「劫尽童女」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

「劫尽童女」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

著者:恩田陸 2002年4月に光文社から出版

劫尽童女の主要登場人物

伊勢崎遥(いせざきはるか)
ヒロイン。見た目は10歳くらいの少女。大学の一般教養クラスほどの学力があり運動能力も高い。

伊勢崎巧(いせざきこう)
遥の父親。 天才的な軍医。組織にとらわれず自分の研究を続けたい。

神崎貢(かんざきみつぐ)
情報収集に優れたルポライター。おじが身寄りのない子供たちのために修道院を運営している。

高橋(たかはし)
修道院のシスター。 ひそかに戦闘訓練を受けていて銃火器の扱いも得意。

ハナコ・エミー・ウエハラ(はなこ・えみー・うえはら)
アメリカ軍の科学者。 核兵器の危険性を訴えている。

劫尽童女 の簡単なあらすじ

極秘の研究所「ZOO」に反旗を翻した伊勢崎巧は、組織の追っ手を道ずれにして長野の別荘で亡くなりました。

伊勢崎博士の娘・遥はふたりの支援者とともに逃走を続けつつ、自らの能力を平和のために役立てようとします。

カンボジアで地雷除去に携わるようになった遥は、ZOOの残党を始末したあとひとり奥地へと消えていくのでした。

劫尽童女 の起承転結

【起】劫尽童女 のあらすじ①

炎に包まれた別荘で命運を分けた親子

長崎県で生まれて幼い頃から英才教育を受けてきた伊勢崎巧は14歳で大学への入学を許可されて、期待の軍医として手厚く育てられてきました。

国家機密を扱う施設「ZOO」で研究を進めていた矢先に、すべてのデータを持ち去って失踪してしまいます。

7年ぶりに伊勢崎博士が長野県に所有する別荘に舞い戻っているという情報を入手したZOOによって、現地へと送り込まれたのは「ハンドラー」と呼ばれる特殊工作員です。

ハンドラーたちはふもとにある管理人の家に忍び込んでカギを盗み出しますが、その管理人の女性こそがアメリカで性転換手術を受けた伊勢崎博士でした。

あらかじめ部屋に仕掛けてあったダイナマイトの爆発によって侵入者は一掃され、ガンに侵されて余命幾ばくもない伊勢崎博士も燃え盛る別荘から逃げるつもりはありません。

伊勢崎博士には動物並みの聴覚・運動神経を持たせた娘の遥がいて、生き延びた彼女は父が生前にスポンサーを務めていた聖心苑という修道院に預けられます。

【承】劫尽童女 のあらすじ②

聖夜の銃撃戦から疑似親子のマンション暮らし

クリスマスが近づくにつれて聖心苑ではお菓子を作ったりパーティーの準備に追われたりで忙しくなるために、外部から助っ人を呼んでいました。

園長のおいに当たる神崎貢もそのひとりで、企業や支援団体から寄付金を集めるためのパンフレットを作るライターです。

クリスマス・パーティーの前日にZOOが遥を狙って襲撃してきましたが、普段はおっとりとして涙もろいシスターの高橋が両手に構えた機関銃で敵を撃退します。

聖心苑を脱出した遥は海沿いの高台にある港西ニュータウンというマンションへ、神崎と高橋の3人で親子として住民票を偽造して転入しました。

香港やオランダなどいくつか亡命先を見つけてZOOの悪行を公表するつもりの神崎、遥の身に危険が及ぶと慎重論を崩さない高橋。

ゴールデン・ウィークに海外旅行客に紛れて日本を出国するために、いずれにしろ4月いっぱいでこのマンションを引き払わなければなりません。

退去が近づいてきた4月の下旬に老朽化した棟を解体中の立ち入り禁止区域で目撃されたのを最後に、遥は高橋と神崎の前から姿を消します。

【転】劫尽童女 のあらすじ③

海の向こうで起きた大惨事

高橋と神崎は必死に捜索を続けていましたが、遥の行方は1カ月以上経過しても分かりません。

ある日のことニューメキシコ州にあるアメリカ軍の核処理軍事施設で起きた爆発事故についてテレビが報じていて、神崎は遥が関係していることを直感します。

インターネットを介して施設の滞在者名簿を手に入れた神崎が気になったのは、ふたりの日系アメリカ人の名前です。

ひとりはハナコ・エミー・ウエハラで従軍科学者、もうひとりは彼女の息子・トオルで11歳の男の子。

ハナコとZOOに協力していた頃の伊勢崎巧との間に産まれたのがトオルで、遥と同じく不思議な力を秘めています。

遥とトオルがお互いの感応能力を使って核兵器を解体していた矢先に爆発が起こりましたが、ニューメキシコから離れた空母から遠隔操作で作業をしていた遥だけが無事です。

ハナコは事故に巻き込まれて亡くなる直前にZOOを告発した文書を残していたために、これ以上遥が狙われることはありません。

【結】劫尽童女 のあらすじ④

異国の地を救う女神

遥を母親のお墓がある長野県に連れて行ったのは高橋で、秘密の駆け込み寺として使われている施設で夫の暴力や債権者の取り立てから逃れてきた女性たちに紛れて生活していました。

寺の書斎にある仏教関係の本を読み漁っていた遥が、カンボジアに行きたいと言い出したために神崎が同行します。

名もない農村地帯を歩き回っていたふたりが出会ったのは、タイとの国境の近くで地雷除去活動にあたる民間非営利団体です。

地雷の位置を透視によって言い当てた遥は撤去作業に協力するようになり、いつしか「小さな女神」として通信社を通じて報道されます。

遥の生存を知り現地まで追いかけてきたのは、伊勢崎巧の別荘で火災に巻き込まれながら助かったただひとりのハンドラーです。

報復に燃えるハンドラーが銃を向けた瞬間に、地面に埋まっていた地雷が空中に浮かび上がり一斉に破裂します。

ハンドラーが消滅したことを見届けた遥は神崎と高橋への感謝を気持ちを述べて、たったひとり森の奥深くに続く道へと歩いていくのでした。

劫尽童女 を読んだ読書感想

長野県の閑静なムードが漂う別荘地に突如として響き渡るダイナマイトの音から、波乱に満ちた物語は幕を開けていきます。

自らが発明した兵器が悪用されないことを祈りノーベル賞を設立したという、19世紀の科学者アルフレッド・ノーベルに思いを巡らせてしました。

中盤に登場するニューメキシコ州といえば、広島に投下された原子爆弾を製造したロス・アラモス国立研究所で悪名高いです。

クライマックスの舞台となるカンボジアには内戦の傷あとが今でも残されていて、繰り返される科学の暴走に暗たんとした気持ちになるかもしれません。

ヒロイン・遥の純真無垢な心と、人類のすべての罪悪を許すかのようなラストは感動的です。

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