【ネタバレ有り】TVピープル のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:村上春樹 1990年1月に文藝春秋から出版
TVピープルの主要登場人物
僕(ぼく)
物語の語り手。電機会社の広報宣伝部に所属する。
妻(つま)
4年前に僕と結婚。出版社で自然食品に関する専門誌の編集を担当する。
課長(かちょう)
僕の直属の上司。
同僚(どうりょう)
僕とは同期入社の社員。
TVピープル の簡単なあらすじ
仕事が休みで妻も不在の休日の午後にひとりで部屋で寛いでいた「僕」が目にしたのは、人の家にいきなり押しかけてテレビを運び込む「TVピープル」です。彼らは次第に自宅ばかりではなく仕事場にまで現れるようになりますが、周りの人たちには見えません。平穏無事だった僕の日常は、TVピープルによって終わりを告げるのでした。
TVピープル の起承転結
【起】TVピープル のあらすじ①
僕のマンションにTVピープルがやって来たのは、暑くもなく寒くもない春先の日曜日の夕暮れ時のことでした。
彼らは普通の人間と比べると微妙に小さいサイズになり、濃いブルーの上着とジーンズを身に付けてテニスシューズを履いています。
人の家にいきなり上がり込んでおきながら、ノックをすることもなくインターホンも鳴らしません。
ひとりがドアを開けて、残りのふたりがごく普通のカラーテレビを抱えていました。
一緒に住んでいる妻は、午後から高校時代に仲の良かった同級生とレストランに出掛けているために、部屋の中には僕がソファーで寝転んでいるだけです。
TVピープルはサイドボードの上にあった置き時計と雑誌を移動させると、空いたスペースにテレビを設置します。
コンセントを接続してリモコンをテーブルに置く一連の作業の間、3人ともひと言も口をきくことはありません。
室内をぐるりと点検するような動作をしてから、すっかり暗くなった外へと出ていきました。
【承】TVピープル のあらすじ②
妻は部屋の中の物を勝手に移動したり間取りを変えたりすることが大嫌いなために、さぞかし怒り狂うことでしょう。
ところが夜遅くになって帰宅した彼女は、室内を見渡しても文句ひとつ言いません。
それどころか結婚以来テレビがなかった我が家に、突如として出現した新品のカラーテレビの存在にさえ気付いていないようです。
ふたりで遅めの夕食を取って眠れない一夜を過ごした次の日の朝、僕は勤め先の電機会社があるオフィスビルへ向かいました。
僕はエレベーターに乗るのが苦手なために、いつも9階のオフィスフロアまで階段を上っていくようにしています。
4階と5階の踊り場を歩いている途中で目撃したのは、前日自宅までテレビを持ってきた3人のうちのひとりです。
昨日と同じブルーの服を着ていましたが、手には何も持っていません。
何か声をかけようかと思いましたが、僕の姿はTVピープルの目には入らないようです。
彼とすれ違う瞬間に、辺りの重力が揺らぐような不思議な感覚を感じました。
【転】TVピープル のあらすじ③
その日は会社で朝から、新商品の販売戦略についてのかなり重要な会議がありました。
僕はTVピープルのことが気になって仕方がないために上の空でしたが、全く何も発言しないわけにはいきません。
1度だけコメントして重苦しい雰囲気を和ませるために軽いジョークを言うと、思いのほか高評価を受けます。
普段は相性の悪い課長からも、お褒めの言葉を頂くほどです。
サンドイッチとコーヒーが配られてほっとひと息ついた後も、午後の会議は延々と続きます。
会議室に入ってきたのは、ソニーのカラーテレビを担いでいる5人組のTVピープルです。
ソニーと我々の会社とは商売敵になるはずでしたが、誰ひとりとして咎め立てしません。
ひとりの同僚がトイレに行くために席を外した時に、僕も後を追いかけました。
彼とは入社も同期で飲みに行くことも多く、何でも腹を割って話せる仲です。
二人っきりになってTVピープルについて尋ねてみましたが、まるで相手にされませんでした。
【結】TVピープル のあらすじ④
定時で退社して逃げるように家に戻りましたが、部屋の中は真っ暗で妻はまだ帰っていません。
出版社に勤務している妻は打ち合わせや校了で遅くなることはしばしばでしたが、午後6時を過ぎる時には必ず前もって連絡をするのが夫婦の決まり事でした。
今日に限って留守番電話には何のメッセージも残っていないために、不吉な予感が高まっていきます。
いつの間にかソファーで眠り込んでしまった僕が時計を見ると、時刻はもうすぐ8時です。
テレビの中には会社の階段ですれ違ったTVピープルが映し出されていて、画面の外へと飛び出してきました。
彼が居なくなった後の画面の中では別のTVピープルが、広い工場のようなスペースで飛行機を組み立てています。
画面の外で作業を見守っていたTVピープルがポロリと告げたのは、「奥さんはもう帰ってこないよ」という声明です。
僕は立ち上がって何か反論をしようとしますが言葉が出てこない上に、手のひらが少し縮んでいることに気が付くのでした。
TVピープル を読んだ読書感想
穏やかな春の休日から、予想外の出来事へと巻き込まれていく主人公の様子がブラックユーモアたっぷりでした。
人間と見分けが付かない姿に青いユニフォームを身に纏ったTVピープルには、不気味なイメージの中にも不思議な滑稽さもあります。
自宅マンションから会議中のオフィスまで、お構いなしでテレビを運び込んでしまう厚かましさが印象深かったです。
ヤクルトスワローズの試合中継以外は全くテレビを見ないという、村上春樹の私生活を思い浮かべてしまいます。
多くの謎を残して幕を閉じる物語と、ラストで主人公に降りかかる不条理が忘れ難いです。
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