「熱帯」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|森見登美彦

「熱帯」森見登美彦

【ネタバレ有り】熱帯 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:森見登美彦 2018年11月に文藝春秋から出版

熱帯の主要登場人物

森見(もりみ)
作家で「熱帯」を探し続けている

白石さん(しらいしさん)
有楽町のビルで叔父が営む鉄道模型店を手伝っている

池内さん(いけうちさん)
白石さんの店の常連で「熱帯」に魅了されている

千代さん(ちよさん)
佐山尚一を知る人物

佐山尚一(さやましょういち)
「熱帯」の作者

熱帯 の簡単なあらすじ

幻の小説「熱帯」を巡り様々な人物が翻弄され、謎を解くために不思議な世界を旅する物語です。この小説は「汝にかかわりなきことを語るなかれ…」という文章から始まります。この文章は、この物語のキーワードともなっていて、繰り返し出てくる言葉です。この物語に出てくる「熱帯は」誰も最後まで読んだことがない本で、ある日突然目の前に現れ、読み終える前に消えてしまいます。この「熱帯」に取りつかれた数名が読書会を開き、「熱帯」の謎を解こうとしますが、逆に「熱帯」に取りつかれ、おかしな行動へと発展します。そして、いつしか現実を忘れ、不思議な南国の島での冒険が始まります。無事に、現実の世界へ戻って来ることが出来るでしょうか。

熱帯 の起承転結

【起】熱帯 のあらすじ①

出会い

学生時代を京都で暮らしていた森見は、古本屋で100円均一で売られていた不思議な1冊の本に出会います。

それは、佐山尚一が書いた「熱帯」という小説です。

この「熱帯」を毎日少しずつ読み進め、半分ほど読んだある朝、目が覚めるとその小説は消えていました。

それから16年、探し続けていますが、見つけることが出来ません。

森見はかつて勤めていた国会図書館でも調べたり、編集者に問い合わせたりしてみましたが、出版されていたのかさえも分からない幻の本なのです。

そんなある日、沈黙読書会に参加することになります。

それは、参加者が「謎」のある本を持ち寄り、参加者全員で「謎」の話をするという奇妙な読書会です。

森見はこの読書会へ、「熱帯」の話を持っていく事にしました。

 洋風の佇まいの喫茶店には、年齢も様々な20名が集まっており、いくつかのテーブルで様々な話が繰り広げられています。

その中で、20代の女性が持っている本に目が留まりました。

森見が探し続けている佐山尚一の「熱帯」です。

森見は思い切って女性に話しかけました。

「熱帯」を最後まで読んでいない事を話すと、彼女もまた最後まで読んでいないと言います。

さらに彼女は「この本は読み終わらない」と「この本を最後まで読んだ人間はいない」と言います。

彼女は、他にも「熱帯」を読んだ人を知っているけれど、誰も最後まで読んだ人がおらず、その人たちは一つのグループを作っており、彼らから「熱帯」が謎の本であると教えられたと告白します。

