【ネタバレ有り】バースデイ・ガール のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:村上春樹 2017年11月に新潮社から出版
バースデイ・ガールの主要登場人物
彼女(かのじょ)
ヒロイン。ウェイトレスをした後に公認会計士と結婚。
僕(ぼく)
物語の語り手。彼女と20歳の誕生日について振り返る。
フロア・マネージャー(ふろあ・まねーじゃー)
彼女の職場の上司。
オーナー(おーなー)
彼女が働くレストランの6階に住む。
バースデイ・ガール の簡単なあらすじ
イタリアンレストランでアルバイトをしていた「彼女」は、体調を崩してしまった同僚の代わりに急遽出勤することになります。せっかくの20歳の誕生日なのにあいにくの空模様で、気分は落ち込んでいくばかりです。そんな彼女は普段は決して姿を見せることのないオーナーとの出会いによって、忘れ難い体験をすることになるのでした。
バースデイ・ガール の起承転結
【起】バースデイ・ガール のあらすじ①
11月17日の金曜日は彼女にとっては20歳の誕生日でしたが、いつもと同じようにウェイトレスの仕事が入っていました。
本来であればその日はお休みのはずでしたが、もうひとりのアルバイトの女の子が40度近い熱を出して寝込んでしまったためにとても出勤出来る状態ではありません。
彼女が働いているのは六本木に店を構える、そこそこ名の知れたイタリア料理店です。
ウェイターがふたりにウェイトレスもふたり、レジには中年の女性がひとり座っています。
スタッフに指示を出しつつ常連客の相手をするのは、40代半ばかと思われるフロア・マネージャーです。
この店のオーナーはレストランが入店しているビルの6階に自宅兼事務所を持っているようでしたが、彼女は1度も会ったことがありません。
フロア・マネージャーただひとりが、毎晩8時に部屋まで夕食を運ぶことを許されています。
その日に限って彼が腹痛に襲われて病院に向かったために、彼女が代わりに食事を持っていくことになりました。
【承】バースデイ・ガール のあらすじ②
フロア・マネージャーが居なくなってから、外では次第に雨脚が強くなっていました。
予約のキャンセルも相次いで客足も伸び悩んでいるために、ひとり少ない人数でもお店の方は何とか回りそうです。
8時になってオーナー専用のメニューが整うと、彼女はワゴンを押してエレベーターに乗り込みます。
廊下を進んで604という番号が振られたドアの前で立ち止まって、ベルを鳴らすとダークスーツを着てネクタイを締めた小柄な老人が出てきました。
部屋の床には毛足の短いグレーのカーペットが敷き詰められているために、靴を脱がずにそのまま奥までワゴンを押していけるようになっています。
いつものフロア・マネージャーではなく彼女が給仕をしましたが、殊更に不思議がる素振りも見せません。
オーナーから年齢を聞かれた彼女は、思わず今日が20歳の誕生日であることを告げました。
特別な記念日と称してオーナーが贈ったのは、彼女の望むことを何でもひとつだけ叶えてくれることです。
【転】バースデイ・ガール のあらすじ③
彼女もオーナーの言ったことを、そっくりそのまま受け止めるほど単純ではありません。
即席のユーモアと捉えて、話を合わせてみることにしました。
もっと美人になりたい、賢くなりたい、お金持ちになりたい。
彼女くらいの年頃の女の子が思いつく願いごとでは、かえって持て余してしまうかもしれません。
まだまだ人生の仕組みについて深く理解していない彼女がオーナーに頼んだのは、一風変わった願いごとです。
オーナーは彼女の願いごとを聞くと、眉間に鋭い皺を寄せて空中の1点をじっと見つめ始めました。
それから両手を広げて軽く腰を浮かせたと思ったら、勢いよく手のひらを打ち合わせて大きな乾いた音を立てます。
既に願いは叶えられたとオーナーは自信満々の様子でしたが、彼女の身の回りにはこれと言って大きな変化は見受けられません。
彼女はエレベーターに乗ってお店に戻った後に、何時ものように厨房とテーブルを行き来しながら黙々と料理を届けるのでした。
【結】バースデイ・ガール のあらすじ④
彼女の20歳の誕生日に纏わる不思議なエピソードを聞き終えた僕の心の奥底には、ふたつの素朴な疑問が湧いてきたのでぶつけてみました。
彼女の願いごとが実際に叶ったのか、その願いごとを選んだために後になって後悔しなかったのか。
相当に時間がかかる願いごとのようで、最初の質問に対する答えはまだ彼女自身にも導き出せていません。
3歳年上の公認会計士として働く夫にふたりの子供、愛犬はアイリッシュセッターで愛車はアウディ、週に2回は女友達と優雅にテニス通い。
レストランのアルバイトを辞めた後の彼女の人生は実に順風満帆になり、ふたつ目の質問の答えは明確なようです。
彼女はお返しとばかりに、僕に向けてひとつの質問を投げかけてきます。
もしも僕が20歳の誕生日にあのレストランにいてあのオーナーと出会ったら、果たして何を願ったのか。
これといって何も思いつかなかった僕は、既に自分自身の力で願いごとを叶えてしまったことに気が付くのでした。
バースデイ・ガール を読んだ読書感想
お誕生日にも関わらず急遽出勤することになりながらも、文句を言うことなく仕事をこなすヒロインの健気さには好感が持てました。
謎めいたオーナーとの邂逅のシーンから、ミステリアスなムードが高まっていきます。
どんな願いでも叶えてくれると言われながらも、どこまでも無欲でピュアなヒロインが微笑ましかったです。
「20歳の誕生日というものは人生に1度しかない、何にも替えがたい大事なもの。」
というセリフが胸にグッときます。
2度と戻ることのない若さと時間の流れの残酷さを痛感するとともに、ありのままに年齢を重ねることの素晴らしさも伝わってきました。
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