「クローバーナイト」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|辻村深月

「クローバーナイト」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|辻村深月

著者:辻村深月 2016年11月に光文社から出版

クローバーナイトの主要登場人物

鶴峯裕(つるみねゆう)
35歳の主人公。小さな会計事務所に勤務する公認会計士。家族を愛するイケダンでイクメンな二児の父。

鶴峯志保(つるみねしほ)
裕の妻。大学時代の同級生で35歳。出産後オーガニックコットンの専門ブランドを起業。「ミセスCEO」としてメディアにも出演している。

鶴峯莉枝未(つるみねりえみ)
鶴峯家のしっかり者の長女。ゆりの木保育園メロン組の5歳児。

鶴峯琉大(つるみねりゅうだい)
鶴峯家のまだあまり話すことのできない2歳の長男。ゆりの木保育園イチゴ組。

クローバーナイト の簡単なあらすじ

クローバーナイトとは、四つ葉のクローバーは平和の象徴、ナイトは騎士で、家庭において親はその幸せや平和を守る騎士のような存在だという意味です。

主人公の夫・鶴峯裕は公認会計士、妻・志保は起業家で、鶴峯家には保育園に通う一男一女がいます。

共働きで子育てに右往左往しながらも、家族の幸せを守るべく新米騎士パパが奮闘します。

日本社会の育児における課題にも触れた社会派の日常ストーリーです。

クローバーナイト の起承転結

【起】クローバーナイト のあらすじ①

ママ友の不倫疑惑

この物語の主人公は鶴峯裕、35歳です。

裕は大学時代の同級生でサークル仲間でもあった志保と結婚し、現在は一男一女の父親です。

大学時代の親友・荒木とその父親が経営する小さな会計事務所で、公認会計士として働いています。

そして妻・志保は第一子を出産した翌年、31歳の若さでオーガニックコットンのアパレルブランド「merci」を立ち上げた起業家です。

今では「ミセスCEO」としてテレビや雑誌などの取材を受けるほど注目を集めています。

裕と志保は今の時代を反映するような共働き夫婦ですが、経営者の志保が世間から注目され多忙なほど、子どもたちの面倒は時間の融通が利く裕が多く見ることになります。

裕は「イケダン」「イクメン」と呼ばれ、育児にとても理解のある男性です。

「イケダン」とはイケてるダンナの略で、見た目もカッコよく仕事も有能、家庭も顧みて夫婦仲も良く子育てにも熱心、というスーパーハズバンドのことです。

ここまでの旦那さまは今の時代でもまだまだ少数派です。

そんな共働きの2人は、5歳で年中の長女・莉枝未と2歳の長男・琉大を区立の認可保育園・ゆりの木保育園に預けています。

夫婦は気さくな性格なので、保育園に通うママ友たちとも仲良く過ごしています。

定期的にママ友たちのホームパーティーに参加したりもしますが、ある日、仲の良いママ友が不倫をしているのではないかという噂を耳にします。

ママ友同士の噂はあっという間に広がります。

しかしその後、不倫は全くの誤解で、ただ定期的に家事代行サービスの業者を家に呼んでいただけということが判明します。

初めから釈明していたらここまで噂も広がらずに済んだのですが、家事をサボっているとか、金銭的に余裕があるなどと偏見を持たれ、どんどん評判が落ちたり妬まれることを恐れるがあまり不自然な反応になってしまったのです。

裕は志保からその話を聞いて、改めて人間付き合いの難しさや怖さを感じました。

【承】クローバーナイト のあらすじ②

過酷な保活に苦しむ知人夫婦

ある日、裕は取引先の社長から、妻が1歳の娘の保活に悩んでいるから相談にのってほしいと頼まれます。

保活とは保育園入園活動の略で、近年働きたくても子どもを保育園に預けられず働けないことがニュースになったりと、保活の厳しさは世間一般に知れ渡るようになりました。

後日、裕と志保は社長夫婦とレストランで会う機会を設け、社長夫人の話を聞きました。

夫人は相当悩み憔悴した様子で、出産前まで積み上げてきた通訳としてのキャリアが、今保活に失敗すればすべて崩れてしまうのではないかと不安がっていました。

それとは対照的に社長はまるで他人事のようで、裕はそこに少し疑問を抱きました。

心配した裕は夫人のため、社長に志保の連絡先を渡しいつでも相談できるよう働きかけます。

しかし社長は夫人にそれを渡すこともなく、それ以降夫人から連絡がくることはなく相談もそれきりとなっていました。

その後、裕は仕事で社長と会い、保活のためになんと偽装離婚をするつもりだということを聞かされます。

確かに都会での保活はとても激戦で、親たちは有効なのか分からないあの手この手を駆使し、苛烈な競争を繰り広げています。

そして保活の最終手段として「離婚」する夫婦もいるそうで、なぜなら両親が揃っていない家庭は育児が困難だと判断され、その分ポイントが高くつき優先的に入園できるからだそうです。

裕はこうした熾烈な保活の背景は知っていたものの、社長の場合はそれが保活のためではなく、妻と別れる口実ではないかと疑います。

社長には常々不倫の噂があり、保活に追い込まれた妻を言い包め、これを機に不倫相手と一緒になるつもりだと裕はにらみます。

裕はその考えを、社長のことを良く知る自分の上司に話し一喝してもらいます。

後日、さすがに反省した面持ちで社長がやってきます。

そして離婚のことは考え直し、改めて違う方法で妻と娘のために保活に励むつもりだと聞き、裕は安堵するのでした。

【転】クローバーナイト のあらすじ③

何もおめでたくないお受験幼稚園とお誕生日会

そろそろお受験のことが志保の耳にも入ってくる時期になりました。

志保は仕事が忙しいので子どもたちに小学校受験をさせるつもりはありませんが、学生時代の友人は小学校受験に強い名門幼稚園に子どもを通わせていて、名門私立小学校を受験する予定です。

