【ネタバレ有り】繁栄の昭和 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:筒井康隆 2014年9月に文藝春秋から出版
繁栄の昭和の主要登場人物
私(わたし)
岸本法律事務所の経理担当。物語の語り手。
檜垣六太郎(ひがきろくたろう)
会社社長。銃撃を受けて死亡する。
緑川英龍(みどりかわえいりゅう)
推理小説家。現在は休筆中。
繁栄の昭和 の簡単なあらすじ
ノスタルジックなムードのビルの中にある法律事務所で経理担当の事務員として働いていた「私」は、ある時に殺人事件を目撃します。推理小説の愛好家なりに犯人探しをしているうちに、驚くべき事実にたどり着くのでした。
繁栄の昭和 の起承転結
【起】繁栄の昭和 のあらすじ①
岸本法律事務所は第二次世界大戦前から建てられた2階建ての岸本ビルの1階を占めるテナントになり、明治通りに面しています。
私は事務所で経理を担当していましたが、商学部の出身で法律に関する知識はないために直接的に事件の調査をすることはありません。
ビルの2階には芸能事務所と探偵社があり、1階の法律事務所と廊下の間はガラス張りになっているために来客の姿がまる見えです。
ある冬のこと表通りで微かな銃声を聞いたため帳簿を付けていた私が視線を上げると、ビルの入り口から入ってきた大柄な男性が血を流しながら倒れ込んでいます。
電話を受けて警察官が駆けつけてきた時には、被害者の東亜工業取締役社長・檜垣六太郎は既に亡くなっていました。
【承】繁栄の昭和 のあらすじ②
1階の岸本法律事務所、2階の探偵社と芸能事務所。
いずれの事業所の責任者も、檜垣氏とは面識がありませんでした。
事件発生当時に丁度明治通りを歩いていた主婦の証言によると、銃声を聞いたものの銃弾が飛んできた方角も分からずに怪しい人影も見ていません。
捜査関係者の調べによると、檜垣氏が経営する会社は業績も順調で取引相手から恨みを買うようなこともないようです。
何の進展もないままで事件が迷宮入りとなっていく中でも、熱心な推理小説の愛読者である私は真犯人の正体について自由気ままに想いを巡らせていきます。
次第に今回の事件の概要と、私が特に敬愛するひとりのミステリー作家との間に不思議な共通点が浮かび上がってきました。
【転】繁栄の昭和 のあらすじ③
緑川英龍は昭和初期から太平洋戦争勃発の直前にかけてまで、数多くの探偵小説を世に送り出してきた人気作家です。
過激な描写と進歩的な思想から戦時中は思想警察や軍部から目を付けられていて、何冊かの代表作は厳しい検閲を受けて発禁処分にまで追い込まれてしまいます。
戦後を迎えても相変わらず根強いファンからの支持を集めていましたが、本人はなかなか次回作を発表しません。
つい最近になって私が購読している文芸雑誌のゴシップ欄に、緑川英龍が新たな作品を構想中だという小さな記事が掲載されました。
仮に彼が長編小説を書いたとすれば実に十数年ぶりになり、昔の復刻版を読み返すばかりだった私は新作が書店の店頭に並ぶ日が待ちきれません。
【結】繁栄の昭和 のあらすじ④
いつまで経っても檜垣六太郎殺害事件は解決することもなく、緑川英龍も一向に執筆活動を再開しません。
私も30代の半ばのままで年を取ることもなく、岸本法律事務所で働いているメンバーの顔ぶれも依然として同じままです。
更には大正モダニズムの面影を留めたままの岸本ビルも、老朽化することもなく建て替えられることもなく明治通りに佇み続けていました。
時代はまさに高度経済成長期真っ只中で東京都内の古くなった建物が次から次へと取り壊されていく中でも、この街のこの一角だけは永遠に同じ風景のままです。
私は小説の中の登場キャラクターでしかなく、檜垣氏殺人事件の真相は緑川英龍が作品を完成させてから初めて明らかになるのでした。
繁栄の昭和 を読んだ読書感想
1番に印象に残っているのは、「もう二度と取り返すことのできない昭和の繁栄」というセリフでした。
経済成長によって歴史的建造物や昔懐かしい街並みが取り壊されていくことへの静かな抵抗が込められています。
著者自身も経済的かつ文化的な発展の恩恵を受けた世代であり、新しい価値観や考え方をすんなりと受け入れる柔軟性を持っていました。
一方では決して忘れることが出来ない古き良き昭和を、せめて書物の中にだけでも焼き付けておこうという強い決意が伝わってきます。
過去の膨大な知識を受け継ぎつつ、新たな物語を生み出していく著者の旺盛な創作意欲には圧倒されました。
元号が変わる今だからこそ、幅広い世代の方たちに手に取って頂きたい1冊です。
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