【ネタバレ有り】無銭優雅 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:山田詠美 2007年1月に幻冬舎から出版
無銭優雅の主要登場人物
斎藤慈雨(さいとうじう)
ヒロイン。アルバイト店員を経て「春雨生花店」を立ち上げる。
北村栄(きたむらさかえ)
慈雨の恋人。予備校講師。
春美(はるみ)
慈雨の共同経営者。
斎藤衣久子(さいとういくこ)
慈雨の姪。
久助(きゅうすけ)
衣久子の彼氏。栄の息子。
無銭優雅 の簡単なあらすじ
自分の花屋を経営しながらお気楽な実家暮らしを続けていた斎藤慈雨は、ある時に予備校で働いている北村栄と恋に落ちます。生まれつきの得意な体質から、栄は地元の街から出ることが出来ません。ふたりは近所や自宅でデートを済ませて順調に交際を重ねてきましたが、栄の思わぬ隠し事がふたりの関係に影響を与えていくのでした。
無銭優雅 の起承転結
【起】無銭優雅 のあらすじ①
東京都内の女子大を卒業した後も就職先が見つからなかった斎藤慈雨は、ショッピングセンターの片隅にテナントを構える花屋で随分と長い間アルバイトをしていました。
父から退職金の一部を出資してもらって、ようやくビジネスパートナーの春美とふたりで自分のお店を持ちます。
五日市街道を吉祥寺方面に少し行ったところにあるその小さな店は、ふたりの名前を併せた「春雨生花店」です。
店の経営はようやく軌道に乗り始めたばかりなために、まだまだ実家に居候中で独り暮らしをする余裕はありません。
1階フロアには兄夫婦と彼らのふたりの娘、2階には父親と母に慈雨。
専業主婦の母からは「さっさと見つけて嫁に行け」、兄の陽慈からは「良い御身分の妹」、姪っ子の登紀子と衣久子からは「能天気な叔母さん。」
二世帯住宅の片隅で肩身の狭い思いをしている慈雨は、毎日のように嫌味を言われてばかりでした。
そんな慈雨にも、42歳にしてロマンスが訪れることになります。
【承】無銭優雅 のあらすじ②
慈雨が北村栄と出会った場所は、サックス奏者のウォーン・マーシュに因んで名付けられた「マーシュ」という西荻窪のジャズ・バーです。
慈雨と同い年の彼の勤め先は吉祥寺の予備校で、西荻窪駅からしばらく歩いた場所にある昔ながらの一軒家で独り暮らしをしていました。
初めて栄の自宅にお邪魔した時に、慈雨は余りの乱雑さに驚いてしまいます。
全く手入れのされていない中庭の草花や雑草、本棚に入りきらないほどの夥しい量の蔵書、敷きっぱなしの布団に脱ぎ捨てて放り出したままの衣類一式。
栄から合い鍵を受け取った慈雨は、彼がいない間に庭の草むしりをしたり屋内の整理整頓に取り掛かるようになりました。
極度の乗り物酔いを抱えている栄は、電車での移動も新宿駅辺りまでが限度でタクシーにも乗車することができません。
ふたりのデートコースは気の向くままに近所の商店街や飲食店を巡ったり、公園を散歩したり栄の自宅で手作りの料理を食べるなど慎ましやかなものです。
【転】無銭優雅 のあらすじ③
常連さんの来店が落ち着いてそろそろお昼休みかという時間帯に、春雨生花店に珍しく慈雨の父が顔を見せました。
吉祥寺でも有名な精肉店に並んで買ってきたメンチカツを手土産に、しばし親子は店の外に設置されているベンチに座って語り合います。
自身には既に孫がいて娘は来年には43歳を迎えようとしていながらも、交際相手の栄のことが気になっているようです。
突如として「親孝行」を宣言した慈雨に対しても、父は多くを望むことはありません。
絶対に自分たちよりも先に死なないでとお願いした父が心不全でこの世を去ったのは、年が明けて慈雨の誕生日の4日前のことでした。
お葬式は盛大に執り行われて父が勤めていた会社からは大勢の参列者が弔問に訪れましたが、斎場は西荻窪から電車で数駅ほど離れたところにあるために栄だけは来ることが出来ません。
葬儀が終わった後に慈雨から父の写っている写真を差し出された栄は、手を合わせて静かに冥福を祈ります。
【結】無銭優雅 のあらすじ④
衣久子の買い物に付き合うことになった慈雨が聞かされたのは、彼女のつい最近になってできたばかりの彼氏についてです。
名前は久助で職業は家庭教師をしていて、幼い頃に離婚した彼の父親こそが栄でした。
栄には元妻との間に久助とは別にもうひとり久子という女の子がいましたが、娘の方は水難事故によって既に亡くなっています。
新参者の衣久子の方が栄の家の事情に詳しいことは、1年余り恋人としての関係を築き上げてきたはずの慈雨からすると面白くありません。
マーシュで落ち合ったふたりは、激しい口論の果てにケンカ別れとなってしまいます。
ひと月以上も栄と会わないでいた慈雨は、プライベートも花屋の仕事も上手くいきません。
さっさとやり直すのか、キッパリと別れるのか。
勤務中に春美から喝を入れられた慈雨は、仕事を放り出して栄のもとへと駆け出します。
西荻窪から先には行くことが出来ない栄は、いつものように家で静かに慈雨を待っていたのでした。
無銭優雅 を読んだ読書感想
ストーリーの舞台に設定されている中央線界隈の都会でも田舎でもない風景や、吉祥寺から西荻窪にかけてのノスタルジックな街並みが味わい深かったです。
五日市街道沿いにひっそりと店を構えるヒロイン・斎藤慈雨のお花屋さんや、彼女の恋人・北村栄が独り暮らしを送っている日本家屋にも不思議な居心地の良さを感じました。
社会的な成功や名声への欲求から解放されたかのような、自由気ままななふたりの恋愛模様には心温まるものがあります。
1度は離れ離れになっていく慈雨と栄が、再びお互いの大切さを確かめ合うクライマックスが感動的でした。
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