著者:坂口安吾 2015年7月に青空文庫PODから出版
外套と青空の主要登場人物
落合太平(おちあいたへい)
主人公。執筆活動を続けているが生活は苦しい。
生方庄吉(うぶかたしょうきち)
機械ブローカーで小さな工場も所有する。 取り巻きを自宅に招くのが好き。
生方キミ子(うぶかたきみこ)
庄吉の妻。不特定多数の男性と関係があり放浪癖もある。
舟木三郎(ふなきさぶろう)
庄吉の友人。 音楽家。新入りの太平に何かと絡んでくる。
青々軒(あおあおけん)
庄吉の友人。 講釈師。太平にも別け隔てなく接する。
外套と青空 の簡単なあらすじ
裕福な実業家の生方庄吉と貧乏な作家の落合太平が仲良くなったきっかけは、共通の趣味である囲碁を通してです。
庄吉の自宅に足しげく出入りするようになった太平は、誘われるままに妻のキミ子と深い仲になってしまいます。
短期間だけ太平と一緒に暮らしたキミ子でしたが、やがては姿を消してどこかへと旅立って行くのでした。
外套と青空 の起承転結
【起】外套と青空 のあらすじ①
生方庄吉と落合太平が知り合ったのは銀座の碁席でしたが、両者はまるっきり正反対の風貌をしていました。
庄吉の方は50歳を過ぎた立派な紳士で、高価な洋服に金のアクセサリーをつけて髪の毛はオールバック。
太平は売れない小説家で服装もお粗末なものでしたが、不思議とふたりは気が合いました。
ある日のこと太平が工場地帯にある狭苦しい殺風景なアパートで寝ていると、庄吉の妻・キミ子からの電話を受けて自宅へと招待されます。
講釈師の青々軒から俳優の小夜太郎、料亭を切り盛りするヒサゴ屋に目立たない音楽家の舟木三郎。
2日か3日ごとにキミ子に呼び出されてマージャンを打ったり酒を飲んだりする集まりでしたが、顔ぶれはだいたい同じです。
庄吉が新しく加入したばかりの太平を上座に座らせて、「わが第1の友」と呼ぶのが他のメンバーからすると面白くありません。
キミ子が小夜や舟木のことを「あなたがた擦れっ枯らしと」批判して、太平だけを「純粋な方」と持ち上げるのも一座が白ける原因のひとつです。
【承】外套と青空 のあらすじ②
いつものように例の呼び出し電話がかかってきたために、太平は夕暮れ時になって生方邸へと出向いてみました。
青々軒とヒサゴ屋がすでにホロ酔い気分で浪花節だの清元だのを歌って大騒ぎしていましたが、庄吉は10日間ほどの急な商用が入っていたためにいません。
舟木や小夜は来ないようで、青々軒もヒサゴ屋もどちらかというと太平に好意を示していたために今夜は無礼講です。
一同はそのまま青々軒の家へと繰り出しますが、キミ子は自分の家のような気安さで外套を脱いで火鉢にかざしています。
青々軒のおかみさんがふたり分の寝床をひいて引き上げていった時に、ようやく太平は男たちが過去にキミ子と関係を持っていたことに気がつきました。
そのまま太平と一夜を供にしたキミ子は、ひと月あまりも遊び回って夫のもとに帰ることはありません。
太平のアパートには庄吉からの手紙が舞い込んできて、何事もなかったかのように遊びに来てほしいとだけ書かれています。
【転】外套と青空 のあらすじ③
行方をくらませていたキミ子が舟木と服毒自殺を図ったものの、一命を取り留めたという事件が新聞の見出しをにぎわせています。
太平は朝から晩まで眠りこけていて、外に出るのも1日1度とる食事の時間くらいでした。
小型のトランクをぶら下げたキミ子がしばらく匿ってほしいと訪ねてきたのは、すべての木々がまぶしいほどの新緑にあふれた初夏の頃です。
庄吉が追いかけてくると困るからとキミ子は運送屋に話をつけていて、有無を言わせずに太平を別のアパートに引っ越しさせました。
多摩川のほとりで新しい生活をスタートしたふたりは、連日のようにボートを漕いで上流へとさかのぼったり釣りをしたりして楽しみます。
キミ子の釣りざおは青空の下で緩やかなカーブを描いていて、身につけているのは真っ白な腕をむき出しにした上着と短いスカートです。
太平はキミ子がもう2度と心中騒ぎを起こさないことを信じていましたが、ある日の夜に友だちに会ってくると行って出ていったきり帰ってきません。
【結】外套と青空 のあらすじ④
太平はわずかな望みに期待して庄吉のもとを訪ねてみましたが、キミ子はそこにはいません。
芝浦の方まで仕事に行かなければならないという庄吉は相変わらずお金をかけた洋服にカバンを下げていて、太平も途中までお供することにします。
長いあいだ無言で肩を並べて歩いていた庄吉の態度が、突如として急変したのはコンクリートの倉庫が建ち並んだエリアに差し掛かった時です。
庄吉は怒りに力を任せて太平に飛びかかってきて、のど元を押さえて両手でグイグイと締め上げてきました。
あまりの衝撃に一瞬だけ意識を失いかけた太平の脳裏に、初めて一夜を過ごした時に着ていたキミ子の外套と先日の青空の下の真っ白な腕と足が浮かびます。
いつの間にか庄吉の手からは力が抜け落ちていて、息も絶え絶えで一気に老け込んだ様子です。
今度一緒に温泉にでも行かないかと庄吉からは誘われましたが、太平にはどこに行っても同じことのような気がします。
あの外套もあの青空も二度と戻ることがないと確信した太平は、体全体に鋭い痛みを感じてため息をつくのでした。
外套と青空 を読んだ読書感想
おんぼろアパートの片隅で近所の工場から流れてくる騒音に悩まされながらも、黙々と小説を書いている主人公・落合太平のパッとしない後ろ姿が思い浮かんできました。
実業家としての社会的な成功とプライベートでは美しい妻のキミ子と、太平には持っていないものをすべて手にしている生方庄吉との友情が不思議です。
平々凡々と生きてきた太平が図らずも駆け落ちを決行してしまう伏線になっている、キミ子が身にまとっている高価な外套も怪しげな魅力を放っています。
未練がましい男たちを置き去りにして、キミ子が青空の彼方へと消えていくかのようなラストも忘れられません。
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