【ネタバレ有り】図書室の海 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:恩田陸 2002年2月に新潮社から出版
図書室の海の主要登場人物
関根夏(せきねなつ)
ヒロイン。硬式テニスに所属する高校3年生。
志田啓一(しだけいいち)
夏のテニス部の先輩。卒業生。
桜庭克哉(さくらばかつや)
夏のテニス部の後輩。2年生。
美保(みほ)
克哉の彼女。
浅井光(あさいひかり)
志田の幼馴染み。2年生。
図書室の海 の簡単なあらすじ
学園祭が終わって3年間の高校生活も残り僅かとなり、関根夏は少し物足りなさを感じています。ある時に思い付いたのは、密かに憧れていたテニス部の先輩・志田啓一の読んでいた本を探していく遊びです。図書室で先輩の借りた本を辿っていく夏は、卒業生から代々受け継がれている不思議な儀式について知ることになるのでした。
図書室の海 の起承転結
【起】図書室の海 のあらすじ①
関根夏はルックスにも恵まれて成績も優秀でしたが、クラスでも家庭でもどちらかというと目立たないタイプの女の子でした。
思春期真っ盛りな兄や反抗期へと突入した弟たちとは違って、幼い頃から親や教師を困らせたことはありません。
平穏無事に過ぎていく高校生活最後の1年に退屈していた彼女は、ちょっとした楽しみを見つけます。
半年以上前に卒業した硬式テニス部の先輩に当たる、志田啓一が読んだ本を1冊ずつ追いかけていくことです。
誰がいつ何の本を借りていたのかは、裏表紙に貼られた紙の青い日付スタンプとサインを見れば直ぐに分かります。
「志田啓一」のすぐ下の欄でしばしば目撃するのは「浅井光」という署名でしたが、夏とは面識がなく顔も思い浮かんできません。
いつものように放課後の図書室にいた夏は、時々見かけるショートカットの下級生と偶然に目が合います。
軽く会釈をして微笑みかけましたが、何故か冷たく敵意に満ちた眼差しを返されてしまいました。
【承】図書室の海 のあらすじ②
閲覧スペースから奥の書架へとやって来た夏は、この図書室全体の構造が船に似ていることに気が付きました。
フローリングの床は甲板、本棚はマスト、本の背表紙は帆。
しばらくの間大海原を漂っている錯覚を感じていた彼女は、テニス部の後輩・桜庭克哉に呼びかけられた途端に現実に引き戻されます。
克哉と一緒に学校を出た夏が坂道を下りながら向かった先は、部活の帰りによく訪れた喫茶店「ビアンカ」です。
克哉は同学年のテニス部の女子部員・美保と1年近くに渡ってお付き合いをしていましたが、近頃はあまり上手くいっていません。
彼女との関係の修復よりも、在校生の間でまことしやかに囁かれている「サヨコ」という奇妙な儀式の方にすっかり夢中でした。
毎年卒業式になると、3年生から次の代の誰かにサヨコの鍵が手渡されるそうです。
来週の土曜日の放課後にクラスメイトを誘ってサヨコを呼び出すという話を聞いて、夏の心の奥底には不吉な予感が湧いていきます。
【転】図書室の海 のあらすじ③
その日は週明けにテストを控えた土曜日になり、ホームルームが終わった途端に生徒たちは早々と帰宅してしまいました。
肌寒く閑散とした校内に人目を憚りながら戻った夏は、2年生のクラスをひとつひとつ見て回りますが誰もいる気配はありません。
ふとある教室の黒板に目をやると、白いチョークで大きく書いてある「放課後 図書室集合」という文字を見つけます。
階段を駆け降りて別の棟に向かい、2階の外れにある図書室の重い引き戸に手を掛けました。
窓辺の広々としたテーブルに向かい合って座っているのは、克哉とこの前にも図書室で見かけたショートカットのあの子です。
ニヤニヤとした笑いを顔に浮かべながら自分の隣りの椅子を引いて、克哉は夏に向かって手招きをしています。
ようやく騙されたと気が付いた夏は克哉の隣に腰を下ろしてふたりを追及しようとしましたが、それよりも早く少女がキッパリと切り返しました。
「やっぱり、関根さんが鍵を持っているんですね。」
【結】図書室の海 のあらすじ④
半年前の拍手がさざめく体育館で花束を受け取った卒業生たちが次々と退場していく中で、志田はコッソリと夏の手を握りしめて古ぼけた鍵を渡しました。
あの瞬間から1年後の自分自身の卒業式が訪れるその日まで、夏はたったひとりで秘密を守り抜くことを誓います。
克哉が引き合わせた女の子は志田の幼馴染みであり、貸出票に名前のあった浅井光です。
志田に想いを寄せていた彼女は、卒業式が行われている最中も片時も彼から目を離さなかったために鍵の行方はお見通しでした。
サヨコ役となった生徒には先代からメッセージが送られるのがお約束になっていましたが、夏が志田から受け取った手紙には「図書室の海をよろしく」とだけ書かれています。
すっかり打ち解けた3人が向かう先には、いつものビアンカです。
克哉と光はそれぞれ自分が鍵を貰えると信じていますが、夏はどちらに渡すのかまだ決めていません。
船のような図書室の大きな窓から、夏は海のように広がっていく外の世界を眺めるのでした。
図書室の海 を読んだ読書感想
学校の勉強も放課後の部活動もそつなくこなしながらも、何となく学園生活に味気無さを抱いている女子高校生・関根夏の憂鬱には感情移入できました。
誰しもが青春時代に1度は抱くであろう、主人公やヒロインへの漠然とした憧れが伝わってきます。
大好きな先輩にその想いを告白することが出来ないまま卒業を迎えてしまい、彼が手に取った本だけを追いかけていく内気な姿がいじらしいです。
校内で密かに受け継がれていく、謎めいた儀式の秘密にも引き込まれていきます。
初めて主役となった夏が、まだ見ぬ世界へと踏み出していくようなラストが圧巻です。
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