いつしか喫茶店の店主もこのテーブルに加わり、彼女は「熱帯」についてのエピソードを話し始めました。

【承】熱帯 のあらすじ②

読書会への誘い

この女性・白石さんは叔父が経営する模型店でアルバイトをしています。

店のカウンターで『ロビンソン・クルーソー』を読みふけっているところへ、この店の常連客である池内さんがやって来ます。

そこから池内さんと時折会話をするようになります。

池内さんはいつもノートを持っており、常にメモを取る習慣があり、小説を読みながら相関図を書いたりすることもあると話します。

そして、池内さんはある本についての不思議なエピソードを語り始めます。

それは、旅先で出会った本を半分ほど読み進めたところで眠りにつき、翌朝目覚めるとその本が消えていたというのです。

それが「熱帯」でした。

白石さんも読んだことがある気がすると言い、その本との出会いについて語り始めます。

それは、京都へ一人旅に行った際に屋台の本屋で「熱帯」と出会い、夢中で読んだことは覚えているが結末は覚えていないと言います。

さらにその本を処分したのかどこかに置き忘れたのかさえも定かではないと言います。

池内さんが店を出て行った後も「熱帯」の事が頭から離れず、気が付くとそればかり考えています。

そうしているうちに、年の瀬が押し迫ったある日、池内さんが店に現れ自分たちが開いている読書会に参加して欲しいと言います。

「学団」と名付けられたその読書会は「熱帯」読んだことがある4名が集い、「熱帯」について調べていると言います。

白石さんは内容もほとんど覚えていないからと言いましたが、池内さんは是非にと誘います。

白石さんは胡散臭いものを感じつつも好奇心にあらがえずに参加することにしました。

【転】熱帯 のあらすじ③

記憶喪失

「学団」のメンバーは、古書の蒐集家・中津川宏明、都内の大学に通う学生・新城稔、マダム風の女性・海野千代、そして池内さんです。

池内さんは「熱帯」について白石さんが覚えている部分を教えて欲しいと言います。

白石さんは覚えている内容を話し始めます。

冒頭部分から、記憶を失って南の島に流れ着いた若者、その島で暮らしている佐山尚一、魔王、魔術の秘密、砲台、囚人…と話すうちに記憶が途切れます。

池内さん以外のメンバーはがっかりしていますが、池内さんは白石さんの記憶が呼び水となって、新たな記憶につながると言います。

彼らは、記憶をたどるために年表のようなメモを書き、新しい記憶が出てくると追記しています。

そして色々を話しているうちに、白石さんが「砂漠の宮殿」について書かれていないと発言します。

新城さんと中津川さんはそんな記述はなかったと言いますが、池内さんはメモに追記します。

そして、池内さんは白石さんに思いだしたことはメモするようにアドバイスし別れました。

年が明けて店を開けると千代さんが店を訪ねてきて、自宅へ来るようにと一方的に言い放ち電話番号が書かれている名刺を置いて帰って行きました。

そのことを池内さんに話すと、千代さんの様子を探って欲しいと依頼されます。

千代さんとの密会の後、白石さんは、新城稔に追いかけられた理、中津川氏に監禁されたりと危ない目にあいますが、いつの間にか逃げ出しているという不思議な体験をします。

 そんな中、池内さんが京都に行ったまま行方不明となりますが、白石さんの手元に池内さんのノートが送られてきます。

そこには、「熱帯」の基礎となる部分が書き込まれており、池内さんはその「熱帯」の中で、記憶喪失になって迷い込んでいる様子が克明に記されていました。

白石さんは、池内さんを探すため京都へ向かいます。

その新幹線の中で、託されたノートを読み始めます。

【結】熱帯 のあらすじ④

熱帯

池内さんのノートには、京都へ到着してからの行動が克明に記されています。

そして佐山尚一の足跡をたどるうちに千代さんの影が見え始め、千代さんとゆかりのある古道具屋「芳蓮堂」の店主は千代さんが「満月の魔女に会いに行く」と言っていたと証言します。

そして、池内さんがあるアトリエにたどり着いたとき『熱帯』と出会います。

池内さんはページを開くと、自分が無人島におり、海を前に佇んでいる姿が目に浮かんで来ました。

池内さんは白紙のページに「汝にかかわりなきことを語るなかれ…」と書き始めました。

意識を取り戻した時、彼は、闇の中の砂浜で波の音を聞いていました。

そこは無人島のようです、そして、どうやってここへ来たのか、自分が誰なのか、まったく覚えていなかったのです。

記憶喪失です。

そこから、『熱帯』の物語が動き始めたのですが、本人は物語の中の主人公になってしまっていて、元の世界の事を思い出すことが出来ません。

そして長い長い冒険へと続きます。

たどり着いた場所から歩き回っていると、小屋を見つけ中へ入ります。

窓から外を見ると少し離れたところに島が見え、そこには人影がありました。

佐山尚一です。

佐山と彼は、魔王と対決するため、この世界から脱出するために、別の島へと出かけて行きます。

それから様々な不思議な人物に会い、途中で佐山は石にされてしまいますが、彼は最後には魔王に出会います。

そして、また一人になってしまった彼は、佐山と出会った島の小屋でこの冒険の手記を書き始めます。

その手記のタイトルは『熱帯』です。

熱帯 を読んだ読書感想

最終的に、池内さんと白石さんが再会できたのか、未完成だった『熱帯』は完成となったのか、千代さんはどうなったのか、佐山は何者だったのかなど、様々な事柄が読者の想像に託されるような形で終了しています。

1回目読んだ時には、納得がいかず、モヤモヤした感じがまとわりついていました。

そして、全体的な構造が見えていた中での2回目の挑戦です。

それでも、疑問は払拭されず、ただいま3回目の読書中です。

じわじわと物語の内容の不思議さが病みつきになってくるような、繰り返し手に取ってしまう物語となっているのです。

今回直木三十五賞にノミネートされたものの受賞に至らなかったのは、じわじわ感が理解されにくかったのだろうと想像します。

けれども、簡単にあっさりと結末がわかってしまうような物語よりも、心に何かが残像し、もう一度、もう一度と読み返してしまう、噛んでいるうちに味わい深くなるするめのような、不思議な存在感があるこの作品を、私はぜひとも読んで欲しいと思います。

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