「英雄の書 下巻」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|宮部みゆき

宮部みゆき「英雄の書 下巻」

【ネタバレ有り】英雄の書 下巻 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:宮部みゆき 2009年2月に毎日新聞社から出版

英雄の書 下巻の主要登場人物

森崎友理子(もりさきゆりこ)
本作の主人公で小学5年の女の子。英雄を追う為に紋章の力を得てオルキャストとなりユーリと名乗る。

アッシュ(あっしゅ)
「灰の男」と呼ばれる狼で、本名はディミトリ。ヘイトランド年代記に登場する架空の人物である為に物語集結時点から歳を取らない。

アジュ(あじゅ)
ユーリと共に英雄を追う魔法の辞書。魔法でネズミの姿に変化している。

ソラ(そら)
無名僧だったが、破門され有理子の従者となる。徐々に人間だった頃の記憶を取り戻していく。

森崎大樹(もりさきひろき)
有理子の兄。英雄に魅入られ、同級生を刺し殺して行方をくらます。

英雄の書 下巻 の簡単なあらすじ

紋章の力を得てオルキャストとなったユーリは、英雄を追跡し兄の通っていた中学校で怪物と対峙します。従者のソラ、魔法の辞書アジュと共に戦おうとしますが戦い方が分からずに苦戦していると狼の一人である「灰の男」に助けられます。ユーリは「灰の男」をアッシュと呼ぶことにし、共に英雄を追跡する為にヘイトランドへと向かいます。アッシュから紋章の使い方や英雄の書の内容について教えてもらい、ヘイトランドの世界を知っていきます。

英雄の書 下巻 の起承転結

【起】英雄の書 下巻 のあらすじ①

灰の男アッシュ

闇の中から現れた怪物は、英雄の負の面を意味する黄衣の王の使者でした。

怪物は触手でソラを捉えると噛み付いてきたアジュを弾き飛ばします。

ユーリがどうやって戦ったら良いのか分からずにまごついていると、何者かが怪物に攻撃を加えます。

全身黒ずくめの服装に灰を被ったような真っ白な長髪をなびかせた男が現れ、怪物をあっという間に倒してしまいます。

トドメに男がユーリの額の紋章に触れてから掌を掲げると光が迸り怪物は動かなくなりました。

男はユーリに紋章の使い方を教えてくれ、ユーリは紋章を使ってソラを回復させます。

図書室の本が男は「灰の男」と呼ばれる狼だと教えてくれ、男は好きに呼べば良いと言うのでユーリはアッシュと呼ぶことにします。

アッシュはユーリが追う英雄の書である『エルムの書』について詳しく知っており、ずっと追いかけていると言うのでアッシュの案内でヘイトランドへと移動することとなります。

