映画「この国の空」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|荒井晴彦

映画「この国の空」

監督:荒井晴彦 2015年8月にファントム・フィルムから配給

この国の空の主要登場人物

田口里子(二階堂ふみ)
ヒロイン。役所勤務にも実家暮らしにも退屈している。

市毛猛男(長谷川博己)
里子の隣人。銀行で支店長をしていてバイオリンの演奏もプロ級。

田口蔦枝(工藤夕貴)
里子の母。倹約家で娘を裕福な家に嫁がせたい。

瑞枝(富田靖子)
里子のおば。夫と息子と死別したばかりで精神的に不安。

川俣襄吉(上田耕一)
里子の上司。町内で顔が広く闇の物資の調達にも手を出す。

この国の空 の簡単なあらすじ

第二次世界大戦が終結に近づく中で、母親とふたりで暮らす田口里子が心ひかれていたのは隣の家に住む市毛猛男です。

市毛には田舎に疎開させている妻と子どもがいますが、ある日の夜に里子を自宅に招き入れて一線をこえてしまいます。

戦争が終わって妻の帰郷が決まりますが、里子は市毛をあきらめずに自分の気持ちを貫くことを決意するのでした。

この国の空 の起承転結

【起】この国の空 のあらすじ①

隣家から鳴り響く優雅な旋律

田口蔦枝の夫が結核で亡くなったのは日中戦争が勃発した1937年のことで、娘の里子は12歳になったばかりでした。

杉並区の西のはずれの善福寺町に持ち家があり、世田谷区内には人に貸している家が3軒あって家賃も入ってくるために生活は困りません。

隣には市毛猛男という男性がひとりで住んでいて、時おりバイオリンの美しい音色が聞こえてきます。

音楽家をあきらめて銀行に勤務しているという市毛は、近頃では敵機の攻撃が激しくなってきたために妻と子どもを疎開させているそうです。

ある時に秋田県の親戚から干し餅が届いたために、里子は市毛の家にお裾分けをしに行きました。

職場の上司から分けてもらったという密造のウイスキーをごちそうしてもらい、里子は珍しく酔ってしまいます。

師範学校に行って教師になろうと思っていたが母親から猛反対されたこと、女学校を卒業して家事の手伝いをしながら町会事務所で働いていること、母親とふたりっきりの暮らしはいまいち刺激が足りないこと。

思わず胸の内をしゃべり過ぎてしまった里子は恥ずかしくなり、早めに自宅に引き上げます。

【承】この国の空 のあらすじ②

女3人が身を寄せ合う

1945年6月、里子が自転車で出勤すると所長の川俣襄吉が家にやっかい者が転がり込んできたと愚痴をこぼしています。

新宿に住んでいる弟と義理の妹が空襲で自宅を焼け出されてしまい、省線電車は不通なために歩いて来たのでしょう。

窓口には都内から地方への転出許可証を求める町民が殺到していて、対応に追われていた里子がようやく帰宅すると縁側に座っているのは母の姉・瑞枝です。

結婚して横浜に住んでいた彼女が浦和まで小麦粉の買い出しに行ったのは10日前のことですが、帰ってきた時には家は跡形もなく夫と息子の遺体はいまだに見つかっていません。

他に行く宛てのない瑞枝はその日から田口家の居候となりましたが、蔦枝は部屋を貸す代わりに生活費を1月50円しっかりと徴収します。

神奈川県から東京への転入は認められていないために、瑞枝は配給の食品を受け取ることができません。

蔦枝がついには怒りを爆発させたのは、空腹のあまりに生の豆をつまみ食いした時です。

いがみ合う姉妹を何とかなだめながら、里子は死ぬ時には3人で手をつないで死のうと説得します。

【転】この国の空 のあらすじ③

戦時下のピクニック

夏になっていよいよ食べるものが失くなった里子たちに川俣が紹介してくれたのは、軍には内緒で物々交換をしている山あいの農家です。

取って置きの着物と帯を抱きなら歩き続けていた蔦枝と里子は、途中で喉が渇いたために土手の側を流れている川の浅瀬に入って浴びるように水を飲みました。

人目を気にすることもなく服を脱ぎ捨てた蔦枝は、里子の体つきがすっかり「女」になっていることに気がつきます。

市毛には気を許してはいけない、何時だって損をするのは女の方。

娘を戒める蔦枝にも、若い頃に1度だけ夫以外の男性との関係に溺れたことがあったことを告白しました。

市毛が責任者を任されている大森支店にかなりの量のお米が届いたために、里子も闇の相場で譲ってもらいます。

支店の通用口からお米の入ったリュックサックを背負って出てきた市毛と里子が、帰りに立ち寄ったのは眼下に海を見下ろす神社です。

蔦枝が持たせてくれたお弁当を食べ終わったふたりは、境内でキスをしますが社務所の職員に見つかってしまいました。

天皇陛下でさえ頭を下げる神聖な場所を汚したと責められたふたりは、大慌てで石段を降りて退散します。

【結】この国の空 のあらすじ④

わたしの中の戦火は消えない

8月1日、田口家の敷地内で栽培していたトマトは大きな葉っぱをつけて真っ赤に実のっていました。

特に柔らかく熟していそうな実を3つほど収穫した里子は、先日の米のお礼としてに夜遅くに市毛の家に持っていきます。

トマトにかぶり付いた市毛は友人の新聞記者から入手した機密情報をこっそり教えてくれて、間もなくアメリカとの和平交渉が成立するとのこと。

午後10時前にはラジオ放送が終了して徹底した節電制限が敷かれる中で、里子と市毛は真っ暗な部屋の中で愛し合います。

井戸のポンプで水をくんで体の汚れを洗い流していた里子に、市毛がそっと差し出したのは妻が使っていたと思われる女性用の浴衣です。

いつものようにバイオリンを聞いていかないかと勧められましたが、里子は丁重にお断りします。

日本が全面的降伏をしたら、市毛の妻は次の日にか遅くとも半年後にはこの家に戻ってくるでしょう。

この国の空に平和が訪れたその時にこそ、里子にとっての「戦争」が始まるのでした。

この国の空 を観た感想

貴重な青春時代を過酷な戦時で浪費する主人公の田口里子役を、二階堂ふみが涼しげな表情で演じていきます。

防空ごうの中で息を殺しながら敵機の襲来に備えながらも、ひそかに妻子のある男性に思いを寄せてしまうところも色っぽいですね。

芸術家を挫折して銀行員に甘んじている市毛猛男役の長谷川博己も、どこか退廃的なムードを漂わせていました。

非常事態にも関わらずデート気分で闇米を受け取りに行ったふたりが、帰り道で神をも怖れぬ口づけを交わすシーンが背徳的です。

戦争中の食糧難や不自由な生活の息苦しさよりも、愛する人と一緒になれないこと方が何よりもつらいのかもしれません。

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