【ネタバレ有り】空中ブランコ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:奥田英朗 2004年4月に文藝春秋から出版
空中ブランコの主要登場人物
伊良部 一郎(いらぶ いちろう)
精神科医で、父親が医師会の理事。35歳だが肥満で清潔感がない見た目と図々しい性格で難ありな人物。注射フェチ。
マユミ(まゆみ)
伊良部の下で働く若く美人な看護師。愛想はないが、露出の高い服装をしているので男性患者からは受けがいい。
星山愛子(ほしやま あいこ)
女流作家。「恋愛のカリスマ」と呼ばれ、小説のほかにエッセイや紀行文も手掛けている。嘔吐症と強迫症に悩み、伊良部の神経科を受診する。
中島さくら(なかじま さくら)
フリー編集者。愛子の数少ない友達で、あけすけに言い合いえる仲。
麗奈(れいな)
近年売り出し中の女性作家。愛子との対談で挑発的な態度を取る。
空中ブランコ の簡単なあらすじ
星山愛子は、読者から「恋愛のカリスマ」と謳われる人気女流作家です。都会派でお洒落な作風が受け、今では作品が映像化されたり、本人が顔出しをしてインタビューを受けたりするほどの地位と人気を得ました。担当編集者は年下が多くなり、愛子の機嫌を損なわないよう下手に出るので、愛子はわがままも言いたい放題です。順調に作家としてのキャリアを積んできた愛子でしたが、最近、執筆中に嘔吐することが度々あり、伊良部総合病院の神経科を受診します。
空中ブランコ の起承転結
【起】空中ブランコ のあらすじ①
星山愛子、本名牛山愛子は、「恋愛のカリスマ」と謳われる女流作家です。
都会に生きる男女の機微を描かせたら当代一だと女性誌で褒められたこともあり、二十八歳のときに作家デビューしてから今日までの八年間、三十冊以上の小説やエッセイを著してきました。
書店や図書館の本棚には、星山愛子の「耳」もあり、作品の中にはベストセラーになったものや、映像化されたものもあります。
雑誌のコラムライターから苦も無く小説家に転身し書きあげてきました。
古くからの友人でフリー編集者の中島さくらは、愛子の小説を商社マンや広告ディレクター、デザイナーやモデルなど横文字の職業の男女しか登場しないスカスカな恋愛小説と揶揄してきますが、愛子は有名な自分への嫉妬だとさくらの言葉を聞き流してきました。
本が売れてこそ価値があるのだと愛子は考えているのです。
かつて、ライトな恋愛小説からの脱皮をはかり、資料を読み漁り、丹念に取材をし、全力を傾けて書きあげた『あした』という作品があります。
家族の崩壊と再生をテーマにしたそれは、各紙誌で絶賛され、辛口のさくらでさえ興奮気味に傑作だと連絡をよこしてきました。
愛子はこれで自分は変わると確信しましたが、『あした』の売れ行きは芳しくありませんでした。
重版はされることなく、二箇所ある誤植も直せずそのままの状態です。
玄人には好まれてもセールスにはつながらない過酷な現実を思い知った愛子は、ショックのあまり半年間何も手につかない状態になりました。
それ以来、読者が好む、さくらに言わせればスカスカな恋愛小説を書き続きています。
【承】空中ブランコ のあらすじ②
夜中の執筆中、はたと手が止まった愛子。
登場人物の職業が気にかかり、集中できません。
以前の作品でもキュレーターの主人公を登場させたのではないかとモヤモヤしてきます。
本棚の前にしゃがみこみ著作を遡ります。
実業団ラグビー部のキャプテンと広報課のOL,傲慢な音楽プロデューサーと物静かなスタイリスト、正義感あふれる新聞記者と美貌の議員秘書……。
エリート商社マンは三回ほど登場していました。
今回の商社マンはニューヨーク勤務なので、よしとすることにしました。
一時間かけて調べ、キュレーターがないことを確認した愛子は、急に胃のむかつきを感じ、水を流し込みます。
机に向かい、原稿の続きを再開しようとしますが、なにやら落ち着きません。
見落としはなかったが気になり、また本棚の前にしゃがみこむと、猛スピードで著作ページをめくっていきます。
その時、喉元に酸っぱいなにかかがこみ上げ、軽く嘔吐してしまいました。
少しすると今度は激しい嘔吐が襲ってきて、胃の中のものをすべて吐き出してしまいます。
異変を感じた愛子は、伊良部総合病院の神経科を受診します。
【転】空中ブランコ のあらすじ③