ヘイトランドは物語「ヘイトランド年代記」の中の世界であり、アッシュは自分を創作物に登場する架空の人物だと説明します。

物語の作者が死のうとも、誰かが続編を書いて殺すか黄衣の王に喰われない限りは生き続けることができるのだそうです。

アッシュと共にヘイトランドへと移動すると、そこは寒くて貧しい村でした。

物語が書かれたのもユーリの生きる時代よりかなり前であり、なおかつ寒くて農作物にも恵まれない為に周囲の国と戦争ばかりして疲弊しているという事でした。

さらに、戦争の中で恐ろしい怪物が生み出され、その後始末をアッシュは生業にしている為にアッシュの家は孤立して墓に囲まれた場所にありました。

そんなアッシュにもウズという友人がおり、アッシュの本名はディミトリだと判明します。

しかしウズはバネ足と呼ばれる病気で長くは生きられない身でした。

【承】英雄の書 下巻 のあらすじ②

エルムの書とヘイトランド

アッシュはエルムの書の内容について語ります。

ヘイトランドでは昔から戦争が繰り返されており、5百年ほど前に国を救った英雄オルタイオス王の偉業を記録したのがエルムの書でした。

周囲の国と戦争が続くと人が足りなくなり、オルタイオス王は魔法で死んだ兵士を蘇らせ、不死の軍隊を作ることにより戦争を勝ち抜きました。

この魔法を研究したのがエルムでしたが、エルムは不死の魔法が必ずしも護国の魔法では無いと気づいていました。

戦後、不死の軍隊は強盗と人殺しに手を染めるようになり国は荒れました。

魔法を解く為にエルムは処刑され、エルムの書も焼き捨てられました。

しかしエルムの秘法をこっそりと書き写して保存した魔道士がいました。

57年前にキリクという反乱軍の主導者の前にこの魔道士が現れ、キリクは反乱を成功させて王位に就きました。

キリクはエルムの魔法を進化させ、不死の兵士に心を与えず、戦後は地下に幽閉しました。

しかし、兵士は怪物へと変化し殺せるはずの呪文でも死ななくなり、一体ずつ地道に退治していくことになりその中でキリクも死亡しました。

この経緯をまとめたのが新しいエルムの書であり、キリク戦記とも呼ばれるものでユーリの大叔父水内一郎が手に入れ兄大樹が魅入られた英雄の書でした。

怪物の毒は未だに国を蝕んでおり、時おりウズのように人間離れした能力を発する人が出ますが、その人は発症後に長く生きられないのでした。

アッシュは実はキリクと共に育てられた乳兄弟であり、ウズのように怪物の影響が出てしまった人の後始末をする葬儀屋ディミトリとして生きていました。

翌日、カタルハル僧院を経由して王都エルミグアルドへと向かうことにします。

カタルハル僧院には確実な手掛かりがある為、寄り道にはなるがユーリを連れていきたいとアッシュが説明します。

【転】英雄の書 下巻 のあらすじ③

カタルハル僧院

カタルハル僧院へ向かって魔法で飛んでいる途中、何者かに邪魔をされてユーリとアジュは落ちてしまいます。

落ちた場所の近くには村がありました。

村でハナレモノに取り憑かれた男を助けると、その時に使った魔法を見て魔道士だと分かってもらえ、カタルハル僧院へ行きたいと話すと馬車で送って貰えることとなります。

カタルハル僧院へ着くとはぐれたアッシュとソラも無事着いていました。

アッシュはユーリが見とれるほどの美男子ラトルという医師と話をしていました。

アッシュがユーリに会わせたいという相手の様子をラトルが確認に行く間、ソラを見つけて共に僧院の書物から話を聞こうとしますが皆口をつぐみます。

アジュさえも自分が話を聞いたから何も聞かずに会いに行けとユーリを促し、ユーリは不穏な空気を読み取ります。

またアッシュや本達はソラに対して冷たく、ユーリはそれが気に食いません。

しかし、ラトル医師に急ぐように言われ仕方なくアッシュ、ラトル、ユーリだけで地下へと向かいます。

最奥部にいたのは水内一郎でした。

暗闇の中なので姿はよく見えませんが、老人の顔だけは確認でき、ユーリは森崎有理子として話しかけます。

水内は謝罪を繰り返し、自分が英雄の書に魅入られてしまいどうしようも無くなったので死んだことにしてヘイトランドへと移動してきたと話します。

しかし、ユーリは話しているうちに異変に気づき逃げ出したい衝動にかられます。

水内から英雄はキリクの身体を求めるだろうと手掛かりを得ますが、化け物になった水内の身体を見てユーリは絶叫し意識を失います。

気がつくとラトル医師、アジュ、ソラが周りにいました。

話をしていると大きな揺れを感じ、西の空に巨人の手が暴れているのが見えます。

それは王都の方角であり、城や教会などが破壊されるのが見えました。

巨人の手は風の刃に変化してカタルハル僧院へと向かってきた為、ラトルは異形の力を解放しユーリを助けます。

【結】英雄の書 下巻 のあらすじ④

再会と真実

襲われた王都にはキリクの身体の一部があると考え、一行は王都へ向かいます。

王都に着くと城は巨人の手により叩き潰され、城のあった場所には大きな穴が空いていました。

警備兵や腕に覚えのある者達は城のあった場所へと集まり既に地下に潜っていました。

狼のモーガンと出会うと地下は危険だとアドバイスされ、ソラについて意味深なことを聞かされます。

アッシュも当然気づいているもののユーリには言っても無駄だと隠している事実があるようです。

モーガンは泣いても良いが絶望してはいけないというセリフを残して姿を消しました。

地下へ潜り怪物を倒しながら先に進んでいき、エルムの墓に辿り着くと遂に英雄と対峙しますが、英雄の光に照らされるとソラが森崎大樹へと姿を変えます。

大樹はユーリに謝るとサヨナラと言って英雄に吸収されます。

英雄は笑いながら飛び去っていき、アッシュとユーリは紋章の力でその場から離れます。

無名の地へ戻り虚ろの書に紋章を返して英雄の書へと戻すと、アッシュが真実を語りだします。

無名僧とは皆英雄の最後の器となった者ですが、稀にソラのようになりそこないの無名僧となる者がおり、誰かが清めて英雄に吸収させなければ輪にとっては危険な存在となります。

ユーリの旅は最初から英雄を封印するのでなくソラを浄化するのが目的でした。

ユーリには話しても納得出来ないだろうと無名僧達は嘘をついて旅に送り出していました。

最後にアッシュは立派だったと労いの言葉をくれ、ユーリは元の領域へと還ります。

ユーリが森崎有理子に戻り半月ほど経った頃、銀牙のアタリと名乗る狼が訪ねてきます。

アタリは年老いて引退することとなり有理子に後継者になって欲しいと頼みます。

有理子は狼のしるしを受け取りいつか再びアッシュやアジュと共に英雄を追うのだと心に光が宿ります。

英雄の書 下巻 を読んだ読書感想

英雄を追うユーリは怪物との初戦でアッシュに助けられ、共に物語の世界ヘイトランドへと向かいます。

この本の世界観では、物語の中も全てが一つの領域であり狼やオルキャストは領域を自由に飛び回ることが出来ます。

物語の中の世界に入るという発想が面白く、また物語の登場人物も皆生きていてそれぞれの人生を歩んでいるというのが不思議な感じです。

普通の人と異なるのは基本的には老いない死なないという所ですが、誰かが続編を書いて死ぬような展開にしてしまうと簡単に死んでしまうと言うのが物語の中の人物の弱点です。

物語の中の人と共に冒険が出来ると思うととてもワクワクしてきますし、自分ならこんな物語の人物と冒険してみたいなと妄想が膨らみます。

この旅の最後は兄との別れという悲しい結末でしたが、英雄は封印されずに未だ暴れている為、まだまだ戦いは続いていくような感じがします。

エピローグで有理子は狼になることとなる為、大人になった後で再び英雄との戦いに身を投じて行くのだろうと思います。

本作の続編も書かれることを期待したいです。

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