著者:池井戸潤 2017年5月に徳間書店から出版
アキラとあきらの主要登場人物
山崎瑛(やまざきあきら)
主人公。公立高校から有名大学に合格して産業中央銀行に入行。ハングリー精神の持ち主。
階堂彬(かいどうあきら)
瑛との同期入行組。裕福な家庭に生まれながらも自分の道を模索する。
山崎孝造(やまざきこうぞう)
瑛の父。町工場の経営者。
階堂龍馬(かいどうりょうま)
彬の弟。優秀な兄にコンプレックスを抱えている。
羽根田一雄(はねだかずお)
産業中央銀行の融資部長。瑛と彬の銀行員としての資質に気づく。
アキラとあきら の簡単なあらすじ
山崎瑛は小学生の時に父親が工場の経営に失敗しあちこちを転々としますが、苦学の末に大学を出て大手の都市銀行に就職しました。
同期入行の階堂彬は傾きかけた家業を救うために、銀行を辞めて商船会社の社長を引き受けます。
一流のバンカーへと成長した瑛の活躍によって巨額の融資が認可されて、彬の会社は危機を脱するのでした。
アキラとあきら の起承転結
【起】アキラとあきら のあらすじ①
ミカン畑の向こうに海が広がっている伊豆半島の山肌に、山崎瑛の父親・孝造が経営する工場がありました。
山崎プレス工業が倒産したのは瑛が小学5年生になった時で、一家は磐田市内で繊維問屋を営む母の実家に居候をします。
孝造は電機部品メーカーに技術者として再就職しますが、数千万円の債務から逃れるために自己破産したために生活は楽ではありません。
地元の公立高校に通うようになった瑛は苦しい家計もあって就職コースを考えていましたが、決め手になったのは父の「おまえは大学に行け」という言葉です。
必死に勉強して東大の経営学部に合格した瑛は、経営戦略セミナーで大学院生を抑えてトップの評価を記録しました。
このセミナーには大手都市銀行の産業中央銀行から講師が派遣されていて、瑛の評判は人事部の採用担当者の耳にも入ります。
産業中央銀行に就職を決めた瑛は3週間におよぶ新人研修をこなし、最後の5日間をかけて行われるのは融資戦略研修です。
【承】アキラとあきら のあらすじ②
新人行員の中でファイナルにまで残ったのは瑛のチームと、階堂彬という同じ東大出身者がいるチームです。
彬は明治時代にまでさかのぼるほどの海運業・東海郵船の経営者一族で、都内の進学校からストレートで東大に入りゴルフ部の主将を務めたことでも有名でした。
家業に縛られることを嫌った彬は、あえて商船会社とは無関係な銀行を就職先に選びます。
融資戦略プログラムのファイナルでは瑛は銀行側、彬は会社側に分かれて熱戦を繰り広げて大盛り上がりです。
ふたりの名前は融資部長の羽根田一雄の目にも留まり瑛は八重洲通り支店、彬は本店とそれぞれ出世コースに配属されました。
東海郵船の方は彬の弟・龍馬が社長の座に就任しましたが、バブル崩壊の最中で海運業界の運賃相場は崩れ始めています。
龍馬はプライドが高くワンマン経営に陥りがちで、社長としての経験が不足している面も否めません。
極度の疲労から総合失調症にかかり入院した龍馬の代わりに、社長の打診を受けたのは彬です。
【転】アキラとあきら のあらすじ③
人事部に辞表を提出した彬は東海郵船の社長を引き受けて、これまでの粉飾やずさんな経理処理の見直しを一新させます。
人事評価や縦割り意識の強かった組織のシステムを見直して、取引先の信頼回復とコスト削減を実行する社内チームを結成しました。
前任の龍馬社長は赤字のリゾート事業にも手を出した揚げ句に連帯保証人になっていたことを、メインバンクの産業中央銀行にも話していません。
社長に就任して早々に謝罪のため銀行に訪れた彬を出迎えたのは、いま現在では営業本部で次長の肩書きを持ち東海郵船の担当をしている瑛でした。
彬は赤字を垂れ流し続けているリゾートホテル・ロイヤルマリン下田を黒字にするために、産業中央銀行から140億円もの融資を取り付けるつもりです。
営業本部の部長でもあり瑛にとっては上司にあたる不動は、保守的で甘い将来予測は決して信じません。
銀行に融資を認めさせるための稟議書を書くのは瑛でしたが、この案件が認可されるのは極めて厳しい見通しです。
【結】アキラとあきら のあらすじ④
瑛の勝負をかけた稟議書には、緻密な分析と創意工夫に富んだ資料が添付されていました。
東海郵船とはいったいどんな会社なのかどうあるべきなのか、今までいかに不本意な方向性に進んでいたのか。
なぜそこまで東海郵船にこだわるのかという不動部長の問いかけに対して、瑛はなぜ自分が銀行員になったのか告白します。
かつて自分の父親が会社を経営していたこと、家族や従業員を守るために銀行の支店長に融資を頼みにいったこと、あっさりと断られて倒産してしまったこと。
会社ではなく人間に金を貸したいという瑛の言葉によって、産業中央銀行から東海郵船に140億円の融資が実行されました。
黒字経営に回復したロイヤルマリン下田に遊びに来てくれと彬から誘われたのは、それから5年後のことです。
ホテルは海岸の曲がりくねった道を抜けた先にあり、瑛は途中で山崎プレス工業があった土地へ寄り道をします。
工場も住んでいた家も撤去されていましたが、瑛は幼い頃のままのミカン畑の急斜面と光を浴びて輝く海を眺めるのでした。
アキラとあきら を読んだ読書感想
片方は小さな町工場の息子として生まれて夜逃げも同然で親戚の家をたらい回し、もう片方は大きなお屋敷で大勢の使用人にかしずかれて何不自由ない暮らし。
まるっきり正反対の少年時代を送ってきたふたりの「あきら」が、時にライバルとして時には不思議な絆で結ばれながら成長していく姿が感動的です。
ふたりが就職した産業中央銀行と聞けば、池井戸潤のベストセラー「半沢直樹」シリーズを思い浮かべてしまうでしょう。
銀行員として自分の道をゆく山崎瑛と、東海郵船の社長の座につく宿命から逃れられなかった階堂彬とのコントラストが心に残ります。
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