「盗まれた顔」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|羽田圭介

盗まれた顔 羽田圭介

著者:羽田圭介 2012年10月に幻冬舎から出版

盗まれた顔の主要登場人物

白戸崇正(しらとたかまさ)
主人公。警視庁捜査共助課の刑事で階級は警部補。手配写真を記憶するのが得意。

須波通(すなみとおる)
白戸の元同僚。白戸を上回るほどの記憶力の持ち主。

林小麗(りんしゃおりー)
須波の恋人。在日2世の間で顔が広い。

王龍李(おうりゅうり)
中国系窃盗グループの一員。不法入国や不正送金にも手を染めている。

宮坂千春(みやさかちはる)
白戸の彼女。介護ヘルパーとして働きながら友人の飲食店も手伝う。料理が上手で所帯じみた性格。

盗まれた顔 の簡単なあらすじ

指名手配中の犯人を群衆の中から探し出す見当たり捜査に携わっていた白戸崇正は、殉職したはずの須波通の顔を目撃します。

須波が自分の存在を社会から抹殺したのは、愛する人を奪った中国系の犯罪グループと公安の大物に近づくためです。

すべてを明るみに出すために白戸と協力して報復を遂げた須波は、2回目の死を迎えるのでした。

盗まれた顔 の起承転結

【起】盗まれた顔 のあらすじ①

死んだはずの男の顔が浮かび上がる

白戸崇正の仕事は逃走中の手配犯500人の顔を脳の中に焼き付けて、人混みの中から見つけ出す「見当たり捜査」です。

新宿駅から歌舞伎町の周辺を巡回していた時に、大阪の民家で強盗殺人事件を犯した王龍李を見つけて検挙しました。

王の身柄を大阪府警に引き渡すために新幹線で護送しますが、新大阪駅のホームで毒物を注射されて殺害されてしまいます。

集まってきたやじ馬の中に一瞬だけ白戸が視界に捕らえたのは、かつては同じ見当たり捜査官として犯人を追い4年前に亡くなったはずの須波通です。

須波は林小麗という在日中国人の女性と付き合っていましたが、彼女は同胞の情報をひそかに公安当局に流していました。

密航やマネーロンダリングに関わっていた王が小麗を殺害したために、須波は職務を逸脱してチャイニーズ・マフィアに戦いを挑んでいきます。

まもなく須波らしき男の遺体がマフィアの構成員ふたりとともに発見されましたが、黒焦げだったために本人のものであるかは分かりません。

【承】盗まれた顔 のあらすじ②

闇の中で小耳をはさむ真実

久しぶりに二連休を取れた白戸は、5年前に知り合ってマンションでの同居生活を続けている宮坂千春と熱海に旅行にいきました。

高速道路に乗って時速100キロのペースで熱海インターを過ぎたあたりから、足立ナンバーの黒いセダンに追跡されていることに気が付きます。

温泉旅館に到着する頃にセダンはいつの間にか消えていましたが、白戸が異変を察知したのは客室に備え付けの急須の中に入っていたお茶を飲んだ時です。

睡眠導入剤をベースに細工した特殊な薬品が混入されていたために、視覚と聴覚には影響がなくても身動きが取れません。

闇の中から聞こえてきたのは紛れもなく須波の声で、4年前に発見された焼死体はやはり別人でした。

中国マフィアから狙われるようになっていた須波は自らの「死」を偽造するために、公安部員の川本に力を借ります。

その川本こそが林小麗を密告した張本人であること、さらには口塞ぎのために王龍李までも殺害したことを須波が知ったのはつい最近です。

【転】盗まれた顔 のあらすじ③

見つけてほしい逃亡者

「俺の顔を見つけろ」とだけ言い残した須波の姿は消えていて、朝になって目覚めた千春は何も覚えていません。

次の日から白戸はこれまで通りに捜査を続けますが、リストアップされた手配犯とは別に須波の顔も頭の片隅に入れておきました。

白戸が靖国通りを西方面へと向かって歩いている男の横顔に目を奪われたのは、護送中の容疑者を殺害された上に100日以上に渡って手柄を挙げていないために降格を覚悟し始めた頃です。

鼻を高くする美容外科手術を受けたようで眉の下にはシリコンも入れているようですが、顔の各パーツの配置や全体のバランスは須波と一致します。

白戸が尾行を開始すると、須波は京王線に乗って調布駅で降りた後にコインパーキングに停めてあったセダンで走り出しました。

タクシーをつかまえて後を付けると、多摩川の堤防からほど近い人気のないエリアの倉庫の中に入っていきます。

倉庫の中は小さな窓から入るわずかな光だけが頼りですが、その顔は須波で間違いありません。

【結】盗まれた顔 のあらすじ④

孤独な刑事は2度死ぬ

出頭してすべてを公にするように白戸が説得していると、銃を構えた公安部の捜査員が川本を先頭にして突入してきます。

警視庁の刑事の死亡をでっちあげて、公安で別人として活動させていたという違法行為を知られる訳にはいきません。

川本は須波を射殺しますが、須波がここまで乗ってきたセダンは殺人容疑で広域手配されている犯人の逃走車両です。

広域手配犯を確保するためにやってきた所轄や交番の警察官たちに、川本は殺人犯として逮捕されました。

川本が殺害したのは「須波によく似た男」として警察上層部は処理しようとしていますが、大手出版社が発行している写真週刊誌が「2度死んだ刑事」として報じたために少しずつ波紋が広がっていきます。

部下が大塚のパチンコ店でピッキング専門の窃盗犯を見つけて久しぶりに当たりがで出たために、白戸も当分の間は捜査共助課の第2班の班長を続けられそうです。

歌舞伎町から靖国通りへと向かういつかのコースを移動しながら行きかう人々の顔を眺めていた白戸は、一瞬だけ須波の笑顔を見たような気がするのでした。

盗まれた顔 を読んだ読書感想

卓越した推理力で真犯人を突き止める名刑事が登場するわけでもなく、派手なカーチェイスや銃撃戦が用意されているわけでもありません。

500人もの顔写真を貼り付けた小さな手帳とにらめっこしながら、一日中雑踏の中に立ち尽くす見当たり捜査官を主人公にした異色の警察小説です。

ベテランでも1カ月のうちに1人くらい逮捕に結び付けられれば上出来だという、ハードな捜査現場がドキュメンタリーのような迫真のタッチで描かれています。

死んだはずの同僚とのスリリングなコンタクトと、事件の背後に見えかくれする巨大な陰謀にも驚かされました。

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