「生きてるだけで、愛」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|本谷有希子

「生きてるだけで、愛」

【ネタバレ有り】生きてるだけで、愛 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:本谷有希子 2006年7月に新潮社から出版

生きてるだけで、愛の主要登場人物

板垣寧子(いたがきやすこ)
ヒロイン。25歳。専門学校を辞めてアルバイトを転々とした末に現在では無職。

津奈木景(つなきけい)
寧子と同棲中。出版社に勤務する32歳。

板垣紗登子(いたがきさとこ)
寧子の母。

安堂(あんどう)
以前に津奈木がお付き合いしていた女性。

ミズキ(みずき)
レストラン「トラットリア・ラティーナ」の従業員。

生きてるだけで、愛 の簡単なあらすじ

仕事にも恋愛にも不器用な板垣寧子が、合コンで知り合った津奈木景と同棲を始めたのは3年前のことです。それ以来寧子は引きこもり状態になり、津奈木は仕事が忙しくて碌に家に寄り付きません。ある日突然に津奈木のかつての彼女・安堂が寧子の前に現れることによって、惰性で続けていたふたりの関係にも微妙な変化が訪れるのでした。

生きてるだけで、愛 の起承転結

【起】生きてるだけで、愛 のあらすじ①

眠り続ける彼女とオーバーワークな彼氏

せっかく上京して入学したデザイン専門学校を早々と中退した板垣寧子は、自称グラフィックデザイナーから特撮監督まで様々な男性とお付き合いを繰り返しては別れていました。

22歳の時にアルバイト先の本屋で開かれていた飲み会で出会ったのが、雑誌編集者の津奈木景です。

貯金もなく恋人と別れたばかりの寧子は、お酒の勢いで津奈木の自宅に転がり込んだ末に一夜を共にしてそのまま居座り続けます。

以後3年間寧子は無職の状態が続いて部屋の中でゴロゴロとしてばかりでしたが、32歳の若さで編集長となった津奈木は仕事が多忙なために殆ど家に帰ることはありません。

寧子が最近になって思い出すのは、実家の母・紗登子のことです。

近所の主婦たちと交流することもなく、娘の学校行事にも参加することもなく、炊事洗濯をこなすこともなく。

年がら年中布団の中で「気分が悪い」と言っては臥せっていました。

寧子が過眠症で鬱気味なのは、母親譲りなのかもしれません。

【承】生きてるだけで、愛 のあらすじ②

悪意の塊のような元カノ

ある日突然に津奈木の留守中に赤いコートを着た女性が上がり込んできて、寧子は近所の喫茶店まで連れて行かれます。

安堂と名乗る女はかつての津奈木の恋人で、近頃彼が編集長に出世したと聞きつけて復縁を迫りに来たようです。

寧子との関係も調べ上げていた安堂は、散々悪態をついた末に津奈木への口止めを念押しして店を出ていきました。

その日以来安堂は毎日のように津奈木と寧子が同棲しているマンションに押しかけて、インターフォンを連打してポストの隙間から罵声を浴びせるほどの異常ぶりです。

寧子は津奈木に相談しようとしますが、締め切りが迫って過労死寸前なためにまるで相手にしてくれません。

いつものように夕方過ぎに目を覚ました寧子がコンビニに行こうとすると、安堂に駅前のイタリアンレストランへ拉致されてしまいます。

職が見つからないために津奈木と別れることが出来ないと言い逃れをした寧子に、安堂はこのレストランで働くことを提案しました。

【転】生きてるだけで、愛 のあらすじ③

アットホームなイタリアン

寧子が言われるままに「トラットリア・ラティーナ」でアルバイトを始める気になったのは、お店の雰囲気が親しみ安かったからです。

オーナーは暴走族あがりの青年、ホール担当はオーナーの妻・ミズキ、ウェイトレスはミズキの友達・リナ、厨房で料理を作っているのはオーナーの父親と母親。

まさに家族経営スタイルのレストランで、精神的に不安定で寧子のぎこちない接客サービスに対しても咎め立てすることはありません。

仕事終わりにはスタッフ一同が集まって、鍋料理とお酒で寧子の歓迎会をしてくれました。

自分のことを本気で心配してくれた彼らと触れ合っているうちに、寧子はこの人たちと家族になることが出来るかもしれないと思います。

寧子が彼らに些細な違和感を覚えたのは、「ウォシュレットが怖い」という彼女の言葉に誰ひとり賛同してくれなかった時です。

自分だけが場違いなところに来てしまったことを感じた寧子は、店のトイレを破壊した後に逃げ出してしまいました。

【結】生きてるだけで、愛 のあらすじ④

全てを脱ぎ捨てて光を取り戻す

バイト先を脱走した寧子は津奈木を携帯電話で呼び出して、マンションの屋上で待ち合わせをしました。

津奈木が駆け付けた時には、雪の降り出した真冬の屋上に寧子は全裸で立ち尽くしています。

いつもは暗く落ち込んでばかりいる寧子の母がやけにはしゃいだ状態になるのは、家が停電になった時です。

電力供給が復旧した時になぜ母が裸になっていたのか幼き日の寧子にはサッパリ理解できませんでしたが、今思い返してみれば夫や娘を笑わせて少しでも家庭を明るくしようとしていたのでしょう。

自分のコートを脱いで寧子の肩にかけた津奈木は、階段の前で待ち伏せして罵詈雑言を投げかける安堂を無視したまま自室に戻ります。

冷え切った身体を温めようとしてエアコンとコタツのスイッチを入れた瞬間に、ブレーカーが落ちて部屋の中は真っ暗闇です。

扉への激しい殴打とチャイム音を聴きながら息を潜めて寄り添う寧子と津奈木は、もう1度やり直せるような気がしていたのでした。

生きてるだけで、愛 を読んだ読書感想

厭々ながらも連れて行かれた合コンで先で知り合った津奈木景と、なし崩し的に同棲生活を始めてしまう寧子は異色のヒロインでした。

一日中部屋の中に閉じこもり、就職活動に動き出すこともなく家事をすることもない不甲斐なさが笑いを誘います。

はた迷惑な25歳の引きこもり女を自分のマンションから追い出すこともなく、彼女の社会復帰をサポートすることもない中途半端な津奈木に共感するのは難しいです。

お互いを理解することもなくただただ一緒に無為な時間を過ごすだけのふたりに、クライマックスで訪れる僅かな救いにホロリとさせられました。

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