著者:恩田陸 2015年5月に双葉社から出版
ブラック・ベルベットの主要登場人物
神原恵弥(かんばらめぐみ)
主人公。世界中を旅して新種の薬を発見するプラントハンター。女性ばかりの家系に生まれたため女言葉を使う男性。
橘浩文(たちばなひろふみ)
恵弥の元恋人。 ゼネコンの仕事が忙しくほとんど日本に帰らない。自身の性的指向に思い悩む。
多田直樹(ただなおき)
国立の医療機関で感染症について研究する。
アキコ・スタンバーグ(あきこ・すたんばーぐ)
多田の義理の姉。 水質調査のプロフェッショナルで正義感も強い。
神原和見(かんばらかずみ)
恵弥の妹。 中堅の弁護士事務所に勤める。一時期は家族と絶縁状態だった。
ブラック・ベルベット の簡単なあらすじ
行方不明となったアキコ・スタンバーグの捜索を頼まれた、神原恵弥が向かったのは中東のT共和国です。
製薬会社の不祥事を知ったスタンバーグ教授は命を狙われていたために、自分の替え玉が殺害される芝居を恵弥に目撃させます。
真相を見抜いた恵弥ですが、スタンバーグ教授は死んだと偽の報告を届け彼女の安全を保証するのでした。
ブラック・ベルベット の起承転結
【起】ブラック・ベルベット のあらすじ①
アメリカの製薬会社ウィザード・コーポレーションに勤めている神原恵弥は、国立感染症研究所の職員・多田直樹から人探しを頼まれました。
鉄鋼王が作った財団のK研究所で博士を務めるアキコ・スタンバーグ、植物全般に詳しく研究分野は水質の浄化、多田にとっては兄の妻。
感染症に関する国際会議に出席した後に高校時代の友人を訪ねてT共和国で休暇を取っているはずですが、予定の1週間を過ぎても帰国しません。
多田からスタンバーグ博士の顔写真を受け取った恵弥ですが、T共和国にはもうひとつのプライベートな目的があります。
警察庁が武器輸出の疑いをかけてマークしている、橘浩文と現地で再会することです。
大手のゼネコン・G建設で海峡に架かる橋を現場監督として造っている浩文と恵弥は、高校生の頃に恋愛関係にありました。
警察官僚の父親を持つ浩文は世間体を気にして恵弥と別れた後に、一般女性と家庭を持とうとしましたがすぐに離婚したと聞いています。
【承】ブラック・ベルベット のあらすじ②
日本からの直行便で13時間かかって巨大な国際空港に到着した恵弥は、イスタンブールの繁華街の外れにある外資系ホテルのロビーで浩文を見つけました。
いま現在では建設会社の副社長も務めている浩文はT共和国の観光案内にも詳しく、市街地の騒がしさから離れたお勧めのレストランを紹介してもらいます。
周りのビルの入り口がよく見渡せるテーブル席に案内された恵弥が見たのは、緑色のワンピースを着た東洋人らしき女性です。
慌ててお店を飛び出してその後ろ姿を追いかけますが、彼女は見知らぬ若い男に背中をナイフで刺されて倒れてしまいました。
アメリカ人旅行客がイスタンブール市内の繁華街で刺殺、犯人はその場で警察官によって逮捕、意味の分からない供述を繰り返しているために突発的な通り魔。
次の日の朝には大手アメリカのニュースサイトで速報が報じられますが、恵弥はまったく納得していません。
写真の中に映っているスタンバーグ教授はせいぜい160センチ程度でしたが、恵弥が見た女性はかなりの長身だったからです。
【転】ブラック・ベルベット のあらすじ③
スタンバーグ教授が数年前にT国を訪れた時に、数カ所の水源地帯から検出したサンプルが「ブラック・ベルベット」です。
黒いコケのような物資で土地や水の中に含まれている毒を中和する効果があるために、スタンバーグ教授は独力で研究を続けていました。
ブラック・ベルベットについて調べていた最中に、T共和国の水や土を汚した犯人がウィザード・コーポレーションであることに気がつきます。
アメリカの有名な製薬会社が中東の大国でひそかに生物兵器を製造していた事実が明るみに出れば、国際問題や軍事衝突の火種になりかねません。
情報機関によって盗聴・盗撮・監視されるようになったスタンバーグ教授は身の危険を察知して、アメリカから亡命します。
アキコ・スタンバーグの存在を合法的にこの世から消すためには、替え玉が殺されるお芝居を公衆の面前で演じるしかありません。
目撃したのがウィザード・コーポレーションに所属する恵弥であれば、当局も彼女の死を疑うことはないでしょう。
【結】ブラック・ベルベット のあらすじ④
スタンバーグ教授の「死亡」を会社に報告した恵弥は、もうひとつの厄介事を片付けることにします。
まもなく警察を定年退職する父親のために、浩文はT共和国で武器輸出にタッチしている人間を調べて定期的に日本へ報告していました。
進学校を卒業して安定した企業に就職、結婚して家庭を築き子育て、休みの日には孫の顔を見せに両親の家へ。
すべては父が思い描いていた人生を大きく裏切ることになった息子からの、せめてもの罪滅ぼしです。
潜入捜査官でもない素人が探偵ごっこをすると危険だという恵弥の忠告のお返しに、浩文も早くウィザード・コーポレーションを辞めてフリーになれとアドバイスを送ります。
弁護士をしている妹の和見から事務所に敷くトルコじゅうたんを買ってくるように頼まれていたことを思い出した恵弥が、出国前に寄り道をしたのはイスタンブールのバザールです。
緑色のワンピースを着て帽子で顔を隠した小柄な女性が、すれ違い際に「恵弥さん、ありがとう」と声をかけてくるのでした。
ブラック・ベルベット を読んだ読書感想
ストーリーの舞台になっているのはT共和国という設定ですが、イスタンブールやトルコじゅうたんといったキーワードが出てくるためにすぐに具体的な国名が分かるでしょう。
ヨーロッパとアジアの玄関口でもあり、西洋式の文化と東洋的な思想・信条がごちゃ混ぜとなった不思議な街でもあります。
見た目は男前でも日常会話には女言葉を使う、主人公・神原恵弥のキャラクターともピッタリと合っていました。
世界的にトップクラスの研究者が集まる製薬会社の巨大な陰謀に対して、たったひとりで立ち向かい消えていった女性の姿も忘れられません。
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