文武両道、特に所属していたテニス部では全国大会に出場候補とも言われた美香。そんな彼女は男子にはもちろんのこと、女子にも絶大な人気があり、二月になるとよく「お前よりもチョコいっぱいもらったぞ」などと非常にプライドの傷つけられる自慢などをしてきたものである。
特に同じテニス部内での彼女の人気は凄まじいものがあったのだが、その中でも特に美香のことを慕っていた後輩が三人おり、それが前述のルカ、夏希、マヤの三人であった。この三人の美香に対する入れ込みようは凄まじく、巧が美香と付き合うことになってきた時などは巧にまで牙を剥かん勢いであり、そういう縁もあっていわば恋敵とも言えるのである。
そんな三人が今現在迫真の勢いで迫って来ている。その真剣な顔といからせた肩、そしてそれに不釣合いな小さい体になんとなくおかしくなってしまい一瞬吹き出してしまう巧だったが、その行為は三人苛立たせるには十分であった。
「なっ!こいつ今笑った!」
「これはあれですよ!刑事ドラマとかでよくある犯人が悪事を暴かれた時に笑い出すあれですよ!」
「いや、違う。断じて違うよ」
これ以上誤解を避けるためにと巧は手を振って、ひとまずこれまでの経緯を説明する。自分は東京でこの件を知ったことやそれを知ってついさっきここについたことなどである。
「ほら、これが新幹線のチケットだ。確かに今日の日付だろ?」
「確かに……」
「先輩は犯人じゃないってことか……」
がっくりと肩を落とす三人。
「もしかして君たちも犯人を探してるの?」
「えぇ、もちろんです。こんなまるで死んだ美香先輩を貶めるような行為、断じて許せません!」
「そうです、必ず見つけ出して正義の鉄槌を下してやります!」
ルカと夏希が鼻を鳴らし、そう言い放った。マヤの方もまっすぐとした目で巧の方を見つめている。気持ちは同じということであろう。
「そうか……、ならば協力しないか?俺もそもそもこのなりすましの犯人を探すために東京から帰ってきたんだ。それならお互い手を組んで情報交換したほうが真相に早く近づけると思うんだが」
巧のこの提案に三人は顔を見合わせるが、これに対しルカが反論する。
「協力するといっても私たちが知っていることで巧先輩が知らないことなんてあるんですか?私たちよりも巧先輩の方が美香先輩との付き合いは長いわけですよね?」
「確かに俺の方が付き合いは長いけど実際にこの投稿があった間この村にいたのは俺じゃなくて君たちだ。お互い悪い話じゃないとは思わないか?」
その巧の言葉に再び顔を見合わせる三人。ルカはやはりまだ渋い顔をしていたがここで発言したのが黒髪のマヤである。
「ここは巧先輩の言う通りにするべきじゃないルカ?先輩の言うとおり確かに私たちは美香先輩のことあまり知らないし」
「それは確かに……」
夏希もそれに同意するように頷き二人はルカの方をまるで伺うかのように見つめる。
「そうね、マヤの言うことにも一理あるわね……」
不承不承といった感じで大きくため息をついてルカは三人の中では一番最後に巧の方を向いた。
「わかりました、とりあえず先輩は犯人ではないみたいですしひとまず先輩の情報交換に応じることにします。つきましては……」
ルカ、夏希、マヤの三人はニンマリと笑うと一気にダッシュして巧の家へと走り出す。
「先輩の家で作戦会議と行きましょう!私はアイスがいいです!」
「私コーラ!」
「私はラムネです!」
「あっ!まったくもう……」
そういって呆れながら巧も慌ててそのあとを追うのであった。
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先程まで静かだった山野巧の居間がにわかに騒がしくなる。木製のミニテーブルの上には四つのラッシー。それに周りには三人の女子どもががやがやと話している。全く姦しいとはまさにこのことである。
「じゃ早速情報交換を始めましょうか」
仕切りたがりのルカがまるで捜査会議の本部長にでもなったかのように一方的に始める。
「まず夏希、あれを出してくれる?」
「はい!」
そう言って夏希が大きいサイズの茶封筒から数枚の写真をテーブルにぶちまける。
「この写真は……?」
「これらの写真は例の美香先輩のアカウントの人物がここ一ヶ月に投稿した写真を全てプリントアウトしたものです。そもそもこの写真は誰がいつ写したものなのか、それだけでもわかったらいいなって思って」
「なるほど……」
それにしてもものすごい量の写真であるが彼女らはこれらの写真を全て取り込んでは印刷して取り込んでは印刷してとしていったのであろうか。だとすればかなりの執念である。
「それで……写したのが誰かわかったとか?」
「残念ながら誰がこれらの写真を撮ったのかはわかりませんでしたが、これらの写真がいつ撮られたものなのかは分かりました。これを見てください先輩」
そう言ってルカは写真群の中から一枚の写真を取り出して巧に突き出した。その写真はふもとの街にあるイオン系列のデパートの写真を写したものである。
「これがどうかした?」
「どうかしたじゃないですよ!後ろをよく見てくださいここ!」
そう言って怒り気味にルカは写真のとある虚空を指差す。そこにはデパートの中にあるアイス屋さんの看板が写っており少し小さいが文字が書いてある。
「えーっとこれは”本日ダブルアイスへのボリュームアップ無料”って書いてあるのかな?これがどうかした?」
「先輩!」
もはや怒り心頭に発するまでに顔を真っ赤にし、肩を震わせるルカ。その横でマヤがまぁまぁとルカをなだめながら説明する。
「このアイス屋さんのダブルアイスのボリュームアップ無料サービスは実はたったの二日しかなかったんです。それが先月六月の二十二、二十三日のことです。んでこの写真の投稿があったのが六月二十二日でした」
「なるほど、つまりこの写真を撮った人物は間違いなく六月二十二日にこのデパートのアイス屋さんの前にいたってことか」
ようやく合点がいった巧。にしてもさすが女子なだけにこういう甘いもののサービスの日付などに詳しい。手を組んで正解だったと巧は早くも思い始めていた。
「まぁつまり、やっぱりこの写真を撮って回ってる人物こそ犯人の可能性が高いってことですよ」
ルカは非常に不機嫌な顔で巧を睨みつけながらそのように結論づけるのであった。
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