著者:東野圭吾 1989年5月に新潮社から出版
鳥人計画の主要登場人物
楡井明(にれいあきら)
ジャンプ競技で金メダルを期待されるスキー選手。原工業に所属。能天気でプレッシャーとも無縁。
峰岸貞男(みねぎしさだお)
原工業のコーチ。 選手時代に果たせなかった夢を楡井に託す。
杉江泰介(たいすけ)
日星自動車スキー部の監督。息子の翔に英才教育を叩き込む。
杉江夕子(すぎえゆうこ)
楡井の恋人。幌南スポーツセンターに勤務していて医学の知識も豊富。
佐久間公一(さくまこういち)
札幌西警察署の刑事課に勤務。ウインター・スポーツにも詳しい。
鳥人計画 の簡単なあらすじ
スキー・ジャンプの期待の若手として注目を集めていた楡井明が毒殺されて、コーチの峰岸貞男が逮捕されます。
楡井がひそかにライバルチームの日星自動車に協力していたことが動機でしたが、真犯人は楡井の恋人であり日星の監督の娘でもある杉江夕子です。
自分の息子を犠牲にしてまでメダリストの育成を続けていた杉江監督は、娘の告白を聞いて計画の中止を決意するのでした。
鳥人計画 の起承転結
【起】鳥人計画 のあらすじ①
北海道の宮の森シャンツェでは札幌オリンピック記念のジャンプ大会が行われていて、優勝候補は「鳥人」の異名を持ち原工業に所属する選手・楡井明です。
その楡井が死んだという知らせが札幌西警察署に入ったために、捜査一係の刑事・佐久間公一は現場へと向かいました。
遺体の第1発見者は札幌市南区のスポーツセンターに勤めている杉江夕子で、楡井とは数カ月ほど前から交際しています。
発見場所はオリンピックの記念碑と管理事務所が並んでいる中間あたりのジャンプ台で、楡井の方から呼び出しがあったそうです。
解剖の結果から楡井が毒を飲んだことが分かったために、佐久間は原工業のジャンプ・チームのコーチ・峰岸にも話を聞いてみました。
峰岸の話では楡井はカプセルタイプのビタミン剤を常用していて、ホテル円山の本館1階にある「ライラック」というレストランに預けています。
大会に出場する選手やコーチはここのレストランで食事をすることになっているので、誰でもカプセルを毒入りの物とすり替えることは可能です。
【承】鳥人計画 のあらすじ②
捜査本部に「楡井明を殺したのは峰岸」と書かれた封筒が送り付けられたのは、事件が発生してから4日が経過した頃です。
今年の年末年始は生まれ故郷の小樽市で過ごしたという峰岸の足取りをたどってみた佐久間は、実家から200メートルほど離れたところにある古本屋を訪ねてみました。
2年前に亡くなった店主はアイヌ民族の研究をしていて、熊狩り用の毒として使われていたトリカブトの根をガラス瓶に保存しています。
お店の奥にある引き出しからトリカブトの瓶が紛失していたことと、整理棚から指紋が出たことで峰岸を逮捕する物的証拠としては十分です。
長期間に渡った勾留にも毎日のように夜遅くまで続けられる厳しい取り調べにも、峰岸は一貫して楡井を殺害した動機について語ろうとはしません。
いま現在宮の森シャンツェで行われているジャンプ大会のことをひどく気にして落ち着かない峰岸のために、佐久間は取り調べ室にポータブル・テレビを持ち込んできました。
【転】鳥人計画 のあらすじ③
優勝候補の楡井が出場していないこの大会で、バッケン・レコード(最長不倒飛行記録)を更新して優勝したのは日星自動車に所属する杉江翔です。
楡井とまるっきり同じフォームで着地を決めた翔を、峰岸はテレビ画面越しに食い入るように見つめていました。
佐久間は翔の父親であり日星自動車の監督でもある杉江泰介について、顔見知りになったスキー関係者たちに聞いてみましたがあまり評判は良くありません。
選手にフォーム矯正用の特殊なギプスを装着して練習させて大ケガを負わせたり、ドーピングにまで手を出しているとの疑惑もあります。
泰介の狙いは天才的な才能を秘めた楡井のデータを集めて、自社が開発した高性能のシミュレーターを使ってそっくりそのまま翔へコピーすることです。
幼い頃に母親と死別した楡井は、初めて夕子と出会った時から彼女のことを実の母のように慕っていました。
原工業と峰岸を裏切ってまで日星に協力したのも、すべては夕子を喜ばせてあげたかったからです。
【結】鳥人計画 のあらすじ④
スポーツセンターのメディカル・サロンで医学的な視点から会員を指導していた夕子は、人体実験のようなシミュレーターの危険性をいち早く察知していました。
肉体改造が翔に及ぼしている悪影響を涙ながらに訴えていましたが、泰介にはまるで聞き入れてもらえません。
残された最後の手段として夕子は、楡井が殺害されて峰岸が逮捕された一連の事件の真相を父親に打ち明けます。
楡井は自分の裏切りに気がついた峰岸が何かを仕掛けてくることを予測していて、事件があった日もビタミン剤のカプセルをなめた瞬間に異変に気がついて吐き出していました。
電話で助けを求めてきた楡井に対して、夕子は解毒剤と称して毒カプセルを溶かした水を飲ませます。
楡井が死ねば翔が解放されると信じていたからで、それでも泰介が実験を続けるのであれば夕子は警察に行って自首をするつもりです。
娘を殺人者にすることだけは出来ない泰介は監督を辞任してジャンプ界からも身を引き、ようやく鳥人計画は中止となるのでした。
鳥人計画 を読んだ読書感想
天賦の才能に恵まれたスキー選手・楡井明を中心にして、いくつもの企みが進行していき思惑とそれぞれの思惑が絡み合っていく展開がスリリングでした。
亡き母親の面影を重ねて慕っていた杉江夕子に、楡井が最終的には手痛いしっぺ返しを食らってしまうのがほろ苦いです。
最先端の科学を取り入れたトレーニングの有効性ばかりでなく、スポーツ界にはびこる勝利至上主義を鋭く指摘していて考えさせられます。
プロスキーに関する豆知識やこぼれ話も随所に盛り込まれていますので、ウィンタースポーツを趣味にしている皆さんは是非とも手に取ってみてください。
コメント