新章神様のカルテ(夏川草介)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

新章神様のカルテ(夏川草介)

【ネタバレ有り】新章神様のカルテ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:夏川草介 2019年2月に小学館から出版

新章神様のカルテの主要登場人物

栗原一止(くりはらいちと)
本作の主人公。信濃大学病院に勤める傍ら大学院生として学んでいる消化器内科医。読書を好み、特に夏目漱石を敬愛している。そのためか普段から口調が古風。

栗原榛名(くりはらはるな)
主人公である栗原一止の妻。山岳写真家。栗原とのあいだに娘が1人いる。

宇佐美(うさみ)
栗原が所属する信濃大学病院第4内科の准教授。教授に続きNo.2。病棟のベッド管理者。ルールとガイドラインを重んじる。

砂山次郎(すなやまじろう)
栗原の同級生。信濃大学病院の外科医。看護師の水無と付き合っている。北海道の酪農家出身。

新発田大里(しばただいり)
信濃大学病院の4年目の消化器内科医。生真面目な顔でいつでも医局でお茶をすすっている姿から、栗原からは利休(りきゅう)と呼ばれている。真面目で熱意があるが、融通が利かない部分もある。

新章神様のカルテ の簡単なあらすじ

今から2年前、地域の基幹病院で臨床一辺倒の生活を送っていた消化器内科医の栗原一止は、心に機するところがあって大学病院で学ぶことを志しました。大学医局という場所は、栗原の積み上げてきた実績や常識が全く通じないところでした。そんな栗原の元に1人の末期癌患者が外科から紹介されてきます。29歳女性、1児の母、外科的には手の施しようのない末期の膵癌。医局が地域医療に対して果たしている役割と、患者優先でばかりはいかない独特なルールのはざまで、栗原自身も医師として人間として一層成長していきます。

新章神様のカルテ の起承転結

【起】新章神様のカルテ のあらすじ①

大学病院の現実

栗原は研修医時代から勤務していた地域の基幹病院である本庄病院を離れ、母校である信濃大学病院に勤務する傍ら、大学院で研究に勤しんでいます。

大学病院というのは内科だけでも第1内科から第5内科まで専門ごとに細かく分類されており、そのうち栗原が所属するのは第4内科(消化器内科)第3班、「栗原班」でした。

本来であれば栗原の上司である北条医師が班長を務めていますが、神出鬼没で連絡が取れないことも多いことから、副班長である栗原の名前を冠した班になっています。

そんな栗原班の担当患者で、治療が終わっているにもかかわらず退院に応じない患者家族がおり、栗原は後輩医師である新発田から相談を受けます。

大学病院という場所は、各地から重症の患者が紹介されてくるという特性上、患者の入院期間に関してかなり厳しいルールがあり、病棟ベッド管理者の監視の目もあり、栗原は患者の娘を説得して転院する運びになりました。

病棟ベッド管理者というのは、第4内科の准教授である宇佐美医師で、通称「パン屋」と呼ばれています。

「1つしかパンがなかったとしたら、そのパンによって今確実に今を生き延びられる子にのみ与えられるべきだ」といった例え話が、宇佐美医師が「パン屋」と呼ばれる所以です。

それを許容しているかのような栗原の言動に、熱心な新発田はイラだちます。

栗原もまた、大学病院の矛盾を知っているだけに上司の顔を潰すことはできず、反面まっすぐな性格の新発田の気持ちも分かるだけに憂鬱な気持ちになるのでした。

【承】新章神様のカルテ のあらすじ②

地域病院と大学病院の違い

日々臨床と研究に追われる栗原の元に、同期である外科医の砂山が相談に訪れます。

近隣の病院から腹腔内腫瘤の精査目的で外科に紹介されてきており、栗原としても内視鏡検査を依頼された経緯があり面識のある患者の件でした。

外科的には手術不可能という診断が下り、手術の腕はずば抜けていても愛想や社交辞令という部分が不得手な外科教授からそれを宣告された患者はとてもショックを受けており、主治医を栗原に頼みたいという患者たっての希望を叶える形となりました。