対面した伊良部に愛子は、丸まる太り清潔感がない見た目の伊良部にドン引きはしたものの、症状を訴えます。
「嘔吐症 」と診断され、むかつくことがあると、ほんとうに吐いてしまうのがその症状だと言います。
原因究明とその除去をすすめられ、愛子は『あした』のショックから立ち直れていないことが原因だと思い当たります。
魂を込めて書いた小説がまったっく売れず、心の棘として刺さったままの状態で過ごしてきたのです。
伊良部は執筆活動を少し休んだらと悠長なアドバイスをします。
自分は量産型だからこそ価値のある流行作家だと認識している愛子にとって、休むことは恐怖でした。
しかし、実際書こうとすると吐いてしまうので書きたくても書けません。
担当編集者に嘔吐症のことは隠し、ただ『書けない』と告げると、若手女性作家との対談企画を提案されます。
誌面に顔が載るので、着物で着飾り臨む愛子。
対談相手は麗奈というジュニアものに毛が生えた程度の恋愛小説を書く、近年売り出し中の作家でした。
舌足らずな甘えた声で、担当編集者にシナを作るの麗奈が気に食いません。
テーマは「恋愛小説の行方」でした。
麗奈は愛子の小説に登場する人物が決まってバリバリのキャリア女性で相手は長身痩躯で彫りの深い商社マンばかりだと挑発的に指摘します。
愛子がボツにしたキュレーターの話までするので、やはり登場させていたのかとドキリとします。
麗奈は悪びれる様子もなく『いかにも星山さんのパターンぽい』と指摘し、さらに追い打ちをかけます。
頭にきた愛子は休筆宣言は撤回して、麗奈のような若手には書けない大人の恋愛小説を書いてやると息巻きます。
が、立ち上がると同時に胃の中のものがこみ上げ、その場でテーブルに吐いてしまいます。
【結】空中ブランコ のあらすじ④
対談の席で粗相をした愛子は三日間部屋に閉じこもります。
塞ぎ込む愛子のもとに編集者から電話があります。
伊良部という男が出版社に連日押しかけ、自分が書いた本を出版しろと騒いでいるというのです。
誰でもいいから怒鳴り散らしたい気分だった愛子は、出版社に向かいます。
そこには伊良部と編集者が。
子供のように駄々をこねる伊良部に編集者は困り顔です。
二人の馬鹿馬鹿しいやり取りを聞いていた愛子は、暗い顔をしたさくらを見つけます。
知り合いの撮った映画をPRに来たらしいのですが、門前払いをくったようです。
愛子の担当編集者に『いい本作ったらちゃんと売ることだね』と声をかけます。
さくらの言葉に合いの手を入れた愛子ですが、さくらはあんたのことじゃないと冷たく言い放ちます。
かちんとくる愛子。
いい身分の流行作家と揶揄され怒り出します。
それでもさくらは怯みません。
編集者にちやほやしてもらって、打ち合わせと称して美味しいものを食べさせてもらっていることを指摘します。
そして、一度挫折したくらいでいつまでもぶー垂れているなと怒ります。
今日さくらが売り込みにきた映画は、すごくいい出来で、良質な娯楽作品にもかかわらずまったく客が入らない状態らしいのです。
製作費が安いため宣伝するお金もなく、あっという間にレイトショー行に。
さくらの言葉に愛子はその場に立ち尽くします。
翌日、伊良部のもとへ訪れた愛子。
診察室を出ると、看護師のマユミに引き留められます。
通院中、売れっ子作家の自分にまったく興味を示さず、プライドを傷つけられた愛子は無理やり自分の著書を押し付けたのですが、とくにリアクションはありませんでした。
『あした』を読んだとぼそぼそ言うマユミ。
そして『すごく面白かったから、言っておこうと思って』と怒ったような顔で言います。
『わたし、小説で泣いたの生まれて初めてだったから』と目も合わさず言葉を続けます。
そして『それだけ。
またああいうの、書いてください』と言って小走りに去って行きました。
愛子は大切な読者の存在に気づかされ、また『あした』のような魂を込めた作品を書こうと意気込みます。
空中ブランコ を読んだ読書感想
『空中ブランコ』に収録されている『女流作家』をご紹介しました。
神経症で悩む患者と奇想天外な精神科医・伊良部との交流を描いた本作。
コミカルでありつつ、ほろっと泣ける要素もあり、元気をくれる一冊です。
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