【ネタバレ有り】八月は冷たい城 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:恩田陸 2016年12月に講談社から出版
八月は冷たい城の主要登場人物
嘉納光彦(かのうてるひこ)
主人公。母親が緑色感冒の研究者。
大橋卓也(おおはしたくや)
光彦の幼馴染。小学校高学年で両親が離婚して祖母の下に引っ越す。
丹羽幸正(にわゆきまさ)
城に招待されるのは2回目。
唯野耕介(ただのこうすけ)
幸正と同じ小学校に通う少年。
八月は冷たい城 の簡単なあらすじ
嘉納光彦の母親は未知の伝染病「緑色感冒」の研究者でしたが、現在は彼女自身が感染者となり特殊な医療施設で隔離されています。感染を抑えるために家族は直接面会することが許されず、人里離れたお城の中で静かにその死をお見送りするだけです。同年代の少年たちと城に招かれた光彦は、忘れがたいひと夏の経験をするのでした。
八月は冷たい城 の起承転結
【起】八月は冷たい城 のあらすじ①
緑色感冒のパンデミックによって多くの死傷者が出ましたが、今世紀に入ってからようやく収まり始めました。
僅かに生き残った感染者たちは特定の地域に封じ込められ、やがて訪れる死を静かに待っています。
ここ夏流城は患者たちの隔離から、家族に対するアフターケアまでを一手に引き受けている施設です。
嘉納光彦の母は医療研究者として緑色感冒の研究に当たっていましたが、遂には彼女自身が感染して夏流城へ収容されてしまいました。
いよいよ母の死期が迫ったある日、光彦は夏流城から1通の招待状を受け取ります。
手紙を片手に列車に乗って田園地帯に到着した光彦を待っていたのは、約2年ぶりに再会する幼馴染の大橋卓也です。
小柄で気が強い丹羽幸正に、大柄でおっとりした性格の唯野耕介。
4人を案内するのは輝く緑色の体に豊かな緑の髪をもつ、「みどりおとこ」と呼ばれる緑色感冒のサバイバーです。
船着き場へ向かいボートへと乗り込んだ先は、広いお濠に囲まれた巨大なお城です。
【承】八月は冷たい城 のあらすじ②
城は高い塀に囲まれていて、光彦たちを案内したみどりおとこは扉に鍵をかけて出ていったため外へ出ることは出来ません。4人の中でただひとり前にも城に来たことがある幸正の提案で、くじ引きで部屋割りを決めて鐘が鳴るまでは各自が自室で思い思いに過ごすことにしました。鐘が1回鳴ったら食堂に集合、3回鳴ったら地蔵のところに集合。
地蔵の後ろにはそれぞれの家族に割り当てられた患者番号が表示され、マジックミラー越しに最期の対面を果たすことになります。
この城に入る時も出る時も4人一緒という決まりがあるために、全員の家族が亡くなるまでは帰ることができません。光彦が卓也の部屋を訪ねてお互いの近況を報告し合っていると、さっそく聞こえてきたのは3回の鐘の音です。地蔵の裏に取り付けられた四角いモニターには赤い数字で「503」と表示されていますが、誰ひとりとして心当たりはありませんでした。光彦たち以外の5人目の招待客が城の中に隠れている可能性があります。
【転】八月は冷たい城 のあらすじ③
一旦は自分の部屋に引き上げた光彦でしたが、鋭い悲鳴を聞いたためにすぐさま城の入口付近へと駆けつけました。
柄の先に麻縄が結わえ付けられた鎌が振子のように幸正の頭上に落下してきましたが、耕介がかばってくれたために大きな怪我はありません。
その数時間程度後には中庭のベンチに座っていた幸正の上から、今度は巨大な石の彫像が崩れ落ちてきます。
見えない5人目の影に怯える中で無情にも鳴り響いたのは、3つの鐘の音です。
地蔵のデジタル表示は「415」、光彦は母親の口癖である「よいこ」という語呂合わせでこの数字を覚えています。
母が亡くなったというのに、不思議と光彦の胸の内には哀しみが湧いてきません。
その後も耕介と卓也の親の番号が告げられたために、残るは幸正ひとりです。
親との死別を経てから明らかに様子がおかしい耕介を、光彦と卓也は心配していました。
真夜中に鎌を持って歩き回る耕介を、コッソリと尾行したふたりが辿り着いた先は食堂です。
【結】八月は冷たい城 のあらすじ④
天井の梁から吊るした輪に首を入れてテーブルの上から飛び降りようとしていた幸正でしたが、耕介が鎌で縄を切り落としたために一命を取り留めました。
1番最初の番号「503」は幸正の親のものでしたが、彼はその死を受け入れることができません。
思わず嘘をついてしまい、自らの命を絶つことを決意します。
鎌を仕掛けたのも彫像を倒したのも、全ては幸正が自分を狙っただけです。
「死にたいやつは放っておけ」と自暴自棄になった幸正に、光彦はみどりおとこの研究をしていた母から聞いた話を打ち明けました。
緑色感冒の生き残りは、同じ病気で死んだ患者の肉を食べることでみどりおとことなります。
光彦や幸正の親の記憶も、みどりおとこの体の中で受け継がれているはずです。
全てが終わった4人は、来た時と同じようにみどりおとこが漕ぐボートで城を後にします。
別れ際にみどりおとこが「いい子ねえ、光彦は」と母の口癖を呟いたような気がしましたが、振り返ることなく歩き出していくのでした。
八月は冷たい城 を読んだ読書感想
未知のウイルスが拡散した近未来を描きながらも、中世ヨーロッパを彷彿とさせるようなお城を舞台に設定しているところが面白かったです。
親との死別が差し迫りながらも、全てを受け入れているかのような主人公・嘉納光彦の大人びた表情も心に残ります。
突如として落下する彫像から巨大な鎌まで、RPGのような仕掛けと遊び心も満載です。
1度は死の誘惑に憑りつかれた丹羽幸正が、生きる気力を取り戻していくクライマックスが感動的でした。
少年たちの旅立ちを物言わず見送る「みどりおとこ」と、その中で生き続けていく無数の死者の思いにホロリとさせられます。
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