著者:辻村深月 2015年6月に文藝春秋から出版
朝が来るの主要登場人物
栗原佐都子(くりはらさとこ)
41歳の専業主婦。長い不妊治療の後、朝斗を養子として迎える。
栗原清和(くりはらきよかず)
41歳。建築会社に務めている。無精子症。
片倉ひかり(かたくらひかり)
中学生の時に朝斗を身ごもり出産。両親の意見で養子に出すことに。
栗原朝斗(くりはらあさと)
ひかりが中学生の時に産んだ子供。特別養子縁組によって栗原家と出会う。
朝が来る の簡単なあらすじ
ある日、栗原家に息子の実の母親である片倉ひかりを名乗る女性から電話がかかってきます。
それは子供を返して欲しい、それが出来ないならばお金を要求するというものでした。
後日、栗原家にて話し合いをしますが、やってきたのはひかりと似ても似つかない女性でした。
本当にこの人物が息子の母親なのか、と確認する前に女性は逃げ出してしまいます。
そしたその後、栗原家に来た刑事の話からあの女性は本当にひかりだったことを知ります。
栗原佐都子は彼女の複雑な事情を知り、朝斗と共に彼女を探し、強く抱きしめるのでした。
朝が来る の起承転結
【起】朝が来る のあらすじ①
栗原佐都子と栗原清和は養子として引き取った子供、朝斗と共に3人で仲良く暮らしていました。
そんな平和な日々を送る栗原家に突然無言電話がかかってくるようになってしまいます。
電話の相手はいつも声を発することなく電話を切るので佐都子はイタズラだろうと迷惑に思いながらもやり過ごしていました。
とある日、またいつものように無言電話がかかってきます。
しかしその日はいつものようにすぐには切れず無言電話の相手は何とも物騒な事を言い始めるのです。
それは自分は朝斗を産んだ片倉ひかりであること、朝斗を自分の元へ返して欲しいこと、それが嫌ならばお金を払え、という内容でした。
佐都子は思いがけない相手からの電話に戸惑いつつも、直接会って話をしようと持ちかけます。
そして栗原家に片倉ひかりと名乗る女性が訪れ、佐都子と仕事を休んだ清和がひかりに対面します。
片倉ひかりと名乗る女性は明るく染めた髪の毛の生え際は黒くなっており、覇気のない暗い雰囲気を醸し出していました。
しかし佐都子と清和は以前1度だけ会った事のある14歳のひかりの面影を全く感じない目の前の女性に違和感を覚えます。
そこで清和はひかりに「あなたは誰ですか」と問いかけました。
また、ひかりは電話口で、要求に応じなければ朝斗が栗原家と血がつながっていない子供である事を小学校にもばらすと話していましたが、朝斗はまだ幼稚園に通っているのです。
普通ならばいくらなんでも自分の産んだ子供の年齢くらいは覚えているはずだ、と佐都子達は初めからひかりを名乗る女性を信じていませんでした。
そして佐都子は実の親であるひかりを栗原家では広島のお母ちゃんと呼び親しんでいる事やひかりからもらった一通の手紙について話します。
そこへ佐都子のママ友に連れられて朝斗が帰って来ました。
清和に朝斗と会うかどうかを聞かれたひかりは硬い表情のまま「私は、朝斗の母親ではない。」
と答え出て行くのでした。
【承】朝が来る のあらすじ②
ここからは栗原家のお話です。
佐都子は34歳の時に不妊治療を始めますが、なかなか思うようにいかず、体に問題があるのではと疑った佐都子は清和と共に検査を受けることにします。
その結果、清和が無精子症という病気である事を知ります。
それでも2人は子供を諦めることなく不妊治療に励みますが、ある時限界を感じた2人は子供を作ることを諦め、夫婦2人きりで生きていくことを決めます。
しかし、そんな時ベビーバトンという特別養子縁組の仲介をしている団体と出会い、2人はすぐにベビーバトンに登録、1年も満たずに養子縁組の話がやってきます。
そしてその子供が朝斗でした。
佐都子と清和は朝斗を育てたいと望み幸せを願っていたひかりの姿を見て、この子を必ず大切に育てていこうと決意するのでした。
ここからは片倉ひかりのお話です。
片倉ひかりは厳格な両親に育てられた事からその反動で、初めて出来た彼氏に夢中になりました。
しかしひかりはある日を境に体調が悪くなる事が増えていきました。
そして妊娠に気付き、中絶が可能な時期をとっくに過ぎている事を知ります。
すると、ひかりの出産が周囲にバレないよう両親はベビーバトンの施設へひかりを預けることにします。
