「熱帯安楽椅子」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山田詠美

「熱帯安楽椅子」

【ネタバレ有り】熱帯安楽椅子 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:山田詠美 1987年6月に集英社から出版

熱帯安楽椅子の主要登場人物

私(わたし)
物語の語り手。 日本人の作家。

ワヤン(わやん)
ウェイター。

ユージン(ゆーじん)
ワヤンの友達。 プロサーファー。

トニ(とに)
ユージンの弟。聴覚障害を抱える。

イブ(いぶ)
雑貨店の経営者。

熱帯安楽椅子 の簡単なあらすじ

日本で小説家としてスランプに陥った 「私」 が療養目的で訪れたのは、東南アジアでも屈指の観光地・バリ島です。美しきウェイターとの束の間の逢瀬や、障害を持ちながらも自由に生きる男の子との出会いによって日頃の疲れをリフレッシュしていきます。地元の祭りにも参加して休暇の終わりが近づいてきたある日、悲劇的な事件が起こるのでした。

熱帯安楽椅子 の起承転結

【起】熱帯安楽椅子 のあらすじ①

楽園の島で筆を休める

創作活動に行き詰まりを感じていてプライベートでも失恋で思い悩んでいた私は、男友達から海外で休養することをアドバイスされました。

すぐさまバリ島行きの航空チケットを手配してもらい、デンパサールというリゾート地へ向かいます。

空港を出た途端に日本人観光客の高額チップ狙いのタクシー運転手たちに取り囲まれた私が、大勢の中から選んだのは1番流暢な英語を話す青年です。

ホテルに着いて部屋にベッドに倒れ込んだ私は、久しぶりに時間を気にすることなく眠ることが出来ました。

翌朝にホテルのレストランで朝食をとりますが、ウェイターは昨日の運転手ほど英語が達者ではありません。

注文した目玉焼きを生卵と間違えてテーブルまで運んできますが、そのことがきっかけで彼とは親しくなります。

それ以降私が食堂に姿を見せる度に、 駆け寄ってきて椅子を引いてくれる彼の名前はワヤンです。

そしてある日の朝、メニューの注文を終えた私はワヤンを海辺のデートへ誘いました。

【承】熱帯安楽椅子 のあらすじ②

ワヤンとのコテージでの密会と静かな少年

私とワヤンが夜の砂浜で愛し合っていた時に、ひとりの少年が遠くの木立の陰からじっと見つめていました。

再びその少年の姿を目撃したのは、勤務時間を終えたワヤンとオートバイで丘の上のコテージにまで遊びに行った時です。

ここの住人・ユージンは、 オーストラリア人から資金援助を受けてプロのサーファーとして活躍しています。

ユージンは弟のトニとふたり暮らしをしていましたが、彼こそが私たちの情事を盗み見た犯人です。

トニに話しかけてみましたが、彼は耳にハンディキャップがあるために答えることが出来ません。

このコテージを密会現場として利用するようになりますが、トニは私とワヤンの関係を理解した上で歓迎してくれます。

15歳になったばかりのトニは兄と同じくサーファーを目指していて、ホテルの食堂の前に広がる海岸は彼のお気に入りの波乗りスポットです。

ボードを抱えて波打ち際を歩くトニは、食堂にいる私を見つけると笑顔で手を振るようになりました。

【転】熱帯安楽椅子 のあらすじ③

地元の祭りに飛び入り参加

神々が先祖の霊を引き連れて地上に降りてくるという、 ガルンガンのお祭りの日が近づくと街は一気に活気に満ち溢れていきます。

ワヤンが私を連れていった先は、生まれ故郷のクロボカン村にひとつだけある雑貨屋です。

女主人のイブは私が祭りに参加しやすいために、現地の伝統的な衣装であるバティク染めを用意してくれました。

ガルンガンの日は外国人観光客には関係がないためホテルも暇で、ワヤンも簡単に休みを取ることが出来ます。

ワヤンもいつものようなラフな格好ではなく、ヒンズー教徒の正装であるサルンを腰に巻いて神妙な様子です。

大勢の人で賑わう中央広場ではドラに合わせて踊る聖獣バロンが行われていて、日本で言えば獅子舞のようなものでしょう。

数日間は学校も休みになるせいか、子供たちは至るところではしゃいで走り回っています。

私はトニとユージンを探してみましたが、祭りも関係なくサーフィンに明け暮れているふたりの姿は見当たりません。

【結】熱帯安楽椅子 のあらすじ④

全ては波のまにまに消えていく

ユージンが私の部屋を訪れてトニが亡くなったことを告げのは、ガルンガンが過ぎて神様を送り出すクニンガンの儀式から数日たった頃です。

サーフィンをしている最中に大きな波に呑み込まれてしまったという不運な事故の顛末を、涙ながらに語りました。

波の音もサーファー仲間からの警告も聞こえないトニは、悪天候の中でも最後まで無茶ばかりしていたようです。

ワヤンは例のごとくルームサービスを装って客室まで入ってきて、茫然自失といった表情の私をしっかりと抱き寄せます。

帰りの飛行機の中で私は、いつも以上に白ワインを飲み過ぎてしまいました。

夜のフライトは心地よく私を酔わせていき、自然と涙が零れ落ちます。

見ず知らずの異国の女性を心配して声をかけてくれたのは、ジャカルタから乗り込んできた男性です。

「どうなさったのですか」の問いかけに「人が死んだのです」と答えますが、いつしか私はトニが人間ではなく人魚のように思えてくるのでした。

熱帯安楽椅子 を読んだ読書感想

豊かな緑と海に囲まれている、バリ島の風景が美しさ溢れていました。

串刺しの魚や肉を焼き上げてピーナッツソースをかけたサテや、バナナを磨り潰して揚げたピサン・ゴランなど名物料理も美味しそうです。

日本の無味乾燥な毎日に疲れ果てていたヒロインが、みるみるうちに生気を取り戻していく様子が伝わってきます。

情熱的なワヤンや物言わぬトニを始めとする、現地の人たちとの交流も微笑ましかったです。

その一方では民族衣装のバティクを身に纏いながらも、心の奥底で異邦人としての孤独感を感じてしまうヒロインの葛藤も印象的でした。

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