【ネタバレ有り】マダム・キュリーと朝食を のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:小林エリカ 2014年7月に集英社から出版
マダム・キュリーと朝食をの主要登場人物
雛(ひな)
震災の年に生まれて現在は小学5年生の女の子。母親の再婚相手とふたりで東の都市で暮らしている。
マダム・キュリーと朝食を の簡単なあらすじ
廃墟の街を出て彷徨う1匹の不思議な猫の冒険と、大津波と地震の年に生まれた小学生の少女の細やかな成長が交互に映し出されていきます。放射能の歴史を振り返りながら、人類の未来への道のりも照らし出されていきます。
マダム・キュリーと朝食を の起承転結
【起】マダム・キュリーと朝食を のあらすじ①
大きな地震がやってきて放射性物質が降り注いだ街を、地元住民は見捨てて逃げ出してしまいました。
やがて猫たちによって支配されるようになったこの街は、「マタタビの街」と呼ばれるようになります。
その猫はマタタビの街で10歳まで母親と兄弟姉妹と共に暮らしていましたが、やがて1匹だけで群れを離れて流れ着いた先は東の都市です。
人間に保護されてマンョンの一室や屋上で悠々自適な日々を送っていましたが、故郷に置いてきた家族のことが心配でなりません。
いつものように公園を散歩中に、1匹の眩いばかりの光りを放つ猫を目撃しました。
かつてマタタビの街には光り輝く猫がたくさんうろついていましたが、東の都市で遭遇するのはこの猫が初めてになります。
タマゴと名乗ったその猫の楽しみは、夜遅くに人間たちの家に忍び込んでキッチンで料理をすることです。
2匹の猫は家主に気付かれることなく半熟卵を拵え、ふたつに割れた黄味からは湯気と光が立ち上っているのでした。
【承】マダム・キュリーと朝食を のあらすじ②
北の町に大きな地震と津波が押し寄せた年に、雛は東の都市で生まれました。
都市全体が電力不足のために薄暗くなっている新生児室には、母親から祖母に曾祖母まで勢揃いしていましたが父親だけはいません。
母親はシングルマザーとして雛を育てていきますが、間もなく治療のために通っていた病院で放射線技師として働いている男性と再婚します。
雛が小学生になると今度は母親が家を出ていってしまい、以来彼女は血のつながりのない父親とふたり暮らしです。
夏休み期間は父親の仕事が忙しいために、雛は祖母の家に預けられます。
祖母の口癖は、「猫ほど恐ろしいものはない」でした。
あの小さくて可愛らしい生き物たちは人語を全て理解していて、人間には見ることが出来ない放射線でさえ「光」として捉えることが出来るそうです。
お昼ごはんに焼いたきつね色の鶏肉を猫に盗られないように細かくナイフで切り分けているのを見ると、あながち嘘ではないのかもしれません。
【転】マダム・キュリーと朝食を のあらすじ③
夏の終わりになると曾祖母の実家がある北の町から、黒スグリの実がたくさん送られてきます。
無駄にしないために祖母と一緒に、鍋の中に大量の砂糖と煮込んでゼリー作りをするのはこの季節の楽しみです。
例年には母親もやって来て親子3代で黒スグリのゼリーを食べるのが恒例になっていましたが、彼女は既にこの世にはいません。
冬になると母親の遺品整理のためにブラウスやオーバーコートを近所の商店街のバザーに出して、山積みになっている書籍は古本屋に売却してしまいました。
自宅マンションから学校までの通学路、教室での授業や休み時間の友達との他愛のない会話、家に帰って食べるおやつにお気に入りのテレビ番組。
母親がいなくなり持ち物も全て無くなったあとでも、雛の日常生活は何ひとつ変わることはありません。
たったひとつ残されているのは、愛用のICレコーダーです。
雛は寂しい時には布団の中に潜り込んで、光を見ることが出来る猫について語る母の声を聞くのでした。
【結】マダム・キュリーと朝食を のあらすじ④
雛が背負っているピンクのリュックサックの中には、夏の終わりに祖母と作った黒スグリのゼリーを瓶が入っています。
手袋をはめた手をベージュのダウンコートを着た祖母とつないで歩いていると、吐く息はすっか白くなっていました。
車内に乗り込んで祖母に手を振っているうちに、バスは高速道路を走りだします。
車窓から高架下の公園の滑り台を眺めていたときに雛が目撃したのは、1匹の灰色のモップのような猫です。
一瞬だけ猫が光に包まれていたような気がしましたが、信号が青に変わった途端にバスは走り出してしまいました。
バス停には父親が迎えに来てくれていて、ふたりでいつものマンションへと帰ります。
玄関を開ける時に中で猫が料理を作っているような気配がしましたが、そこはいつも通りの空っぽのキッチンです。
雛は祖母や母親が聞いたという光の声を聞くために、勉強して知識を身に付けることを決意します。
光る猫に会った時に、話すことがいっぱあるからです。
マダム・キュリーと朝食を を読んだ読書感想
人間によって見捨てられた廃墟を猫たちが縦横無尽に駆け回る、マタタビの街が可愛らしくも皮肉な味わいです。
核戦争によって人類が滅亡した遥か未来の世界のようでもあり、3・11後も原発が稼働し続けている現実の日本のようでもあり何とも不気味でした。
震災や肉親との別れを経験して成長していく小学生の日常生活の風景に、時折光る猫や料理好きな猫のエピソードが散りばめられたファンタジーに満ち溢れています。
キュリー夫人やコロンブスを始めとする、歴史上の偉人たちに纏わる薀蓄やこぼれ話も満載で著者の博識ぶりに驚かされました。
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