「エンド・ゲーム 常野物語」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

「エンド・ゲーム 常野物語」

【ネタバレ有り】エンド・ゲーム 常野物語 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:恩田陸 2006年1月に集英社から出版

エンド・ゲーム 常野物語の主要登場人物

拝島時子(はいじまときこ)
ヒロイン。 女子大生。

拝島暎子(はいじまえいこ)
時子の母。 商事会社「稗田物産」の部長。

拝島肇(はいじまはじめ)
時子の父。 元大学教授で現在消息不明。

火浦晃司(ひうらこうじ)
「洗濯屋」。

高橋伸久(たかはしのぶひさ)
暎子の高校時代の友人。 脳外科医。

エンド・ゲーム 常野物語 の簡単なあらすじ

拝島暎子と娘の時子には不思議な力があり、正体不明の存在と「裏返す」「裏返される」を繰り返しながらオセロ・ゲームの如く戦っています。母親を「裏返され」独りぼっちとなった時子が助けを求めたのは、「洗濯屋」と呼ばれる青年・火浦晃司です。火浦から自らに課せられた宿命を打ち明けられた時子は、全てを終わらせるための最後の試練に挑むのでした。

エンド・ゲーム 常野物語 の起承転結

【起】エンド・ゲーム 常野物語 のあらすじ①

眠り続ける母と残された娘

拝島時子の携帯電話がけたたましく鳴り響いたのは、12月19日の金曜日のことでした。

ディスプレイには母親・暎子の名前と番号が表示されていますが、受話器越しの若い女性の声には聞き覚えはありません。

秘書を名乗る彼女から母が倒れたと聞いて、時子は慌てて岐阜県の山奥まで駆け付けます。

暎子の勤め先は大手の商事会社「稗田物産」で本社は都内にありますが、 年末の慰安旅行がこの温泉地で開かれていました。

暎子には目立った外傷もなく脳波にも異常はありませんが、意識が戻ることはありません。

母が何者かに「裏返されて」しまったことを察知した時子は、もしもの時にかけるように言われていた電話番号を押します。

繋がった先は東京の私鉄沿線の駅前商店街に店を構える、何の変哲もない1軒の個人薬局です。

「一族」の中でも若くて優秀な、火浦晃司という名前の「洗濯屋」の居場所を教えてもらいました。

彼なら暎子を、「呼び戻す」ことが出来るかもしれません。

【承】エンド・ゲーム 常野物語 のあらすじ②

血と力を受け継いだ時子

火浦は無表情で黒曜石のような瞳をした青年で、彼の声を聞いた途端に時子は無機質で何もない「裏返された」世界に連れていかれます。

火浦の話によれば不思議な能力を受け継いだ常野の末裔たちは、代々一族の者以外と婚姻関係を結んでその血筋を広めてきました。

その不文律を破ったのが暎子であり、 10年以上も前に行方不明となった彼女の夫・肇です。

同じ能力を持ったふたりから誕生した時子には更に強大な力が秘められているために、敵から狙われるのは避けられません。

肇が自らの姿を消したのも、全ては大切な娘を戦いに巻き込みたくなかったからでした。

火浦は拝島一家にとって敵でも味方でもなく、「裏返す」「裏返される」という争いに関わることはありません。

洗濯屋の役割はただ対象者の記憶を遡って「洗う」ことだけで、 「裏返す」能力を消して普通の人生を送ることさえ出来ます。

時子の願いは母を呼び戻すことと、これまでのような何かに怯えた生活に別れを告げることです。

【転】エンド・ゲーム 常野物語 のあらすじ③

自らの記憶を辿る旅

時子ほどの潜在能力のある人間を「洗う」ためには、長野県の「洗濯」専門の場所まで足を運ばなければなりません。

年内には片付くという火浦の言葉を信じた時子は、 彼とふたりで過去への旅に出ました。

時子の目の前には、これまでの出来事がフィルムを逆回しにしたようになだれ込んできます。

社員旅行に出掛けていく暎子、大学生になったばかりのころ母と一緒に手作りしたケーキ、高校時代に初めて「裏返した」敵、幼少期に父が連れ去られた公園。

記憶の中で再会した父は、もともと暎子が常野一族ではなかったことを告白しました。

大学教授として教壇に立っていた若き日の父は、教室の中にいた教え子でもあり敵でもあった暎子を「裏返し」ます。

「裏返した」暎子は父と同じ能力を身に付けて、「洗濯屋」によって記憶を改竄されて一族に引き入れられた次第です。

娘の呼び掛けに応じて全てを思い出していた暎子が夫の名前「肇」を口にした瞬間に、「ゲームの終わり」が始まりました。

【結】エンド・ゲーム 常野物語 のあらすじ④

ゲームの終わりと新しい家族の始まり

1年後の12月22日水曜日、時子が婚約者の火浦とレストランに入ると高橋伸久が既に席に着いています。

少し遅れて3人に合流したのは、以前よりも若返ったかのような暎子です。

高橋は高校時代から暎子に憧れていましたが、まさかこの年になって彼女と再婚するとは夢にも思っていませんでした。

優秀な脳外科医として忙しい日々を送っていた高橋のもとに、暎子が倒れて2週間も意識が戻らないという連絡が舞い込んできたのは1年前のことです。

高橋が現地の病院に駆け付けた翌日に、全く唐突に暎子は目を覚ましました。

暫くの間に何か後遺症が出るのかと心配しているうちに、高橋は暎子に心惹かれていきます。

暎子の方も長い眠りを経て、失踪したままの夫に踏ん切りがついたようです。

来年の2月には親子合同の挙式が予定されていて、4人は家族となります。

新たな家族でもあり新たなゲームのプレイヤーでもある2組のカップルは、シャンパンでお互いの幸せを祝福するのでした。

エンド・ゲーム 常野物語 を読んだ読書感想

ある日突然に夫の肇が失踪しながらも、キャリアウーマンとしてステップアップしつつ娘を育て上げていく拝島映子が強く美しいです。

母親の意思を受け継いで得体の知れない相手に立ち向かっていく、娘の時子も魅力的なキャラクターに仕上がっています。

「裏返す」か「裏返される」かオセロのような、常野一族たちの間で繰り広げられるバトルが迫力満点でした。

超能力者を主人公にしながらも、ありきたりな家族のドラマも描かれていて楽しめます。

全ての戦いに決着が着いた後に、新たなゲームの始まりを予感させるようなクライマックスも圧巻です。

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