著者:夏川草介 2024年3月に小学館から出版
君を守ろうとする猫の話の主要登場人物
幸崎ナナミ(こうさきななみ)
13歳。中学二年生。喘息持ち。
今村イツカ(いまむらいつか)
中学二年生。ナナミの幼馴染。
トラ(とら)
人の言葉を話す不思議な猫。
夏木林太郎(なつきりんたろう)
夏木書店という古書店の店主。
幸崎誠一郎(こうさきせいいちろう)
ナナミの父親。
君を守ろうとする猫の話 の簡単なあらすじ
喘息持ちで本好きな中学二年生のナナミは、いつも行く図書館で、少しずつ本がなくなっていることに気がつきました。
あやしい男が盗んでいくようです。
その男を追おうとすると、青白く光る通路が現れました。
それとともに、人の言葉を話す猫が現れ、「行ってはいけない」とナナミを制止します。
しかしナナミは本を取り戻すために、光の通路を進み、城にたどり着くのでした……。
君を守ろうとする猫の話 の起承転結
【起】君を守ろうとする猫の話 のあらすじ①
幸崎ナナミは喘息持ちの中学二年生です。
学校の帰りには、いつも図書館に寄って、大好きな本を読みます。
ナナミは最近、図書館の本が少しずつなくなっているのに気がつきました。
ある日、鳥打帽をかぶったあやしい男を、図書館内で見つけます。
その男が現れたときに本がなくなっているようです。
男のあとを追いかけようとすると、青白く光った通路がはるか向こうにのびていました。
進もうとするナナミは、突然現れた人語を話す猫のトラに、制止されます。
「そこは君がかかわる場所ではない」と言われたのです。
しかしナナミは大切は本を取り返すために、通路に足を踏み入れます。
トラも続きます。
やがてふたりは城に出ました。
そこでは灰色の人たちがたくさんの本を燃やしていました。
図書館から亡くなった本は、将軍の間にあるようです。
将軍とは、あの鳥打帽の男でした。
将軍は「昔の本は危険なものだから処分するのだ。
何も考えず、私にまかせておきたまえ」と言います。
そのセリフはとても気持ち悪いものでした。
ナナミは、図書館から盗まれたルパン全集の一冊「奇巌城」を手に取ると、逃げ出しました。
兵隊たちに追いつかれそうになったとき、ひとりの青年が現れ、逃げ道に案内してくれました。
トラは青年とは知り合いらしく、彼のことを「二代目」と呼んだのでした。
【承】君を守ろうとする猫の話 のあらすじ②
一週間後、ナナミはあの時の青年のもとを訪れました。
青年は夏木林太郎といい、夏木書店という古本屋の主でした。
古本屋には、あの猫のトラもいました。
書店に青白い光が現れたので、ナナミは本を取り返しにいくことにします。
今度の光の通路は狭く、夏木は通れません。
ナナミとトラだけで出かけていきました。
城の様子は前回と違っていました。
もう本を燃やしていません。
ふたりは宰相の間に通されました。
一見やさしそうな灰色の青年が、宰相でした。
宰相は言います、「本を盗んでくるのは効率が悪いのでやめた。
これからは無意味な本をどんどん作って、世界に広め、力のある本を駆逐するのだ」と。
実際、そこでは真っ白な、何も書いていない本を製造しているのでした。
宰相は、思いやりの気持ちなど無駄だとナナミをさとし、この世は弱肉強食なのだから、他人を蹴落として生きていくことを勧めます。
心がゆれるナナミでしたが、宰相の言葉をふりきり、ルパン全集の残り九巻を持ち帰ったのでした。
家に帰ると、心配していた父に叱られました。
そして、「生きていくためにはがんばらなければならない、読書なんてしている場合じゃない」と語る父は、どこか、あの宰相に似ているのでした。
【転】君を守ろうとする猫の話 のあらすじ③
ナナミは疲れが出て、家で寝込みました。
父は一日半、仕事を休んで家にいてくれるそうです。
その晩のこと、トラが憔悴した姿で現れ、ナナミに助けを求めました。
