【ネタバレ有り】賢者の愛 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:山田詠美 2015年1月に中央公論社から出版
賢者の愛の主要登場人物
高中真由子(たかなかまゆこ)
ヒロイン。 大学卒業後に出版社に勤務。
朝倉百合(あさくらゆり)
真由子の親友。結婚後は澤村百合として夫の秘書を務める。
澤村諒一(さわむらりょういち)
百合の夫。小説家。
澤村直巳(さわむらなおみ)
百合の息子。 真由子の愛人。
時田秀美(ときたひでみ)
真由子の後輩。
賢者の愛 の簡単なあらすじ
高中真由子は小学生の頃に隣の家に引っ越してきた朝倉百合と仲良くなって、ふたりは姉妹も同然に育ちます。大学生になった真由子と百合が同時に愛してしまったのは、高中家の敷地内に居候しながら小説家を目指していた澤村諒一です。諒一の子供を身ごもり彼の妻となった百合に対して、真由子は恐るべき報復を遂げていくのでした。
賢者の愛 の起承転結
【起】賢者の愛 のあらすじ①
高中真由子は編集者の父・正吾と医者の母親との間に生まれて、山の手にある大きなお屋敷で暮らしていました。
真由子が小学生の高学年に上がろうとする頃、隣に派手な洋館の新築が始まります。
昔から住んでいる地元の人たちからは、 閑静な住宅街の景観を乱すといった文句が止まりません。
引っ越してきたのは新宿と渋谷で何軒かのお店を経営する朝倉夫妻と3人の子供たちの5人暮らしで、1番上の女の子・百合は真由子の2歳年下です。
頭の固い母は真由子をお隣さんに近づけたくないようでしたが、彼女は独りっ子で近所にも遊び仲間になれるような同じ年頃の子供はいません。
百合の両親は事業で忙しいようで、真由子は大人がいない広々とした洋館で百合と遊び回りすぐに仲良しです。
百合には真由子が持っているお菓子やおもちゃを見た途端に、「ちょうだい」と叫ぶ癖があります。
真由子はいじめられていたところを助けられた恩もあり、言われるままに自分の物を差し出していました。
【承】賢者の愛 のあらすじ②
ある時に正吾は作家を志す青年・澤村諒一を連れてきて、敷地内の離れに下宿させるようになりました。
真由子は15歳年上の諒一に対して、「リョウ兄さま」と呼んで実の兄のように慕っています。
百合が真由子を銀座のカフェに呼び出して「リョウ兄さま、私にちょうだい」と言ったのは、ふたりが大学生になった時のことです。
既に諒一の子供を妊娠していた百合は、6カ月後に生まれてきた男の子に直巳と名付けました。
幼い頃から憧れ続けた諒一のことを諦めきれない真由子は、 父の後を継いで編集者になることを固く心に決めます。
大学を卒業して大手の出版社への就職に成功した真由子が担当することになったのは、今や新進気鋭の小説家として注目を集めている諒一です。
編集者として諒一と百合の幸せな新婚生活を見ているうちに、 真由子は長い年月をかけた恐るべき計画を思いつきます。
赤ちゃんの頃から百合の代わりに直巳の面倒を見るようになったのも、全ては報復のためでした。
【転】賢者の愛 のあらすじ③
直巳が思春期に入ると、真由子はひそかに彼に若い女性を紹介して「調教」をスタートしました。
ついには直巳が20歳の誕生日を迎えた時に、真由子は彼と一線をこえてしまいます。
息子と親友との異様な関係を疑っていた百合は信用調査会社を使って調べていましたが、決定的な証拠は掴むことができません。
真由子のもとに諒一の危篤を知らせる電話が舞い込んできたのは、彼女が47歳になって文芸雑誌の編集長に昇進した頃のことです。
宇都宮市内で倒れて緊急病院に搬送されたという百合の話を信じて、真由子は車で駆けつけました。
高速道路に入って無言のままスピードを加速していく真由子の横顔を見つめながら、百合は全てを打ち明けます。
諒一は宇都宮で元気に講演会に出席していること、子供の頃から何不自由なく幸せを与えられてきた真由子がうらやましかったこと。
ハンドルを握りしめた真由子の手に自分のそれを重ね合わせた百合の最後の言葉は、 「マユちゃんの人生、丸ごとユリにちょうだい」です。
【結】賢者の愛 のあらすじ④
真由子と百合が乗っていた車は、東北自動車道の途中で事故を起こしました。
助手席に座っていた百合は即死でしたが、運転していた真由子は辛うじて一命を取り留めます。
真由子は事故の後遺症で首から下の機能を失うとともに、心理的なショックからか言葉を出せません。
真由子の後を引き継ぐ形で諒一の担当となったのは、彼女の後輩でもある時田秀美です。
諒一から様子を見に行って欲しいと頼まれた時田は、真由子の親族が所有している三浦三崎の別荘までお見舞いに行きました。
病院から派遣されて常駐しているという看護師とともに、直巳が車椅子を押しながら時田を出迎えます。
大学を卒業した後にアルバイト先のつてを頼って土木建設関係の会社に就職したという直巳は、現在25歳です。
体が動かせないという真由子でしたが、彼女を献身的に支える直巳は希望に満ちた表情を浮かべています。
自分が60歳になった時に、82歳になった真由子の側にいることを誓うのでした。
賢者の愛 を読んだ読書感想
幼い頃からずっと一緒にいたふたりの純真な少女が、成長していくにつれて女性としての欲望に目覚めていく様子には圧倒されました。
ヒロインの高中真由子の、計算高く理路整然と行動していく姿が印象深かったです。
一見すると無邪気に思える百合も、決めセリフの「ちょうだい」の陰にはあざとさを垣間見ることができます。
昭和を代表する文豪・谷崎潤一郎の「痴人の愛」にあやかって、「賢者の愛」と名付けられたタイトルが秀逸です。
壮絶な交通事故によって幕を閉じた後に、海辺の別荘地で寄り添うふたりの恋人にわずかな希望を感じました。
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