著者:伊坂幸太郎 2002年7月に新潮社から出版
ラッシュライフの主要登場人物
黒澤(くろさわ)
主人公。独自の美学を持つ泥棒。
河原崎(かわらざき)
奨学金で学校に通う学生。 怪しげな宗教に填まっている。
京子(きょうこ)
心理カウンセラー。サッカー選手の青山と不倫中。
豊田(とよだ)
無職。 離婚した妻との間に小学生の息子がいる。
戸田(とだ)
画商。 目的のためには手段を選ばない。
ラッシュライフ の簡単なあらすじ
仕事を失い泥棒に手を染めようとしていた佐々岡は、大学生の頃の友人・黒澤と再会したことで妻の京子と離婚します。
夫に見捨てられで浮気相手も裏切られた京子は、カルト教団内部で起きたバラバラ殺人にも巻き込まれて散々です。
京子が悪用するつもりだった拳銃を手にした豊田は、お金で何でも買えると信じていた戸田を懲らしめるのでした。
ラッシュライフ の起承転結
【起】ラッシュライフ のあらすじ①
画商の戸田は無名の画家・志奈子を得意先に紹介するために、東北新幹線のグリーン車を1両貸し切りにして仙台へ向かっていました。
戸田によって自身が立ち上げる予定だった画廊をつぶされた佐々岡は、泥棒に身を落として仙台市内のマンションに忍び込みます。
室内を物色している時に運悪く家主が帰ってきてしまいますが、大学時代の友人で同業者でもある黒澤だったために通報されることはありません。
黒澤の部屋の隣ではカルト宗教の信者・河原崎が、教団のナンバー2の塚本に唆されて教祖の高橋の遺体を解体中です。
佐々岡の妻・京子はカウンセリングを受けにきた患者の青山と浮気をしていて、ふたりで青山の妻を拳銃で殺害して泉ヶ岳に埋めるつもりでした。
京子はインターネットの裏サイトで拳銃を購入しますが、受取先のコインロッカーの鍵を落としてしまいます。
伊達政宗の銅像の脇で落ちていた鍵を拾ったのは、デザイン会社をリストラされて就職活動に苦労している40代の豊田です。
豊田はロッカーを開けて中に入っていた拳銃を持ち出し、自分をリストラした人事担当者の舟木を撃ちに行くことにしました。
【承】ラッシュライフ のあらすじ②
駅の中をうろついていた1匹の野良犬が豊田の跡をついてきて離れないために、仕方がないので犬を連れたまま舟木の自宅へと向かうことにします。
部屋には黒澤が空き巣に入ったばかりで、すっかりパニックになった舟木は見てるだけで哀れで殺す気もありません。
間もなく遺体の解体が終わりそうな河原崎が部屋のテレビで見たのは、生放送番組に出演している高橋の姿です。
塚本は河原崎をバラバラ殺人事件の犯人に仕立て上げて、公開放送で高橋に犯人の名前を当てさせるつもりでした。
騙されたことを知った河原崎は突発的に塚本の首を絞めて殺害してしまい、バラバラ遺体を入れたスーツケースと一緒に泉ヶ岳に埋めに行きます。
塚本の遺体を人目に付かない林の中に始末しようとしたまさにその瞬間に、車で通りかかったのは京子と青山です。
ひき逃げをしてしまったと勘違いした京子たちは、塚本の遺体をトランクに積み込んで走り去ってしまいました。
河原崎は何とか追い付いて塚本の遺体を取り戻しましたが、バラバラ遺体の入ったスーツケースをトランクに置き忘れてしまいます。
【転】ラッシュライフ のあらすじ③
トランクの中に入っていたひき逃げ遺体が、いつの間にかバラバラになっていたと京子は思い込んでしまいました。
さらにはトランクには青山の妻が隠れていて飛び出してきたために、バラバラ死体がくっついたように見えてしまいます。
あらかじめ打ち合わせしていた青山夫妻にやり込められてしまった京子は、黒澤と再会して吹っ切れた佐々岡からも電話で離婚を告げらるなど踏んだり蹴ったりの1日です。
仙台駅前の展望台には「特別な日に」とポスターがぶら下げられていて、エッシャーの絵画展が開催されていました。
京子はエレベーターで展望台へ昇って飛び降りることにしますが、分厚いガラスに阻まれた揚げ句に警察に連れていかれます。
不良少年のグループに絡まれていた豊田と犬を車で拾って助けてくれたのは、泉ヶ岳から引き返してきた河原崎です。
仙台駅前で豊田と犬を降ろした河原崎は、塚本の遺体を助手席に乗せたままひたすら国道を北へと走り続けます。
このまま宮城県をこえて岩手県へ行き、人間の人生などとは比べ物にならない岩手山の堂々たる姿を眺めるつもりでした。
【結】ラッシュライフ のあらすじ④
新幹線内にアナウンスが放送されて5分程度で終着駅の仙台へと着こうかという頃、戸田が志奈子に提案してきたのはひとつの賭けです。
仙台へ着いて最初に会った人が1番大切にしているものを金で買う、相手が取引に応じれば戸田の勝ち、断れば志奈子の勝ち。
負けた方は勝った方の命令を聞かなければならないという危険なギャンブルに、志奈子は一か八かで挑むことにしました。
自動改札を通ったふたりが出会ったのは豊田で、戸田は彼が1番に大切にしているという犬を譲るように頼みます。
絶対に犬を手放してはいけないと悟った豊田は、必要な額を今すぐに渡すという戸田の申し出にも応じることはありません。
ついには脅し文句を並べ立てて力強くで犬を奪い取ろうとしてきた戸田に、豊田が突き付けたのは拳銃の銃口です。
誰よりもラッシュライフ(豊潤な人生)を送っていると信じてきた戸田は、初めての敗北感を味わってその場に立ち尽くすしかありません。
拳銃をカバンの中に閉まって犬とともに立ち去っていく豊田に、志奈子は「良い人生を」とエールを投げ掛けるのでした。
ラッシュライフ を読んだ読書感想
ジャズ・サックス奏者ジョン・コルトレーンの名演奏、「豊潤な人生」から取ったタイトルが美しいです。
一見すると無関係にも思える人たちの運命が、巧妙に張り巡らされた伏線によって絡み合っていく展開に引き込まれます。
仙台駅のペデストリアンデッキに伊達政宗の銅像、アエル展望台テラスから泉ヶ岳までと観光スポットがめじろ押しで楽しいです。
泥棒でありながら正義感と優しさを失うことのない、伊坂幸太郎の名物キャラクターである黒澤の活躍も見逃せません。
負けっぱなしの人生を送ってきた冴えないリストラ男の豊田が、勝ち組の戸田をギャフンと言わせるラストが痛快でした。
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