「玄鶴山房」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|芥川龍之介

玄鶴山房

【ネタバレ有り】玄鶴山房 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:芥川龍之介 1987年5月に青空文庫から出版

玄鶴山房の主要登場人物

堀越玄鶴(ほりこしげんかく)
主人公。 画家兼経営者。現在は結核で療養中。

お鈴(おすず)
玄鶴の娘。

お芳(およし)
玄鶴の愛人。 元は家政婦。

重吉(じゅうきち)
お鈴の夫。 銀行員。

甲野(こうの)
看護師。 住み込みで玄鶴の介護を担当する。

玄鶴山房 の簡単なあらすじ

絵を描いても事業を興してもトントン拍子に成功していく堀越玄鶴は、一代で巨額の富を手に入れます。その一方では妻がありながら未婚の女性との間に一児を設けるなど、私生活では何かにつけてトラブルが絶えません。自らの死期を悟った玄鶴は「玄鶴山房」と呼ばれる自宅で、愛する人たちに囲まれながら最後の時を迎えるのでした。

玄鶴山房 の起承転結

【起】玄鶴山房 のあらすじ①

消えかかった玄鶴山房の火

画家として何点かの作品を残した堀越玄鶴は、ゴム印の特許を取得したり土地の売買を繰り返すことによってかなりの額の財産を手に入れました。

サラリーマン向けの住宅街の中にある質素な玄鶴の自宅は、近隣住民からは「玄鶴山房」と呼ばれています。

現在は肺結核を患っている玄鶴は離れの一室で日中のほとんどの時間を過ごし、余命幾ばくもないでしょう。

妻のお鳥も寝たきり状態のために、玄鶴の身の回りの世話をするのは娘のお鈴ではなく看護師の甲野です。

お鈴は茶の間や台所で炊事洗濯をこなしながら、夫の重吉が勤め先の銀行から帰ってくると食卓を囲んで夕食にします。

家族水入らずで和やかな食事の風景も、この頃では甲野の視線が気になるために少し窮屈な思いをしていました。

朝早くから仕事が忙しい重吉のために、夫婦の就寝時刻は午後10時過ぎです。

甲野だけが一晩中主人の枕元に火鉢を抱えながら付き添っていて、玄鶴山房の夜は静かに過ぎていきます。

【承】玄鶴山房 のあらすじ②

招かれざる第二夫人と娘の不安

雪の降った次の日の晴れた朝に、やせ細った男の子の手を引いた24〜5歳くらいの女性が玄鶴山房を訪ねてきました。

彼女の名前はお芳でかつては堀越家でお手伝いをしていましたが、今では東京の郊外で玄鶴の愛人として囲われています。

重吉が勤めに出ていたために、お芳の相手をするのはお鈴です。

内気で世間知らずなお芳でしたが、東京で魚屋を切り盛りする彼女の兄は何を仕掛けてくるか分かりません。

さらには父が貴重な絵画や骨とう品を愛人宅に運び込んでいることを、お鈴は前々から気にしていました。

手切れ金は1000円、お芳は息子と一緒に千葉県の海沿いにある両親の家に帰る、玄鶴は月々の慰謝料を送る。

表面上は今年の冬に決着がついたはずでしたが、決して油断はできません。

兄に言われたためにしばらくの間は玄鶴の看病を手伝うというお芳の提案を、お鈴は渋々ながら受け入れます。

甲野に案内されて離れの中に入っていくお芳の後ろ姿を見送ったお鈴の胸の内は、間もなく持ち上がるであろう遺産争いのことでいっぱいです。

【転】玄鶴山房 のあらすじ③

看護師は見た

お芳が玄鶴山房に泊まるようになってから1週間ほど過ぎると、家の中の雰囲気はすっかり険悪なムードになってしまいました。

重吉とお鈴が授かった息子と、玄鶴がお芳に産ませた子供がうまくいくはずはありません。

お鳥は夫の愛人に対しては寛容でしたが、娘たちに八つ当たりし始めます。

そんな一家の争いにどこか冷めたまなざしを注ぐのは、これまでも数多くの病院や自宅介護の現場で骨肉の争いを目の当たりにしてきた甲野です。

自然と彼女は他人の家の秘密や悲劇をのぞき見ることに、ある種の快感を感じるようになっていました。

お芳がいったん田舎に帰ると、ますます玄鶴の具合は悪くなっていきます。

すっかり衰弱した玄鶴に甲野がお願いごとをされたのは、年末のある日の午後です。

木綿で6尺(約1.8メートル)のふんどしが欲しいと頼まれた甲野は、玄鶴が自殺を考えていることを見抜きながらもふんどしを差し入れます。

幸いにして玄鶴の腕力が低下していたために、自殺は未遂に終わってもう少しだけ生き延びることになりました。

【結】玄鶴山房 のあらすじ④

波乱に満ちた生涯を駆け抜けた玄鶴

家族と最期の時間を過ごした玄鶴は、1週間後には安らかに息を引き取りました。

実業家としても芸術家としても名を成した彼の告別式は盛大に執り行われて、生前に親交の深かった無数の弔問客が花束に覆われたひつぎの前で焼香します。

集まった人たちと故人の思い出話に花を咲かせるお鈴と重吉でしたが、お鳥だけは相変わらず体調が優れないために式にも出席できません。

火葬場まで向かう途中の葬用馬車の車内で重吉に付き添ってくれたのは、長らく疎遠にしていて久しぶりの再会を果たした大学生のいとこです。

馬車が火葬場の門をくぐり抜ける瞬間に、ふたりはレンガ造りの塀の前で立ち尽くしていたお芳の姿を目撃しました。

重吉は頭の中で千葉県の海辺にある漁師町の風景と、これからその寂れた町で幼い子供を抱えたまま生きていかなければならないお芳の人生について思いを巡らせてしまいます。

わずかながら日差しが差し込み始めた師走の町を、馬車は静かに駆け抜けていくのでした。

玄鶴山房 を読んだ読書感想

芸術の才能に恵まれてビジネスの世界でも活躍しながらも、プライベートが派手な堀越玄鶴の破天荒な生きざまには驚かされました。

そんな玄鶴に振り回されながらも、一代で彼が築き上げた「玄鶴山房」から抜け出せないお鈴やお鳥の諦めにも似た感情も伝わってきます。

一見すると傍観者に徹していながら、心の奥底では義父に恐れおののく重吉の優柔不断さも印象深かったです。

患者の自殺の気配を察知しながらも見て見ぬふりをしてしまう、看護師の甲野こそが真の傍観者なのかもしれません。

パトロンを失った年若い母親と、玄鶴の血を受け継いだ子供の行く末にも思いを巡らせてしまいました。

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