その後ひかりは無事男の子を出産、その子供は栗原家に育てられる事に決まりました。
それから2年後、ひかりは施設で偶然栗原家の住所を手に入れます。
その後ひかりは新聞配達の仕事をしていましたが、同僚に借金を背負わされてしまい、ひかりは取立てから逃げるように別の仕事を見つけますが、そこでも取り立て屋に見つかってしまいます。
切羽詰まったひかりはお店のお金を盗み借金を返しますが、お金を盗ったことがお店にバレてしまい、お金はすぐに返す、ととっさに言ってしまいます。
そこでひかりの頭に浮かんだのが、あの優しそうな栗原家ならば子供を引き合いに出したらお金を出してくれるのでは、という考えだったのです。
【転】朝が来る のあらすじ③
ひかりが栗原家を訪れてから約1ヶ月後、刑事が訪ねてきました。
警察のお世話になるような事に何も心当たりがない佐都子はビクビクしながら対応しますが、刑事の口から出たのは意外な言葉でした。
まず刑事はこの女性を知らないかと佐都子に尋ねます。
その写真に写っている人物は、佐都子が会った時よりも少しだけ表情の明るい片倉ひかりを名乗る女性でした。
刑事は佐都子にこの女性について何か知っている事はあるかと聞かれますが、「この人は誰なんですか?」と逆に質問します。
すると刑事はこの女性は片倉ひかりで、現在窃盗の疑いがかけられている事を佐都子に話してくれました。
それを聞いた佐都子は子供を返してくれないのならお金をと要求してきたあの女性と朝斗を産んでくれたひかりが同一人物だと知り、ショックを受けます。
そしてさらにひかりが窃盗を働いた後、周りに栗原家に行くと話していた事も知り、もしかしたら自分や清和もも疑われているのでは、と不安を感じるのでした。
【結】朝が来る のあらすじ④
栗原家を飛び出したひかりは街中を彷徨っていました。
栗原家で手に入れたお金でお店から盗ったお金を返そうと計画していたひかりですが、その計画も失敗に終わり途方に暮れます。
ひかりは栗原家で朝斗と離れる時に書いた自分の手紙を見てからというもの、自分がバラバラになってしまうような感覚を覚えます。
今の自分は朝斗の母親には見えないのだという事実に悲しみを覚えつつも、栗原家では自分の存在が「広島のお母ちゃん」として明るく存在している事に嬉しさを覚えていました。
しかし、そんな事を考えている間にも時間は過ぎていきます。
ビジネスホテルやネットカフェを転々としていくひかりですが、こんな生活がいつまでも続く訳ではない事は分かっていました。
警察や大嫌いな両親、誰にでも良いから見つかって楽になりたいと思い続ける日々です。
そう思っているうちにどんどん投げやりになったひかりはとうとう死を考え始めます。
もうどこにも居場所がないのならば死んでしまった方が良いと考えたのです。
雨が強く降り、死ぬなら今日かなと思い街を彷徨っているその時、ひかりは後ろから強く抱きしめられました。
ひかりが咄嗟の事に驚き振り向くと、ひかりを抱きしめていたのはなんと佐都子だったのです。
そしてその隣にはレインコートを着た朝斗が立っていました。
ひかりは朝斗を一目見て、なんと可愛い子だろうと感動します。
また、佐都子はひかりの抱え込んでいるものに気付けなくてごめんね、と謝り、朝斗に目の前にいるこの人が広島のお母ちゃんよ、と教えるのでした。
ひかりが広島のお母ちゃんだと知った朝斗はキラキラと目を輝かせて嬉しそうにします。
そんな2人を見て、ひかりはさっきまでの絶望感を忘れ、気付けばわんわんと声を上げて泣いているのでした。
朝が来る を読んだ読書感想
最初の方は本当にこの女の人が片倉ひかりなのかなという気持ちで読んでいたので、ドキドキハラハラしました。
けれど読み進めるにつれてなぜ片倉ひかりがこのような人物になってしまったのかを知れて、すごく悲しい気持ちになりました。
特に栗原家に子供を渡すシーンでは涙が止まらなかったです。
また、養子縁組についても深く考えるきっかけになりました。
ひかりの存在を朝斗に隠す事なく小さい時から話している所や、同じマンション内の住人にも隠さず養子だという事を話しているのはシンプルに凄いなと尊敬します。
なかなか出来る事ではないし、広島のお母ちゃんという言葉が出てくると私まで嬉しい気持ちになりながら読んでいました。
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