この友人を始め、受験を志す人たちは子どもがまだ2歳頃から必死に情報収集や習い事に励んでいます。

その友人が第二子を妊娠しおめでたい話なのですが、なんと名門幼稚園の先生から「お受験があるのに次の子を妊娠するなんて何を考えているのか、ふしだらだ」と怒鳴られるのです。

周囲の母親たちからも憐みの目で見られてしまいます。

そこには、世の中で1番ではないかと思うほどめでたい生命の誕生でさえ「おめでとう」と当たり前に言えない世界があったのです。

そして、めでたいと言えば子どものお誕生日会。

本来、純粋に子どもの成長を祝いおめでたいはずのお誕生日会ですが、このビッグイベントに奔走し疲れ果てていく母親たちがいます。

誰を呼んだか、どれくらいの規模か、他の人とプレゼントは被っていないかなど、本来の目的とかけ離れてしまった問題に苦労します。

その中でも特に疲弊してしまった母親は、子どもに誕生日が終わったと嘘をつかせてしまうほどです。

本来、主役は子どもたちであり、彼らが楽しめる会になるよう保護者は努めるだけなのですが、これでは本末転倒です。

しかし、他から見てどれだけ異常でおかしなことだったとしても、自分が属している社会でそれが「普通」になるのだとしたら、感覚がどんどん麻痺していってしまうものなのです。

狭い範囲のお誕生日会が、どんどん独自ルールで進化し、止まらなくなるのです。

自分が所属する集団の「普通」を頼り、少しでも失敗するリスクを避けたいと母親たちが考えたとしても不思議ではありません。

でも本当にそれでいいのでしょうか。

何が「普通」になるのかは、誰にもわからないのです。

【結】クローバーナイト のあらすじ④

家族を守る新米クローバーナイト

裕は最近志保の様子が明らかにおかしいことに気が付きます。

実は、志保とその母親が琉大の言葉が遅いことを巡ってトラブルになっていたのです。

義母は琉大の発語が遅いことを心配するあまり、病院で専門医に見せるよう志保に頻繁に連絡を取っていました。

自分は絶対正しいと信じて疑わない義母なので、娘から「二度と琉大の言葉のことは口にしないで」「自分たちのペースで頑張れてるから」との訴えもあっさり無視していました。

不安をあおるような事ばかり言われ続け、志保までも次第に琉大に病気があるのではないかと密かに思い詰めるようになっていきました。

志保はこのトラブルのことを裕に隠しており、そのせいで裕に対して不自然な態度をとってしまっていたのです。

実は志保とその実母との確執は、裕が結婚前から気づきながらも言葉にしてこなかった問題でした。

義母は泣いたり怒鳴ったり執拗に志保を追い詰めることで、心配なんかではなく単に自分の思い通りに娘を支配したいだけに感じていました。

様子のおかしい志保を問い詰め、今回のトラブルの詳細を聞いた裕は、我が家に口出しする義母に対して腹を立てます。

年が明け、裕たち家族は義母の家に新年のあいさつに行きました。

穏やかに過ごしていたものの、帰り際になって突如義母が志保に「病院に必ず行きなさい」と声を掛けました。

それを聞いた裕は「琉大を育てるのは自分と志保です」「両親の方針に口を出さないでほしい」と静かに義母を説得します。

義母は何も言い返せず、それ以降も志保に何も言ってこなくなりました。

志保は改めて裕を見直し、少しでも琉大の病気を心配した自分を恥ずかしく感じました。

そのとき、裕もまた思ったのです。

「自分たちは胸を張って核家族をやっている」「妻と子供たちを守るのは自分なのだ」裕は改めて家族の幸せを守っていこうと覚悟と決意をするのでした。

クローバーナイト を読んだ読書感想

クローバーナイトの1番の面白さは、ストーリーの主軸にママ友問題を取り上げているのにも関わらず、主人公がママの志保ではなくパパである裕であることです。

もちろん裕は冒頭でお迎えを忘れてしまう悪夢にうなされるくらい、どっぷりと育児に参加しているパパであり、社交的でママ友たちと限りなく近い存在でもあるパパです。

しかし、やはり男性なので一定の距離は保ちつつ、男性ならではの視点でママたちを観察・分析し、課題に気づいたりもしています。

この俯瞰的な裕の視点こそが、リアリティがありすぎて時に苦しいストーリーと読者を、ある程度の距離で物語の世界に没入させてくれます。

志保の視点で描かれていたら、同じママとしてお受験や誕生日会や実母の呪縛など、読んでいて気が重くなりすぎていたことでしょう。

そして、私も子どもを持ったことでますます感じる「普通とは何か」というテーマ。

コミュニティ次第でいとも簡単に変わるこの「普通」が、親になりよけい求められている感覚があって見えない圧を感じます。

それぞれの家庭があって、それぞれのやり方があって、そんなの当たり前のことなのに、他人の事情ばかり気になり「普通」に翻弄されてしまう。

きっと「子どものため」「親のせいで辛い思いをさせたくない」などのフィルターがかかり、辛さやしんどさが浮き彫りになってしまうのだと思います。

本作はそこを上手くテーマとし、圧倒的なリアリティと説得力あるストーリーに落とし込んでいます。

実際に正解のないテーマですが、本作には普通だろうが普通でなかろうが、とにかく「親としての覚悟」が絶対的に必要だと随所で訴えているように感じました。

近年の子育てに関する社会問題をふんだんに取り入れている本作ですが、社会がいかに変わろうといつの時代も、子どもを育て幸せな家庭を築くには「親としての覚悟」が夫婦共に必要なのだと実感しました。

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