【ネタバレ有り】スクラップ・アンド・ビルド のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:羽田圭介 2015年8月に文藝春秋から出版
スクラップ・アンド・ビルドの主要登場人物
田中健斗(けんと)
フリーター。多摩市の実家で母と祖父との3人暮らし。
亜美(あみ)
健斗の彼女。アパレル店員。
大西大輔(おおにしだいすけ)
健斗の友人。介護福祉士。
吾郎(ごろう)
健斗の叔父。埼玉県在住。
スクラップ・アンド・ビルド の簡単なあらすじ
自動車ディーラーの会社を退職した田中健斗は、毎日のように「死にたい」とぼやく祖父の願いを叶えてあげることにします。就職活動やアルバイトで忙しい中でも健斗が綿密に練り上げていく計画は、「完全なる尊厳死」です。孫として最初で最後の孝行に励んでいくうちに、健斗の身の回りにも次第に微妙な変化が訪れるのでした。
スクラップ・アンド・ビルド の起承転結
【起】スクラップ・アンド・ビルド のあらすじ①
カーディーラー時代の多忙さとは打って変わって、田中健斗は派遣の肉体労働や治験アルバイトを転々としながら無為な日々を送っています。
友人主催のバーベキューパーティーで知り合った亜美とのデートも、近頃ではマンネリ化していく一方です。
そんな健斗にとって気掛かりなのは、4年前から同居を始めた87歳の祖父のことでした。
4年間一緒に暮らしてきた叔父・吾郎の家から移ってきましたが、健斗の母親とは余り上手くいっていません。
「死んだらいい」という祖父の魂の叫びを聞き流していた健斗は、次第にその考えに心惹かれていきます。
究極の自発的尊厳死を追い求めている祖父の手助けを出来るのは、この家の中では時間の有り余る健斗しかいません。
土曜日の午後に小学校時代からの友人で介護業界で働いている友人、大西大輔にファミレスで相談してみます。
被介護者の動きを奪って使わない機能を衰えさせて、短期間でやり遂げることこそが最も有効な手段のようです。
【承】スクラップ・アンド・ビルド のあらすじ②
4月の初旬を迎えて暖かくなってきたある日のこと、祖父が衣替えのために衣類の整理をしていました。
脳を活性化する機会を徹底的に奪おうと、健斗は積極的にお手伝いをします。
リハビリの代わりに取り込んだ洗濯物を畳む数少ない祖父のお仕事も、全て自分でやってしまい触らせません。
今後は祖父の社会復帰に繋がるような作業は、しらみつぶしに排除するつもりです。
今まで無意識に支払っていた国民年金保険料も老人を無駄に長らえさせるシステムなので、引き落とし用の口座から全額預金を引き出すことを決意しました。
祖父の運動機能を効率的に低下させるためには、健斗自身も今のだらけきった毎日を改めて衰えた肉体を鍛え上げなくてはなりません。
祖父をデイケア施設に送り届けた後の和室での筋力トレーニング、早寝早起きを心掛けた規則正しい生活、栄養バランスとカロリー計算に気を使った食事。
身体的な変化と共に、就職活動への意欲も自然と湧いていきます。
【転】スクラップ・アンド・ビルド のあらすじ③
いつものように母が出勤した後に健斗がリビングルームで見ていたのは、返却期限が迫っているDVD「硫黄島からの手紙」です。
ふとソファーに座っている祖父に目をやると、彼が海軍学校の出身であることを思い出しました。
太平洋戦争の経験者には、アメリカ人が監督した戦争映画は余り相応しくありません。
居心地の悪さを感じたのか、祖父は自室に引きこもってしまいます。
祖父とは僅かに5歳年下になるクリント・イーストウッドが、今でも現役で映画を撮ったり出演していることは到底信じられません。
夕方過ぎに仕事を終えて帰宅した母に、祖父が戦時中に乗り込む予定だったという特攻機について訪ねてみます。
母が中学生の頃に祖父の戦友から聞いた話によると、適性検査に引っかかって飛行機のパイロットにはなれなかったようです。
水戸の高射砲に配属されて敵機を撃墜する任務に当たっていたそうですが、同年代の戦中派が亡くなっているために確かめる術はありません。
【結】スクラップ・アンド・ビルド のあらすじ④
ここ数か月の生産的な生活の結果からか、健斗は医療機器メーカーに営業職として中途採用されました。
勤務地は茨城県のつくば学園都市で、社宅はそこから10キロ程度離れた所にある鉄骨造のアパートです。
お見送りについてきた祖父は、ちょっぴり寂しそうにしています。
母と叔父の吾郎は長崎県にある特別養護老人ホームへの予約を申し込みましたが、2~3年は順番待ちをしなければなりません。
健斗が赴任先から東京の本社に戻って来る頃には、祖父は特養ホームに入所して介護のプロたちによって強制的に長生きさせられているでしょう。
最寄り駅のロータリーに着き母の運転する車から降りた健斗は、リアウィンドウ越しに祖父の顔が見えなくなるまで手を振り続けました。
京王相模原線乗り込んで多摩川に差し掛かる寸前に、健斗は優先席付近に座っていた老人に目を向けます。
祖父と母がこれから上手くやっていけるか、健斗自身も1年ぶりのサラリーマン生活の幕開けに不安で一杯です。
スクラップ・アンド・ビルド を読んだ読書感想
これからもますます加速していく高齢化社会に想いを巡らせて、暗澹たる気持ちになってしまいました。
過度な延命治療によって個人の尊厳が失われていく、深刻な医療や介護での現場を垣間見ることができます。
その一方では介護や終末医療と言った重いテーマが、ユーモラスなタッチで描かれていて共感もできました。
誰しもが年齢を重ねて死へと向かっていく宿命からは逃れられないとしても、自分らしい最期を選ぶことことは出来るはずです。
モラトリアム青年の旅立ちと、全てを受け入れた老人とのつかの間の交流には心温まるものがあります。
コメント