【ネタバレ有り】クリスマスを探偵と のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:伊坂幸太郎 2010年11月に河出書房新社から出版
クリスマスを探偵との主要登場人物
カール(かーる)
主人公。15歳で実家を飛び出した後に職を転々として現在では探偵。
サンドラ(さんどら)
クリスマスの夜に公園のベンチでカールが出会った若い男性。
投資家(とうしか)
カールの調査対象者。経済危機を利用してひと財産を築いた独身女性。
クリスマスを探偵と の簡単なあらすじ
ドイツ南部の町・ローテンブルクで、探偵のカールは浮気調査を依頼されたひとりの中年男性を尾行しています。クリスマスイブを迎えた街は大にぎわいでしたが、15歳で家を出て以来ずっと孤独に生きてきたカールには関係ありません。ひと仕事終わったどこか休む場所を探していたカールは、公園にいた不思議な青年と忘れ難い時を過ごすのでした。
クリスマスを探偵と の起承転結
【起】クリスマスを探偵と のあらすじ①
ローテンブルクはドイツの南部に位置するバイエルン州の中でも小さな都市でしたが、赤い切妻屋根の小さな家が建ち並んでいる街並みは童話の世界のようでした。午後4時を回るとたちまち空は暗くなっていき、街灯が路上を照らし出します。いつもであればこの時間帯には大勢の通行人で混み合う大通りも、クリスマスイブの今日は家路を急ぐ人ばかりになり人通りも疎らです。そんなおめでたい日にも関わらず、探偵のカールは浮気の証拠を掴むために50歳前後かと思われる肥満体の男性を尾行していました。
レストランや花屋が集まった広場を抜けて、細い路上を歩いて高級住宅街へと向かっていきます。密会相手はカールにも見覚えがある、金の取り引きや美術品の購入によって財を成した投資家です。いつもであれば建物を撮影したり室内を覗き込んだりしますが、尾行初日で浮気現場に辿り着いただけで上々でしょう。
カールはひと休みするために、川沿いに作られた公園のベンチに座りました。
【承】クリスマスを探偵と のあらすじ②
公園内にはダッフルコートを身に纏った若い男が1人いるだけで、ベンチに腰掛けて分厚い本と向き合って熱心に読書中です。
カールがひと言断ってから隣りに座ると、彼はサンドラとだけ名乗りました。
大勢であちこちを回って仕事をしていて今は休憩中だいうサンドラに対して、カールは妙な親近感を抱いていきます。
ひとしきり世間話を交わした後に、カールは少年時代のクリスマスの思い出をサンドラに打ち明けました。
実家が貧しい画材屋だったこと、1年に1度だけ欲しいものを父親を通してサンタクロースに頼んでいたこと、15歳になるまでサンタクロースの存在を信じていたこと。
15歳になったカールがお願いしたクリスマスプレゼントは、オフロード用の高額な自転車です。
自転車が届いた次の日の朝には母親が祖母から受け継いだ指輪が消えていたために、カールは全てを察知します。
指輪が亡くなってからというもの両親は喧嘩ばかりで、嫌気が差したカールは家を出てしまいました。
【転】クリスマスを探偵と のあらすじ③
カールの昔話を聞いていたサンドラは、突如として奇想天外な自説を披露しました。
カールの父親が外出から帰ってきた後についていた長い髪の毛は浮気相手の女性のものではなくトナカイの毛、サッカーチームの監督ではなくトナカイの訓練師、無くなった指輪は子供へのプレゼント。
サンドラはカールの父親がサンタクロースだったと主張しますが、カールは到底信じることが出来ません。
何故ならばカールが今夜調査していたのが、他ならぬ自分の父親だったからです。
10代で家を飛び出したカールは長らく実家と音信不通でしたが、つい最近になって母親から1本の電話を受けます。
ここ2ヶ月ほどは外出が増えて帰宅もめっきり遅くなってしまったこと、香水の匂いを付けて帰って来ること。
肉親の依頼であるだけに無報酬で引き受けたカールが、先ほど父があの投資家の家の中に入っていく現場を見届けた次第です。
クリスマスイブに浮気をする男が、サンタクロースであるはずがありません。
【結】クリスマスを探偵と のあらすじ④
そろそろ仕事に戻らなければならないと立ち上がったサンドラは、ベンチから見える投資家の大きなお屋敷を眺めながら真相を明かします。
カールの父があの家に入っていったのは、大切な指輪を取り戻すためです。
ここ2ヶ月ほど秘密の外出が増えたのは現在の指輪の持ち主である女投資家の自宅を調べるために業者を雇っていたためで、彼女とも直接交渉していたために香水の匂いが付いてしまっただけでした。
やがてカールの父は赤と白の衣装を身に付けて大きな袋を抱えながら、投資家の邸宅から飛び出してきます。
恐らくはあの格好のままで、妻に指輪を手渡すのでしょう。
サンドラはカールに対しても、実家に帰ってみることを薦めてきます。
「サンドラ・クロス」から取ったサンドラという偽名、仲間たちと国境を跨いでしているお仕事、いつの間にか消えていったその後ろ姿。
カールはつかの間の休息を取っていたサンタクロースに出会ったことを、誰かに話してみたくて仕方がないのでした。
クリスマスを探偵と を読んだ読書感想
国際的な漫画家やイラストレーターとして活躍するマヌエーレ・フィオールの挿し絵が、伊坂幸太郎の物語にピッタリです。
ストーリーの舞台に設定されているローテンブルクの、昔ながらの城壁やロマンチックな街道が思い浮かんできました。
せっかくのクリスマスの夜だというのに、家族も恋人もなく浮気調査に追われる主人公のカールが哀愁たっぷりとしています。
暫しの休息のために立ち寄った公園で出会った、何処か浮世離れした青年・サンドラの佇まいもミステリアスです。
年齢を重ねていくにつれて失われていく、クリスマスのときめきやサンタクロースへの憧れが蘇ってくるような優しさ溢れる1冊でした。
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