城に向かうためには、現在光る通路ができている図書館に行かなければなりません。
ナナミは父を説得して、車で送ってもらいます。
図書館には、青白く狭い通路ができていました。
ナナミはトラといっしょに通路を進みます。
やがて着いた城は、すっかり変わっていました。
巨大な要塞のようになり、かつ、内側で火の手が上がっていたのです。
ナナミたちは国王の間へ通されました。
灰色の国王は、手っ取り早くすべてを燃やすのだと言います。
皆で本を持って避難すればいい、と提案するナナミに、王は驚きます。
しかし王は、すべては手遅れだと言い、自分の身に火を放つのでした。
火の手をかいくぐって、ナナミたちは逃げます。
炎と兵隊たちに追い詰められたとき、かつてナナミが読んだ本の登場人物たちが現れ、逃げる手助けをしてくれました。
彼らは口々にナナミが生きていてくれれば大丈夫なのだ、と言うのでした。
彼らの助けによって、ナナミは無事に図書館にもどってくることができました。
胸にトラを抱いていたはずでしたが、図書館に来た時、それは父が子供のころにプレゼントしてくれた猫の本に変わっていたのでした。
【結】君を守ろうとする猫の話 のあらすじ④
あの日、城から帰ったナナミは、父にすべての事情を打ち明けました。
父は、完全には理解できないものの、以来、夏木書店に出入りすることを許してくれました。
十二月のなかば、夏木書店に行くと、林太郎の奥さんがいて、三人で話しました。
林太郎は、「『増殖する者』」と名乗ったあの灰色の者が、自分の想像通りだとすると、ナナミはとんでもない者を相手にした」と言います。
書店からの帰りに図書館に寄ったナナミは、そこであの灰色の者に会いました。
灰色の者は、将軍であり、宰相であり、国王であり、かつまた、老婆の姿にもなりました。
しかし、その内側にある不気味な存在は同じなのでした。
彼は、自分がかつては貝殻にすぎなかったが、いまでは自分でもどうしようもないほど大きくなったのだ、と言います。
それは、人間たちが、もっともっと、と欲望をつのらせた結果だと言います。
ナナミは、「人間はそれだけじゃない。
助け合うものだ」と反論します。
灰色の者は、「君が成長してもそうでいられるかな」と問いました。
ナナミは、「もしわたしが変わってしまったら、もどってきて、しっかりしろと叱ってほしい」とお願いするのでした。
やがてクリスマスになりました。
夏木書店で、親友のイツカといっしょに林太郎夫妻とすごしたナナミは、久しぶりに表れたタマと再会しました。
「必要になったら、またいつでも呼んで」と呼びかけるナナミでした。
君を守ろうとする猫の話 を読んだ読書感想
青少年向けのファンタジーといった趣の小説です。
「世界には弱肉強食がまかり通っているのだから、他人を蹴落として、自分だけが豊かになればそれでよい」とする灰色の者に対し、「いいえ、思いやりを持って助け合わなければいけない」という考えの少女が対峙する、という構図になっています。
この少女のキャラクターが秀逸だと思いました。
喘息持ちで、体が丈夫ではありません。
そのため彼女は、幼いころから他人に助けてもらわなければなりませんでした。
その一方で、自分もまた他人にお返しをするのだ、という生き方をしてきました。
そんな人生哲学が身についているからこそ、灰色の者と対峙するときの彼女のセリフに、説得力があるのです。
また、彼女が、本好きという地味目のキャラクターであるのもよいですね。
地味だからこそ、読む人に親近感を抱かせるし、共感を得やすいと思うのです。
青少年向けに書かれた本だとは思いますが、欲にこりかたまった大人も、ときにはこんな作品を読んで、人生にとって大事なことを再確認するのもよいのではないか、という気がしました。
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