「蒲公英草紙 常野物語」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

「蒲公英草紙 常野物語」

【ネタバレ有り】蒲公英草紙 常野物語 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:恩田陸 2005年6月に集英社から出版

蒲公英草紙 常野物語の主要登場人物

中島峰子(なかじまみねこ)
ヒロイン。医師の父と和裁を教える母に育てられる。

槙村聡子(まきむらさとこ)
峰子の友人。心臓に疾患を抱える。

槙村勇造(まきむらゆうぞう)
聡子の父。槙村家17代目の当主。

春田紀代子(はるたきよこ)
両親と共に各地を放浪中。

春田光比古(はるたみつひこ)
紀代子の弟。

蒲公英草紙 常野物語 の簡単なあらすじ

東北地方の田舎町で暮らしていた中島峰子が親しくなったのは、この土地の有力者の娘である槙村聡子です。病弱で引きこもりがちだった聡子は、峰子との出会いがきっかけになってみるみるうちに活力を取り戻していきます。そんなふたりは全国各地の旅を続ける不思議な一家との交流を深めていくうちに、忘れ難い体験をするのでした。

蒲公英草紙 常野物語 の起承転結

【起】蒲公英草紙 常野物語 のあらすじ①

深窓のお嬢様との束の間の交流

福島県との県境の農村地帯で暮らしていた中島峰子は、父からこの集落の大地主・槙村勇造の家へ通って娘の聡子の相手をすることを頼まれました。聡子は生まれつき身体が弱くて、学校に行ったり遠出をすることが出来ません。

峰子は直ぐに聡子と打ち解けて、ふたりの関係性は単なる話し相手から親友へと変わっていきます。

体調が良い日は峰子に付き添われて近所を散歩をしたり、近所の子供たちの面倒を見るほどです。

そんなある日のこと、槙村家のお屋敷を春田一家が訪ねてきました。

4人家族で旅をしながらあちこちに住んでいて、当主からも歓迎され離れの洋館「天聴館」へと迎え入れられます。

春田家の長男・光比古は峰子とは同世代で、長女の紀代子はもう少し年長でしょう。

一家はすんなりとこの土地の暮らしと地元の人たちに馴染んでいき、峰子と聡子は今ではすっかり姉弟と仲良しです。

やがて若葉が山々を覆う季節になると、天聴館では例年通りに大きな宴会が開かれました。

【承】蒲公英草紙 常野物語 のあらすじ②

宴の場で明かされる一族の秘密

「天聴会」というこの催しには村の発展に尽力した人たちや村の有力者が多数招かれて、豪華なご馳走が振る舞われていました。

勇造は権威や仕来たりにうるさい方ではないために、峰子や春田姉弟も同席を許されています。

他言無用という条件で明かされたのは、槙村家と春田家との100年以上も前に遡る縁です。

槙村の集落がまだ小さく貧しかった頃、山を越えた遠い集落から若い女性が嫁いできました。

よく働く美しい娘でしたが、彼女はしばしば未来を言い当てて周囲を驚かせていたそうです。

彼女の出身地を調べたところ、北の地方に広く散らばって生活している「常野」と呼ばれる一族であることが判明します。

彼女はある年に発生した山崩れを予言して、自らの命と引き換えに多くの村人を救いました。

それ以来当家では常野の末裔がこの地に現れた時に、あらゆることをして労うのが習わしになっています。

どうやら常野の血を受け継いだ、紀代子と光比古にも不思議な力があるようです。

【転】蒲公英草紙 常野物語 のあらすじ③

晴天の霹靂と母の嘆き

大人たちが稲刈りで忙しくなると、峰子と聡子は小さな女の子たちを集めてお菓子を配ったりお話を聞かせてあげていました。

澄んだ晴天が続いていた秋の日でしたが、突如として強い雨が降り始めます。

近所の一軒家に子供たちを誘導して雨宿りをしますが、あっという間に家の前は濁流の川と化していて逃げることはできません。

聡子が思い付いた脱出方法は、雨戸を外してボートの代わりに利用することです。

戸板に全員でしがみついて、頑丈な石垣でできたお寺のお堂へと漕ぎ出しました。

峰子たちは無事にお堂の中に避難して助かりますが、聡子は逃げ遅れた子供を庇った末に流されてしまいます。

下流の岸辺にある祠で聡子の遺体が発見されたのは、台風が去ってから3日後のお昼近くのことです。

徐々に村の復旧作業は進んでいきましたが、聡子の母親の哀しみが癒されることはありません。

災害で亡くなった人たちの合同葬儀の場で、彼女は最期に一目聡子に会いたいと嘆きます。

【結】蒲公英草紙 常野物語 のあらすじ④

死者の思いと新たな旅立ち

聡子の母の願い事を叶えたのは光比古で、彼には人間の姿形や記憶そのものを自分の中に飲み込む「しまう」という能力がありました。

天聴会の時にこの力に目覚めて聡子を「しまって」いた光比古は、口の中で何かを呟きながら勇造と聡子の母の手を握りしめます。

次の瞬間にその場にいた人たちが見たのは、生前の聡子の心の中の風景です。

産まれて直ぐに始まった長い療養生活、峰子との出会いと楽しい時間、あの雨の日の辛く苦しい場面。

最期に耳ではなく身体の何処かに聡子の声が聞こえてきて、父や母・峰子に対して感謝の気持ちを伝えました。

初雪が降ったある日の朝、峰子が見たのは開け放たれた天聴館の窓です。

聡子の葬儀以来春田一家がこの村にいるだけで安心感がありましたが、旅に生きる一族であるだけに次の土地を目指さなければなりません。

来た時と同じように少ない荷物を纏めて去っていく光比古を見送った峰子は、幸せな少女時代が連れ去られていくことを感じるのでした。

蒲公英草紙 常野物語 を読んだ読書感想

宮沢賢治の童話や柳田国男の民間伝承を思わせるような、独特な世界観へと誘われていきました。

好奇心旺盛なヒロインの中島峰子が、深窓のお嬢さま・槙村聡子と心通わせつつお屋敷の外へと連れ出していく様子が微笑ましかったです。

生まれ育った田舎町から1歩も出たことがない峰子と聡子の、まだ見ぬ世界への漠然とした憧れも伝わってきました。

不思議な力を秘めたまま全国各地を放浪し続けている、春田紀代子・光比古姉弟との出会いと交流にも心温まるものがあります。

逞しく成長していく4人の少年少女たちに降りかかる、終盤での悲劇と別れが痛切です。

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