「偸盗(ちゅうとう)」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|芥川龍之介

「偸盗(ちゅうとう)」

【ネタバレ有り】偸盗(ちゅうとう) のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:芥川龍之介 2007年2月に岩波書店から出版

偸盗(ちゅうとう)の主要登場人物

太郎(たろう)
元放免(ほうめん)。平安時代、京都の治安を担う検非違使管轄下で獄舎の警備を担当。捕らわれていた沙金(しゃきん)に魅了され、盗賊の一味に加入。屈折した性格で凶暴だか、弟を気遣い、一本気なところも。

次郎(じろう)
太郎の弟。元小舎人(ことねり)。筑後の前任国司の下級役人であったが窃盗の疑いで投獄され脱獄、その後盗賊の一味に加わる。性格は温厚で思慮深く兄を尊敬しているが沙金に誘惑される。

沙金(しゃきん)
猪熊(いのくま)のお婆(ばば)の娘で夜盗の頭目。容姿端麗だが性格は怜悧で残忍。

猪熊(いのくま)のお婆(ばば)
沙金の母。盗賊団の古参猪熊の爺の妻。荒んだ京都で人間性を失うも逞しく生き抜きぬく。

猪熊(いのくま)の爺(おぢ)
猪熊のお婆の夫で盗賊団の古参。自分の犯した様々な犯罪行為や不義行為を正当化している。

偸盗(ちゅうとう) の簡単なあらすじ

 人々に疫病や飢餓が蔓延するようになった荒れ果てた平安京。太郎、次郎、猪熊夫妻が気質(かたぎ)の職業を捨て、夜盗として生き抜いています。ある夏の日の夜、彼らは仲間を集めて羅城門へ集合し、藤判官(とうほうがん)の屋敷へ向かいます。ところが太郎と次郎、夜盗の女頭目沙金との愛憎関係のもつれから襲撃が事前に藤判官側に漏れ、物語は意外な展開をしていきます。

偸盗(ちゅうとう) の起承転結

【起】偸盗(ちゅうとう) のあらすじ①

荒れ果てた都

 平安朝の栄華が衰え、街中に飢餓や疫病が広がって夜盗を働く者が横行するようになってしまった京の都。

夏の日照りが降り注ぐ朱雀綾小路で太郎と猪熊のお婆がパッタリと出会います。

二人は夜盗の一味です。

今夜、藤判官(とうほうがん)の屋敷へ押し入る手筈になっているのです。

しかし太郎は猪熊のお婆の娘で夜盗の頭目である沙金のことが気になって仕方がありません。

かつて夜盗を取り締まる検非違使の放免であった太郎を夜盗に引き込んでしまったぐらい沙金の虜になっていたのです。

 太郎と別れた猪熊のお婆は自分が台盤所(だいばんどころ)の婢女(みずし)をしていた若い頃を回想しながら綾小路を東へ歩いていると次郎に出会います。

次郎は粗末な小屋の中で横たわる疫病で瀕死の女へ野犬が襲いかかろうとしたのを助けたところでした。

 猪熊のお婆は次郎に沙金と次郎が昵懇になっていることに太郎が苛立っていることを伝えます。

次郎は困惑しますが打開策は見いだせません。

 一方、太郎は自分が放免だった頃や夜盗へ転落する切っ掛けとなった沙金との出会い、窃盗の嫌疑をかけられ投獄されていた小舎人の弟を脱獄させたことなどを思い巡らしながら朱雀大路を北へ向かって歩いていました。

そして最後にはいつも、太郎の想いは自然と最近自分に冷たくなった沙金が弟と関係をもっているに違いないという嫉妬と怒りが入り交じった感情へと行き着くのでした。

【承】偸盗(ちゅうとう) のあらすじ②

計略

 立本寺(りゅうほんじ)の石段で次郎と沙金は落合う約束をしていました。

次郎は石段に腰掛け、想いを巡らしていました。

兄の太郎が自分に対して最近、素っ気ない態度になったこと、自分が自分自身の不義を憎み、いかに兄に同情しているかを兄にわかってもらった上でなら兄に殺されてもいいとも想っています。

