「四〇九号室の患者」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|綾辻行人

「四〇九号室の患者」

【ネタバレ有り】四〇九号室の患者 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:綾辻行人 1995年5月に南雲堂から出版

四〇九号室の患者の主要登場人物

芹沢園子(せりざわそのこ)
ヒロイン。23歳で結婚して以後は専業主婦。旧姓は阿古田。

芹沢峻(せりざわしゅん)
園子の夫。静岡県浜松市の出身。大学の法学部を卒業後に生命保険会社へ入社。

吉村(よしむら)
京都市内のK総合病院の外科医。

大河内(おおこうち)
精神科医。

マヤ(まや)
峻の行きつけのクラブのホステス。現在は行方不明。

四〇九号室の患者 の簡単なあらすじ

交通事故によって病院に運び込まれた「わたし」は、両足を失ったショックから自分の名前を思い出すことができません。「芹沢園子」という女性として入院しているようでしたが、記憶を取り戻していくうちに「岡戸沙奈香」という存在が心の隅に引っかかります。さらには夢の中で見た死体が現実の世界で発見されることによって、恐るべき真実が明らかになるのでした。

四〇九号室の患者 の起承転結

【起】四〇九号室の患者 のあらすじ①

幸せな夫婦の生活が急転直下

阿古田園子は京都市内に生まれて、早くに両親を亡くして兄弟も姉妹もいません。

父親がかなりの額の資産を遺してくれたおかげで生活には苦労することはなく、地元でも有名な女子大に進学することができました。

大学時代に2歳年上の芹沢峻と知り合って、卒業した年の秋に結婚します。

峻の就職先は大手の生命保険会社で、配属された大阪支社では将来を嘱望されるほど優秀な人材です。

結婚後もふたりの間には子供は居ませんでしたが、夫婦仲はとても円満でした。

休日になる度にそろって出かけていたという芹沢夫妻は、園子が29歳になった時に若狭湾へドライブ旅行に行きます。

ふたりの乗った車が崖から転落したのは7月19日のことで、場所は京都市左京区の峠道です。

両名とも全身打撲と重度のやけどを負った重体で、近くの総合病院へ緊急搬送されました。

警察の現場検証によると、運転していた峻が急カーブでハンドルの操作を誤ったことが事故の原因だと判明します。

【承】四〇九号室の患者 のあらすじ②

わたしは誰?

わたしが目覚めると外科病棟のベッドの上にいて、体中に包帯が巻かれていました。

受け持ちの外科医・吉村から「芹沢さん」と呼びかけられても、一向にぴんと来ません。

この病院に運び込まれてきた時には生きていることが信じられないほどの重体であったこと、生命を救うためには両足を切断しなければならなかったこと。

吉村から告げられた事実がショックでわたしは暴れ始め、間もなく精神科病棟の四〇九号室に移されます。

看護師から7月20日の朝刊を探してきてもらい、ようやくわたしが「芹沢園子」として入院していることを理解できました。

徐々に記憶を取り戻してきたわたしの頭の中には、ふたりの女性の名前が浮かんで来ます。

ひとりはマヤという名前のクラブのホステスで、2年ほど前に芹沢峻が浮気をしていた相手です。

もうひとりは岡戸沙奈香という女性で、彼女は週末に峻と一緒に繁華街を歩いている姿を職場の同僚に目撃されていました。

峻と同乗していたという状況だけで芹沢園子と決めつけられているようでしたが、わたしがマヤや岡戸沙奈香である可能性も否定できません。

【転】四〇九号室の患者 のあらすじ③

ふたつの顔を持つ女と脅迫者の末路

入院生活が長引くにつれてわたしは悪夢にうなされるようになり、見知らぬ女を殺害して林の中に埋める映像が繰り返し脳裏に流れていました。

さらには「道ノ谷」という地名も思い浮かんできたために、精神科医の大河内に相談してみます。

半信半疑の大河内が京都府警の知人に連絡したところ、3日後に京都府美山町の道ノ谷の雑木林で発見されたのはです。

身元を示すような所持品もなく死んでから2年以上経過しているために、どこの誰だか分かりません。

わたしは芹沢園子の旧姓である阿古田園子を、アルファベットに変換することで真相に気が付きました。

「Akoda」の「a」と「o」を入れ替えると「Okado」、「Sonoko」の「o」を「a」と入れ替えると「Sanaka。」

ふたりは同一人物で、平凡な主婦の芹沢園子は週末になると遊び好きな岡戸沙奈香に変身して、自分の夫との「密会」を楽しんでいたのです。

夫婦の秘密を知ったホステスのマヤは口止め料を要求するつもりが、返り討ちに遭い道ノ谷に埋められてしまいました。

【結】四〇九号室の患者 のあらすじ④

妻として生き続ける夫

マヤの遺体が発見されてから10日ほどしたある日、大河内は芹沢と向かい合っていました。

車椅子に乗って院内を動き回るくらいに肉体的には回復していましたが、妻の園子が亡くなって自分だけが生き残ったという残酷な事実は今でも受け入れることができないようです。

これまでも彼が男であること、芹沢峻であることを親戚から仕事仲間まで多くの人が言い聞かせていましたが信じようとはしません。

事故の影響で両足ばかりではなく、男性としての機能を失ったことも影響しているのでしょう。

大河内とのカウンセリングが終わった後は、峻は四〇九号室のベッドの上に戻って虚ろなまなざしを天井に向けているばかりです。

峻の身の回りの世話をしている看護師の町田範子は、顔に巻かれた包帯を取り換える際に醜く焼け爛れた患者の顔をのぞき込みます。

不思議とそこには苦悩の表情はなく、この部屋で年老いて朽ちていくまで亡き妻として生きる決意が浮かんでいるのでした。

四〇九号室の患者 を読んだ読書感想

事故で肉体的な傷を負って、精神的なショックから自分の名前を思い出すことができない「わたし」の日記というスタイルで物語は進行していきます。

医師の視点や新聞記事などのドキュメンタリータッチの描写も挿入されていくために、見事に著者のトリックに引っかかってしまいました。

良き夫に恵まれて何不自由ない日々の暮らしを送りながらも、どこか物足りなさを感じているヒロインの園子が印象深かったです。

週末の間だけでも別の誰かになりたいという彼女の願望が、思わぬ事態を巻き起こしてしまう展開には驚かされます。

二転三転する後半パートとともに、妻の死を受け入れることができない峻の姿も痛切です。

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