「封印」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|黒川博行

封印 (文春文庫) 黒川 博行

著者:黒川博行 1992年12月に文藝春秋から出版

封印の主要登場人物

酒井宏樹(さかいひろき)
主人公。横須賀生まれの元プロ・ボクサー。津村商会の専務。

津村健三(つむらけんぞう)
パチンコ台の販売を手掛ける会社の社長。

津村理恵(つむらりえ)
津村の娘。大学の文学部で美学を専攻する。

水口邦夫(みなぐちくにお)
津村のかつての部下。 予想屋。

久野昌義(くのまさよし)
警察OB。 大阪のパチンコ業界に絶大な影響力を持つ。

封印 の簡単なあらすじ

ボクサーを引退して釘師になった酒井宏樹が巻き込まれたのは、警察官の不祥事を記録したビデオテープを巡る争いです。

日頃からお世話になっている津村健三を助けるために、娘の理恵と協力しながら監禁場所の和歌山へとたどり着きます。

津村を無事に救出して大阪へと帰ってきた酒井は、パチンコ業界から身を引いて理恵と生きることを選ぶのでした。

封印 の起承転結

【起】封印 のあらすじ①

 

ボクサーを諦めてパチンコ業界に参入

横須賀から北九州市の中学校へ転校した酒井宏樹はいじめに遭うようになり、南小倉駅の裏にあるジムでボクシングを始めるようになりました。

トレーニングを怠けることは1度もなく練習生の中でもホープと目されるほど力をつけてきて、高校を卒業すると同時にプロテストに合格します。

ジュニア・ライト級で新人王となり大阪でも有数の大手ボクシングジムへと移籍した酒井を待ち受けていたのは、網膜裂孔によるドクターストップです。

ボクサー生命を絶たれてすさんだ生活を送っていた酒井に、アルバイト先のパチンコ店の総支配人・津村健三が優しく声をかけてくれました。

ケンカをするな、反社会的勢力の構成員と付き合うな、おふくろさんを泣かせるな。

3つの約束ごとを交わした後で、津村は8年間に渡ってボクサーとして鍛え上げてきた酒井の右腕を「封印」します。

メーカーからパチンコ台を仕入れてチェーン店に納品している津村の下について、酒井が学んだのは台のメンテナンスと釘師としてお金を稼ぐことです。

【承】封印 のあらすじ②

 

久しぶりの再会と消えた恩師

なんば駅へ行く途中にある虹の町と呼ばれる繁華街で、酒井はかつての同僚・水口邦夫と10年ぶりに再会しました。

津村商会が設立されて時にふたりとも同期で入社しましたが、水口は仕事を覚えようともせずに預かった手付金を着服して解雇されています。

久しぶりに水口と酒を飲んで名刺を渡したその日から、酒井の身の回りではトラブルが続出です。

伊島茂樹という黒いベンツに乗った強面の男に尾行された揚げ句に、水口から預かった封筒を返せと迫られますが心当たりがありません。

津村とも連絡が取れなくなった酒井は、大学に通いながら京橋で独り暮らしをしている娘の理恵のアパートへと向かいました。

警察に保護捜索願いを出そうとする理恵を何とか思い止まらせた後で、酒井は梅田のパチンコ好きが集まる喫茶店へ向かいます。

予想屋をしていて月に70万円以上の荒稼ぎをしている水口は、フィリピン人のホステスにワンルームマンションを借りてあげるほど景気が好いそうです。

西区の新町にあるマンション見つけますが、キャサリンという名前の愛人は水口とは2週間近くも会っていません。

【転】封印 のあらすじ③

 

10年前のスキャンダル

失踪する直前に水口はオランウータンのぬいぐるみをキャサリンにプレゼントしていて、背中の縫い目をナイフで切り裂いた酒井が見つけたのは1本のビデオテープです。

デッキを借りてテープを再生してみると、10年前に津村が堺で営業していたゲーム喫茶の店内が映っていました。

防犯カメラにはふたりの男が押し入り、この店で店長を任されていた水口に暴行を加えてゲーム機から現金を奪い取る一部始終が録画されています。

ふたり組は現職の警察官で、事件のもみ消しを図ったのは久野昌義という当時は河南警察署の署長を務めていた警視正です。

警察を退職した後に久野は、公共遊戯調査会というパチンコ店の認可を審査する団体の専務に就任しました。

今になってテープの存在をした水口が津村の自宅から勝手に持ち出して、久野をゆすり始めたことが全ての発端です。

裏社会とも深いつながりを持つ久野は、京都に事務所を置く翠道企画のナンバーツーである伊島を使って全てを闇に葬り去ろうとしています。

酒井はテープと引き換えに、伊島から津村が監禁されている和歌山県白浜のリゾートマンションの住所を聞き出しました。

【結】封印 のあらすじ④

 

解き放たれた拳の封印

津村の監禁場所は12階の8号室で、酒井は屋上のフェンスからバルコニーに飛び移って部屋の中へと突入しました。

屈強なボディーガードを前にした酒井は右手の封印を解いて立ち向かい、津村を救出して国道を歩いていたところを警官に保護されます。

逮捕された久野の供述によって能勢の山林に埋められた水口の遺体の捜索が始まり、発見されたら元警視正による犯罪として新聞ダネになることでしょう。

近くの白浜町内の病院で手当てを受けていた酒井を、愛車のミニを走らせて迎えにきてくれたのは理恵です。

理恵の運転で羽曳野市内の自宅まで送ってもらうと、タイミングよく伊島から電話がかかってきました。

久野が捕まった今となっては値打ちが無くなったと判断した伊島は、テープを小包にして酒井に送りかえすそうです。

腕っぷしを見込まれた伊島からは1度京都まで遊びに来るように誘われますが、酒井は極道になるつもりはありません。

伊島が送り返してきたテープを処分して釘師を辞めた後に、この部屋で理恵とふたりで暮らすことを決意するのでした。

封印 を読んだ読書感想

物語の舞台になっているのは1990年代半ばの大阪の下町で、にぎやかな街並みと行き交う人たちの多様性が味わい深いです。

あと一歩で日本チャンピオンにまで迫りながらも、今ではパチンコ台の釘をたたいて回る主人公・酒井宏には哀愁が漂っています。

普段は物静かながらも義理人情には熱くて、いざというときには拳を握りしめて闘志を燃やす姿が勇ましく映りました。

全てが終わって戦いに疲れ果てた酒井を優しく受け止めてくれる、純真なヒロイン・津村理恵にも癒やされます。

退職した警察官とギャンブル業界との根深い癒着体質にも、鋭くメスが入れられていて考えさせられるストーリーです。

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