しかしその一方で次郎は沙金に魂を奪われてしまっています。

しかも沙金の八方美人的な振る舞いや平然と残忍に殺人を犯してしまう行為を憎んでいました。

 そこへ沙金が拐かした藤判官の侍とやってきました。

すでにかなり酔いが回っていた侍を見送った沙金は次郎の傍らに座ります。

そこで沙金は次郎へとんでもない計略を仄めかしました。

さきほどの藤判官の侍に今夜の襲撃を漏らしたこと、太郎に藤判官の陸奥産の高級馬を奪取するように指示し、藤判官の侍たちに太郎を殺して貰うという計略でした。

驚く次郎に沙金は平然と言います。

これは次郎のための計略だと。

太郎だけでなく他の仲間も裏切ることになるこの恐ろしい計略を次郎は暗黙の内に了承してしまいました。

【転】偸盗(ちゅうとう) のあらすじ③

畜生

 太郎が猪熊のお婆の家屋へ入ろうとすると中から物音が響き渡ります。

猪熊の爺によって阿濃(あこぎ)が無理矢理瓶子(へいし)から煤(すす)けた液体を飲まされようとしているところでした。

阿濃(あこぎ)は15〜16歳ぐらいの娘で子供の頃、飢えに耐えかねて盗みを働き、地蔵堂の梁に吊り下げられていたのを沙金等に助けられて以来、猪熊夫婦と生活を共にしていました。

 日頃から沙金のことで爺を恨んでいた太郎は怒りを爆発させました。

爺を蹴倒し、刀の柄に手をかけます。

その間阿漕は外へ逃げ出します。

蹴倒された爺はお婆に頼まれ堕胎薬を飲ませようとしていただけ、と言い張ります。

そして互いの行為を畜生呼ばわりして罵倒し合います。

 さらに爺は若い頃は御所警護などを担う左兵衛府(さひょうえ)の下人をしていたが、今の猪熊のお婆と出会ったせいで身を持ち崩したなどと自己を正当化します。

爺の態度にあきれ果てると同時に爺に太郎の痛いところも指摘されたこともあって、とうとう太郎は刀の柄から手を放し、外へ出て行くのでした。

 

【結】偸盗(ちゅうとう) のあらすじ④

襲撃

 夜が更けると藤判官の屋敷を襲撃するために夜盗の一味は羅城門に集合。

太郎、次郎、猪熊夫婦、沙金、他の夜盗たち、その中に阿漕もいます。

妊娠中の阿漕を羅城門へ置いて、総勢23人の夜盗は藤判官の屋敷へ向かいます。

屋敷に到着すると沙金の指示で正面口は沙金や次郎を中心とする集団、一方、裏手は太郎と猪熊夫婦が中心の集団の二手に分かれます。

 ところが2箇所の襲撃とも用意周到に待ち構えていた藤判官の武士たちにいきなり先制攻撃をかけられ、不意打ちを食らった夜盗は大混乱に陥ります。

正面から襲撃した夜盗は矢を射かけられ、深手を負う者も。

さらに猟犬に続いて飛び出してきた武士と夜盗は斬り合いを強いられます。

混乱の中、仲間とはぐれた次郎は藤判官方の武士だけでなく猟犬からも追われ、単身で逃走を計ります。

追いかけてきた武士は倒したものの素早い犬が3匹、何時までも追いすがってきます。

猪熊の爺はいち早く逃走を図りますが、藤判官方の武士数人に囲まれて致命傷を負います。

斬り殺される寸前、猪熊のお婆の捨て身の行動で救助されますが、お婆は一人の武士と差し違え、最後を遂げます。

 次郎は犬に追い立てられて立本寺の門前まで逃走、しかし藤判官の犬と呼応するように20〜30匹の野犬が待ち構えていたのです。

次郎は絶体絶命の状況に陥ります。

そこに太郎が藤判官の屋敷から奪った馬に乗って通りかかります。

沙金との経緯があり、一度は無視して羅城門の方へ馬を向かわせます。

しかし良心の呵責に耐えきれず引き返して次郎を救出、二人とも何処かへ去って行きます。

翌日、猪熊夫妻の家で沙金の惨殺死体が発見されます。

居合わせた阿漕へ検非違使が尋問を行い、太郎と次郎が犯人であることを突き止めました。

昨日、羅城門で生んだ乳呑み児を抱えた阿漕の罪は不問になり、兄弟の行方はついに分かりませんでした。

偸盗(ちゅうとう) を読んだ読書感想

 この物語の主役は太郎、次郎、沙金そして猪熊夫妻です。

全員「畜生」を背負って生と死の間で苦しんでいます。

「畜生」ばかりの世界でとてもかよわい存在であった阿漕が子を産み、逞しく次の時代へと生き延びていく様はこの物語の救いとなっています。

 もう一つの主役が荒れ果てた平安京とそこに咲き誇る花や雑草、蝿やは虫類です。

そして大路や小路の空を自由に飛び回る燕です。

小説の冒頭に牛車に轢かれた蛇の細かい描写がありますが、栄華が衰え殺伐とした京の都を見事に表現しています。

燕は阿漕と同様、閉塞状況からの救いを暗示しているのではないでしょうか。

暑くて湿気の多い京都の夏を知っている私は尚更この青空に舞う燕に「救い」を見いだします。

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