「ようこそ、わが家へ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|池井戸潤

ようこそ、わが家へ(池井戸潤)

【ネタバレ有り】ようこそ、わが家へ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:池井戸潤 2013年7月に小学館から出版

ようこそ、わが家への主要登場人物

倉田太一(くらたたいち)
銀行からの出向でナカノ電子部品で総務部長をしている。温厚でやや小心という意識がある。

真瀬博樹(ませひろき)
倉田と同世代。ナカノ電子部品の営業部長。敏腕営業部長。押しが強く弁舌が立つ。倉田を軽んじている。銀行嫌い。

西沢摂子(にしざわせつこ)
倉田の部下。ナカノ電子部品の経理担当。

倉田健太(くらたけんた)
倉田の息子。大学生。

ようこそ、わが家へ の簡単なあらすじ

小市民的な男倉田は、ある日駅のホームでマナーの悪い男を注意します。その男に逆恨みされたらしい倉田はあとをつけられ、その日以降家周辺で嫌がらせとストーカー行為がはじまります。仕掛けられる盗聴器、車へのいたずら、家への侵入、しかし確たる証拠がないため警察は動きません。そして職場でも営業部長が行う不正に気がついてしまう倉田。真面目一徹な倉田は、平穏な生活を取り戻すため動き始めるのでした。

