【ネタバレ有り】ひそやかな花園 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:角田光代 2010年7月に毎日新聞社から出版
ひそやかな花園の主要登場人物
牧原紗有美(まきはらさゆみ)
ヒロイン。契約社員の仕事を失い現在無職。
波留(はる)
「hal」の名義で活動するミュージシャン。
松澤賢人(まつざわけんと)
広告代理店に勤務する。
船渡樹里(ふなとじゅり)
美大を卒業後にデザイナーになる。
早坂弾(はやさかだん)
父のオーディオ機器製造会社を手伝う。
ひそやかな花園 の簡単なあらすじ
毎年夏の休暇には、少年少女たちは親に連れられて山間の別荘でバーベキューやレクリエーションを楽しむのが恒例になっていました。ある年を境にしてキャンプは中止になり、せっかく仲良しになった友達ともそれっきりです。20年の時が流れて大人になった彼らは巡り会い、あの夏の山荘に隠された重大な秘密を知ることになるのでした。
ひそやかな花園 の起承転結
【起】ひそやかな花園 のあらすじ①
5歳から10歳までの夏休みを、牧原紗有美は幾つものウッドハウスが建ち並んだキャンプ場で過ごしていました。
29歳になって6畳一間のアパートで暮らしている現在でも、あの記憶を忘れることはありません。
紗有美が「hal」というミュージシャンの存在を知ったのは、今から1年ほど前のことです。
CDを聞いたりライブ会場にまで足を運んでいるうちに、彼女があのキャンプで一緒だった波留であることを確信します。
事務所で紗有美からの手紙を受け取った波留は、彼女と連絡を取り合うようになりました。
松澤賢人は勤め先の広告代理店で配られた会議資料に目を通している時に、船渡樹里の名前を発見します。
1978年生まれの東京都出身で今年2008年には30歳、年齢的にも同じキャンプに参加した樹里とピッタリです。
樹里は賢人からメールを受け取り、何組かの親子が山荘で数日間過ごすキャンプのことを懐かしく思い出しました。
再会を果たしたふたりは、他のメンバーたちを探し始めます。
【承】ひそやかな花園 のあらすじ②
年が開けた2009年、 賢人は中目黒にある自宅マンションを会合のために提供しました。
樹里は最初の客で、時間を前後して波留と紗有美もやって来ます。
20年ぶりに会った賢人から聞かされた話を、しばらくの間他の3人は信じることが出来ません。
あのキャンプは親同士が単なる友達だった訳ではなく、軽井沢の光彩クリニックで人口受精によって子供を産んだ母親の集まりです。
波留は生物学上の父親を知りたいと主張しますが、クリニックは1990年代の前半に閉院され院長は学会を除名されているために誰も情報を持っていません。
何となく気詰まりになった波留は早々とその場を後にして、紗有美も早めにお暇します。
あのキャンプ場の別荘地の持ち主は、早坂という名前の夫妻です。
樹里は早坂家の息子・弾と手紙のやり取りがあったために、賢人を誘い合わせて彼に会いに行くことにしました。
弾は樹里たちが知らなかった、毎年恒例のキャンプが1990年から中止になった理由を打ち明けます。
【転】ひそやかな花園 のあらすじ③
光彩クリニックがマスコミから叩かれ始めたのは、杜撰なドナー管理が原因でした。
学歴を詐称してまで自らの精子を高額で売り付けようとするドナー、手軽なアルバイト感覚で幾度となく精子を提供するドナー。
繰り返し精子を提供したという話が本当ならば、クリニックで産まれた子供たちの中には生物学的に兄弟姉妹が存在する可能性も否定出来ません。
夏の集まりを通じて子供同士が恋愛感情を抱いてしまい、将来近親相姦へと発展することを恐れた親たちがキャンプの中止に踏み切ったのが真相です。
自身のホームページやクリニックを取材した経験のあるライターを頼って、波留は父親探しを続けています。
有名なアーティストである波留のもとに舞い込んでくるのは、バッシングや冷やかしばかりです。
ようやくクリニックでドナーになった経験のある男性と面会しますが、「おれの血を日本全国に行き渡らせようと思った」という彼の独白を聞いて波留はうんざりしてしまいました。
【結】ひそやかな花園 のあらすじ④
突如として賢人のもとに、父親を探すのはもう止めるという波留からの連絡があります。
「ミュージシャンとしての自分を大事にしたい」という彼女は、多くを語ることはありません。
人と関わることを避けてきた賢人でしたが、同じ過去を共有する彼らを探しだした今では独りではないと思えるようになっていました。
弾はすっかり荒れ果てた別荘の掃除から、 バーベキュー用の薪や食材・お酒の買い出しに大忙しです。
ゴールデンウィークの間は自由に泊まって構わないと皆に伝えていましたが、実際のところ何人が来るのかは見当もつきません。
敷地内の門の向こうから赤いボストンバックを抱えて現れたのは樹里で、翌朝には紗有美が顔を見せます。
九州で開催中のライブイベントに参加している波留を除いて、夜には全員が集まってバーベキューパーティーです。
それぞれが別々の場所で暮らしている彼らにとって、いつでも帰ることが出来る秘密の場所としてこの山荘は必要なのでした。
ひそやかな花園 を読んだ読書感想
多感な10代のひとときを、豊かな自然に囲まれたサマーキャンプで過ごす少年少女たちの姿が美しさ溢れていました。
大人へと成長していくに連れて失われていく、純真無垢な心も伝わってきます。
不妊に悩む親たちの葛藤と、生命までがビジネスとして利用されている社会問題を追及していて考えさせられるストーリーです。
男と女が結婚して子供を産んで育てることだけが、家族の素晴らしさではないのかもしれません。
同じクリニックで誕生した子供たちがまるっきり別の道のりを歩んでいくように、人それぞれに様々な幸せのかたちがあるはずです。
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