒にお客さん客用のパイプ椅子を必死になって片付けている時に、赤いダッフルコートを着て近づいてきたのは尚美です。
空演奏も2歳年下なのもバレバレでしたが、大真面目な顔でギターを弾いていたのが格好よかったと喜んでくれました。
【結】不思議の国の男子 のあらすじ④
遠藤のバンド仲間や尚美の学校の友人たちは、ふたりのためにM大学の本校舎に挟まれた細い坂の先にあるホテルの一室を押さえていました。
著名人の披露宴や文豪が原稿を執筆することで有名なクラシックホテルで、いつものSSごっこで利用しているような休憩代3000円程度の安っぽいホテルではありません。
宿泊料金は前もってみんながカンパして前払い済みで、エントランスに入る時には紙テープまで投げ入れてくれます。
姉妹という設定で遠藤名義で予約を入れたようですが、フロントからは新婚のカップルのように見えていたでしょう。
部屋の中に入った途端にシックなソファと重厚な造りベッドに気圧されしたふたりは、いったん外に出て駅前の居酒屋で腹ごしらえをします。
食事中にM大学のワンランク上のJ大を目指しているという尚美の言葉を聞いて、遠藤はふたりの隔たり感じるばかりです。
明日はアルバイトがあると言い残して先に店を出た遠藤は、ホテルに戻ることなくA電気街のタワーへ向かって歩いていくのでした。
不思議の国の男子 を読んだ読書感想
男子校ならではのはち切れんばかりの妄想や、放課後に繰り広げられる見えの張り合いには笑わされるでしょう。
男子校のはみ出し者・遠藤と、女子高に溶け込めない志賀尚美とが寄り添っているような関係が不思議な味わいです。
たとえけばけばしいボンテージを身にまとっていても、心の奥底に秘めている尚美のピュアな気持ちが伝わってきます。
ギターも弾けない遠藤がにステージに立って、ありのままの自分をさらけ出す文化祭のシーンが痛快です。
あの歴史と風格のあるホテルで大人への階段を昇ってしまうのかと思いきや、ラストも高校生らしく健全に締めくくっていて好感が持てました。
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