【ネタバレ有り】ぬるい毒 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:本谷有希子 2011年6月に新潮社から出版
ぬるい毒の主要登場人物
熊田由理(くまだゆり)
短大卒業後に運送会社に就職。
向伊(むかい)
高校卒業後に都内の大学へ進学する。
奥出(おくで)
向伊の取り巻きの1人。小男。
野村(のむら)
向伊の取り巻きの1人。大男。
原(はら)
熊田の彼氏。
ぬるい毒 の簡単なあらすじ
高校を卒業した19歳の熊田由理は、ある日突然に同級生と名乗る向伊の電話を受けます。いかにも胡散臭げなその男が持つ言い知れない魅力に振り回されながら、24歳を迎えるまでの忘れがたい5年間を過ごしていくのでした。
ぬるい毒 の起承転結
【起】ぬるい毒 のあらすじ①
実家暮らしを送っていた短大生の熊田由理の下に、夜遅くに向伊という聞き覚えのない名前の男性が電話をかけてきました。
高校生の文化祭の時に借りていたものを返したいと言い出しますが、熊田にはさっぱり検討がつきません。
借りっぱなしになって忘れていた5000円程度の現金を返すために家の近くまで来ていて、サイン入りの借用書まで持参しているとのことです。
1時間後に門の前までやって来るというろくに顔も思い出せない男に対して、熊田は不思議なトキメキを抱いてしまいます。自動車から降りてきた向伊の好漢ぶりは期待以上になり、熊田の住んでいる地方都市には似つかわしくありません。
出身高校は熊田とは別の学校であること、借用書に記されていた字はまるっきり別人の字であること。
次から次へといい加減な言葉を並べ立てる向伊に表面上は怒りを表しながらも、すっかり彼に夢中です。
今度一緒に飲みに行くという約束に喜びを噛みしめつつ、気のない素振りをしてしまうのでした。
【承】ぬるい毒 のあらすじ②
向伊からの2回目の連絡があったのは1年後の正月のことで、高校時代の友達と居酒屋で飲んでいるようです。
地元の人間であれば誰でも知っているような国道沿いのチェーン店になり、熊田の家からもそれほどかかりません。
午後10時にも関わらず車で母親に送ってもらうと、4人掛けのテーブルで向伊が連れてきたふたりの男性を紹介されました。
小柄な奥出はやたらと熊田の容姿端麗さを誉めちぎりますが、時折「整形ですか」などと嫌みを投げ掛けてきます。
短大でメディア論を学んでいるはずが卒業後にはアートセラピストになる、恋愛経験もないのに彼氏がいる。
お酒の勢いで大見得を張ってしまう熊田のこと「浅い」と切り捨てたのは、大きな身体つきでメガネをかけた野村です。
その一言で席を立ち店を飛び出した熊田を、向伊は慌てて追いかけてきました。
帰りの車中で向伊に彼女がいることにショックを受けた熊田は、以前告白を受けたまま返事を保留にしていた原という青年と付き合うことにするのでした。
【転】ぬるい毒 のあらすじ③
3度目の再会もやはりお正月の帰省シーズンになり、車を走らせながらお互いの近況を報告し合います。
短大を卒業したがセラピストには成れなかったこと、運送会社に採用されて事務員として働いていること、由緒正しい家柄に生まれたために熊田家を継がなければならないこと。
向伊は向伊で大学での単位は怪しいものの、仲間と会社を起業する計画は順調なようです。
向伊は自分は東京の彼女をほったらかしにしながらも、熊田には恋人の原と別れることを要求してきます。
近所のファミレスに呼び出して、お人好しな原の心につけ込むのは容易いことです。
いつの間にか熊田の母親に取り入った向伊は、正月休みが終わっても東京に帰るそぶりをまるで見せません。
実家に入り浸り続けた向伊は、土地と建物だけは立派な熊田の本家にまで目を付けてお金を引き出すつもりのようです。
遂には熊田を連れて1年の期限付きで上京を認めてもらうことを、両親の目の前で約束させました。
【結】ぬるい毒 のあらすじ④
東京行きの新幹線に乗り込んだ熊田は、自分があの家から脱出出来たことが未だに信じられません。
自由になれたことが嬉しい反面、これから不動産の下調べのために3泊ほど向伊の部屋に滞在することには些か抵抗がありました。
品川駅で彼女を出迎えたのは、20歳の頃に一緒に飲んだことがある奥出と野村です。
歓迎会の名目で連れて行かれた先は雑居ビルにある飲食店になり、大学生からグラビアアイドルまで向伊の心酔者で溢れかえっています。
表面上は向伊の同郷の友人と紹介されながらも、田舎から出て来た世間知らずとした見下されているのは歴然としていました。
向伊の一挙手一投足に大げさに盛り上がる店内を抜け出した熊田は、笑われても侮辱されてもたった1人で生きていくことを誓います。
幼い頃から23歳になれば魂が死ぬと信じてきた熊田でしたが、向伊たちのことや東京で暮らしていた時のことを思い出しているうちにいつの間にか24歳になっていたのでした。
ぬるい毒 を読んだ読書感想
廃墟となった山奥のホテルから国道沿いにポツンと佇んでいる居酒屋に粗野なトラック運転手に囲まれた職場まで、ストーリーの舞台となる地方都市の独特な閉塞感が印象深かったです。
代々受け継がれてきた家を守るためだけに土地に縛り付けられてしまった、ヒロインの熊田由理の鬱屈とした気持ちも伝わってきました。
ハンサムなルックスにスマートな出で立ちながらも、底知れない悪意を秘めている向伊の不可解な言動にも引き込まれていきます。
若さと時間を持て余すかのように、周りの人たちを無邪気に振り回していく様子が何とも不気味でした。
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