ようこそ、わが家へ の起承転結

【起】ようこそ、わが家へ のあらすじ①

いやがらせのはじまり

ある日倉田は駅で若い女性を突き飛ばして順番を抜かした男を注意します。

温厚でもあるけれど小市民な倉田はそのことをやりすぎてしまったと不安になります。

その帰宅途中、倉田は男につけられていることに気がつきます。

男をまいたと思う倉田でしたが、不安は膨らみ情報共有として家族にも話をして注意を促していました。

翌日家の花壇が踏み荒らされており倉田家は不安を感じずにはいられません。

倉田は青葉銀行から出向し、ナカノ電子部品で総務部の部長として働いています。

倉田の部下である西沢が、二千万円分のドリルの在庫が帳簿と数が合わないと言います。

社の一階にある倉庫にもなく、担当になっている営業部長真瀬に問い合わせます。

真瀬ははなから倉田を軽んじて対応しません。

弁が立ち敏腕営業で社長持田の覚えもめでたい真瀬。

彼には交通費の二重取りなどおかしなところがあるようだと西沢は言います。

しかしその後真瀬と懇意の平井がミスをしたといいドリルの現物がなかったはずの倉庫から出てくるのでした。

西沢は納得しません。

帰宅した倉田は娘の七菜から家の前に男が立っていると言われます。

外を見ると誰もいませんが、例の男ではないかと倉田は周辺を歩いてみることにします。

結局男は見つからず、帰宅途中の息子健太から、例の男はまともではないから無闇なことはやめるように注意されてしまいます。

二人が帰ると豪雨になり今日は何もないだろうと思うも、翌朝、郵便受けに子猫が入れられていました。

幸いにも子猫は生きており倉田家の一員となりました。

【承】ようこそ、わが家へ のあらすじ②

ドリルの謎

二千万円分のドリルのことが気になる倉田。

業績会議でも在庫として扱われるはずのドリルのことが資料になんの記載もありません。

そのことを聞くと曖昧な返答をする真瀬に嫌な物を感じます。

西沢は真瀬が交通費を二重で受け取っている言質を取引先の経理から取ります。

倉田の追及に一度はそのことを認めた真瀬ですが、社長からそんな事実はないと逆に倉田がお叱りを受けるのでした。

倉田は例のドリルが気になり、配送課の江口に確認を取ります。

例のドリルは型番が古く、廃棄ドリルなのではないかと彼は言います。

倉田は真瀬が会社を騙しているのではないかと考えます。

倉田家では健太が例の男が来た証拠を残そうとカメラを構えていました。

その晩、男の姿は見られませんでしたが、車に傷がつけられており警察に届けることになりました。

事情は話したものの確たる証拠はないため警察はさほど動きそうにはありません。

倉田家では防犯カメラを購入します。

真瀬に不信感がある倉田は相模ドリルを調べ、業績があまり良くないことを知ります。

倉田は西沢に相談し、廃棄ドリルのことを真瀬にぶつけてみます。

真瀬は一旦は慌てたものの廃棄ドリルが誤配だと言い、すぐに新しいドリルが納入されました。

マージンを受けているのではと思い銀行に探りを入れます。

しかし真瀬は給与口座として社員はみな持っているはずの青葉銀行の個人口座を持っていませんでした。

どうやら真瀬には与信関係の問題があるようです。

帰宅する倉田へ七菜から連絡が入り、今度は車のタイヤが全てパンクしたと連絡が入ります。

警察にも連絡し、防犯カメラの映像を見るとマスクと帽子を被った男が映っていました。

近隣をよく走るタクシー運転手から、豪雨の日不審な男をタクシーに乗せた話を聞くことができます。

その男は武蔵小杉に住んでいるようでした。

男はどうやら家に入り込み現金も盗んでいるようです。

しかし確証がない事件に警察は動きません。

【転】ようこそ、わが家へ のあらすじ③

犯人は違う男

営業部から新規取引予定と連絡のあった株式会社イーグル精密機器。

倉田は業績に不安があるので反対しますが、真瀬が強く押します。

銀行で探りを入れるも取引はやめたほうが良いと言われます。

真瀬を信頼する持田は倉田の考えを軽んじて相手にしません。

一方倉田家では例の男がピッキングで家に入り込んでいるなら盗聴もしているのではと考え盗聴器を探し始めます。

盗聴器は三つ発見され、その中の一つは妻が友人からもらったものでした。

盗聴器は外さずに犯人を騙しておこうと健太は提案します。

その後健太の大事にしていた自転車が破壊され、怒り心頭の健太は武蔵小杉で犯人をまちぶせる計画を立てます。

倉田と健太、七菜の三人でみはり、犯人に似た男を見つけますが捕まえることはできませんでした。

会社では営業部のミスのため三千万近くが入金されない自体に陥ります。

悪びれない真瀬にさすがの倉田も激昂します。

その補填で銀行へ向かうとイーグル精密機器に関して再度忠告を受けます。

不安を感じる倉田は真瀬にイーグル精密機器に関して取引の譲歩案を出しますがそれも突っぱねられます。

倉田は真瀬の過去を調べ始めます。

真瀬はもともと会社を起こしており、そこが倒産してナカノ電子部品に入ったことがわかります。

持田にイーグル精密機器に関して進言すると、イーグル精密機器はもうすぐ買収され業績は回復すると真瀬が言っているというのです。

会社も例の男のことをうまく行かない倉田は落ちこみます。

倉田家は例の男を盗聴器を使っておびきそうと考えていました。

男は留守だと思った倉田家に侵入。

倉田と健太で追いかけますが、健太が胸を刺されます。

健太の命は助かり犯人も捕まりますが、それは例の男ではなく健太のバイト先の人間でした。

男は健太が例の男の話を聞いており、それを利用して倉田家に嫌がらせをしていたのです。

イーグル精密機器が不渡りを出し、社長が逃げたことがわかります。

【結】ようこそ、わが家へ のあらすじ④

真瀬のたくらみ

相模ドリルからナカノ電子部品に納入されたドリルはイーグル精密機器に売却され、そこから新潟半導体という会社に納入されました。

新潟半導体は相模ドリルから直接ドリルを買わなかったのか疑問が生じ、倉田は新潟半導体に問い合わせをします。

しかし新潟半導体は相模ドリルから直接仕入れたと言っています。

倉田は再度シータ電気と真瀬を調べます。

真瀬は会社を清算する際、家を抵当に入れるていました。

家を取られそうになった際、肩代わりを相模ドリルがしていたのです。

一つの仮説にたどり着いた倉田は、イーグル精密機器の買収話が嘘だったことを証明するため、社長の前で企業買収に詳しい野中の口を割らせることにします。

三人で話すはずの予定が真瀬も入り込んできます。

しかし倉田は辞める覚悟で持っている情報を全てぶつけます。

倉田は真瀬が相模ドリルと共謀して、倒産企業を挟んだ架空取引に及んだと考えていました。

刑事事件になるだろうと野中に揺さぶりをかけると、彼は真瀬から頼まれたと口を割りました。

真瀬は相模ドリルの社長のすすめでシータ電気を起業していました。

相模ドリルの社長は真瀬の営業力を評価しており、シータ電気を清算する際も助け、ナカノ電子部品に入って自社と取引するよう頼んでいたのです。

相模ドリルに益が出るように取引し、真瀬は社長に肩代わりしていた借金を返済していたのです。

社長は架空取引で生じた損を補填すれば刑事事件にしないと決めます。

一方健太は武蔵小杉で犯人を追った時、健太は自分の知り合いだと気がついていました。

そして逆襲しようと彼のことを調べ、車を傷つけるなどをしていたのです。

倉田は再び例の男と再会します。

男に詰め寄り腹を蹴られた倉田。

男には逃げられてしまいますが、その日倉田家のポストがスプレーで赤く落書きされていました。

防犯カメラに映っていた男の画像から犯人を割り出すことに成功し例の男を逮捕することができました。

ようこそ、わが家へ を読んだ読書感想

池井戸潤といえば企業ものですが、この作品の主人公は等身大かつ平凡感のある倉田という男です。

小市民で銀行での出世レースに負けてしまったと自分のことを見ています。

そんな倉田が巻き込まれる会社の不正とストーカー騒ぎ。

どちらかといえば善良で知性もあり嫌味もない、頼り甲斐はなさそうでトラブル対応には不安を感じさせる倉田の奮闘にハラハラしてしまいます。

けれども嫌悪感はなく、好感が持てる主人公です。

平均的な能力値を持つ、円満家庭の「お父さん」のような倉田を応援したくなります。

何より倉田はその性格が可愛いらしさのあるおじさんとして描かれています。

会社の不正に気がついたのに勢いで負けてしまったり、言い返しても良さそうなところで飲み込んでしまったり、不甲斐なくもみえますがそれが倉田らしいとも言えます。

そこから最後に倉田が不正に本気で物申す姿はカタルシスがあります。

また子供に対してとちゃんと向き合ったり、要所要所は抑えたきちんとした大人で安心感があります。

倫理的に破綻した相手と、きちんとした倉田。

そういう真面目な倉田が勝利するのは良い読後感です。

もちろん真面目な倉田は事件解決を勝ったと意識しているわけではありません。

社会の歪みに憂鬱になるその姿は、家族からも本人も「お人好し」と思われています。

しかし家族からも好ましく思われ、周囲からも好意的に見られています。

結果として倉田は強いお父さんになったわけではありません。

相変わらず平凡で気が弱いお父さんのままですが、それでもそのまま事件を解決できたことが倉田にとっては自分を肯定することにも繋がりました。

会社員として生きていると会社の評価を重視してしまいます。

倉田は事件解決をきっかけに自分の評価を上方修正できたのです。

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