たった一度の検査に関して丁寧に説明をしてくれる、検査の後にも数回にわたって様子を診にきてくれる、そんな栗原に信頼を寄せてのことでした。

また、栗原が本庄病院に勤めていた頃この患者の父親を看取った際の、患者家族の立場に立った対応も理由のひとつであった、ということものちに患者の口から語られます。

診療科によって為すべき治療が変わるわけではない今回のようなケースでも、患者の心持ちを優先してわざわざ茨の道を選んでしまう栗原に、第4内科の中からは否定的な声も上がりました。

とりわけ「パン屋」こと宇佐美医師からは長期間ベッドを使用することについて詰められ、他からはカンファレンスにかけずに独断で転科を引き受けたことについても指摘が上がったところを、上司である班長があえて打算的な理論で沈滞した空気を一掃してくれたのでした。

【転】新章神様のカルテ のあらすじ③

大学病院の役割

29歳女性、1児の母、外科的には手の施しようのない末期の膵癌である患者の容体は悪化の一歩を辿り、患者本人から実家で最期を迎えたいという希望が語られます。

しかし、患者の希望を最優先に考えたい熱意ある医師と、実際に在宅医療を支える側の訪問看護師たちとの間で軋轢が起こり、新発田と栗原は暴言を吐いてカンファレンスは暗礁に乗り上げ、医局内での栗原の立場も難しいものとなってしまいます。

そんな各所との連携の難しさや、大学病院という組織の複雑なルールに困惑する栗原でしたが、また別の症例で大学病院の本来の役割を見つめ直すことになるのでした。

その症例というのは、なかなか症状の改善しない潰瘍性大腸炎の患者のCT画像にあらたに膵癌らしき影が写り、外科との合同カンファレンスにかけたものでした。

カンファレンスで明確な治療方針が決まらないまま対立の様相を見せていた時、栗原の同期である砂山が回診を申し出てまずは必要な検査を検討するところから外科内科で協力することとなり、栗原は思わぬところで同期の堂々とした振る舞いを頼もしく思うのでした。

結局この患者は膵癌ではなく極めて珍しいタイプの膵炎で、その診断は別班の班長である医師がつけてくれ、その病態に気づくきっかけになったのが、普段は病棟ベッド管理ばかりをしているように見えた准教授の宇佐美医師でした。

入院ベッドの管理や医局運営にばかり骨身を削っていると思っていた宇佐美医師ひとりだけが、画像を見て膵癌以外の疾患を念頭に挙げたという事実がそこにはありました。

診断どこあろかこの珍しい疾患の名前すら知らず落ち込んでいる栗原に対して、外科医も放射線医も診たことのない症例を画像だけで診断できる医師がいる、それぞれの分野のオタクのように詳しい医師たちが頭を突き合わせて答えを導き出していく、それを出来る大学という場所はすごい場所なのだと班長は語るのでした。

【結】新章神様のカルテ のあらすじ④

ゆるぎない信念

在宅で最期を迎えることを希望していた29歳末期の膵癌患者は、最終的に栗原が本庄病院時代にお世話になっていた旧知の医師と看護師の尽力もあり無事に退院し自宅に戻ることができたが、栗原は「パン屋」こと准教授の宇佐美医師に呼び出されてしまいます。

呼び出されていつもの通りの「限られたパン」の話をする宇佐美医師に対して、栗原は2年間大学に勤めて感じ続けていた違和感を言葉にして伝えました。

限られたパンや複雑なルールの話では解決に向かわない、患者の話をしているのだ、と。

しかしそれに対する宇佐美医師の答えは、栗原は医局に馴染まない人間だという抑揚のない声と、感情の読みとれない透徹した視線でした。

そんななか栗原は、29歳の膵癌患者がいよいよ朝まで保たないとなったという連絡を、訪問看護師から受けます。

患者が強く望んだ自宅での最期を叶えることができたのでした。

この患者の退院カンファレンスの際に意見の食い違いから険悪になりかけた訪問看護ステーションや地域連携室との関係は、お互いプロフェッショナルでなるからか業務に影響は出ずに済みました。

そんなある日、栗原はまた准教授の「パン屋」に呼び出しを受けました。

次年度の人事に関する話であろうことは想像していた栗原でしたが、当然トラブルを起こした代償として僻地への異動も覚悟していたところ、伝えられた異動先は想定外のものでした。

「これからも患者の話をする医者でいなさい。」

栗原自身の哲学はすでに明示してあるうえで大学に残れと言うなら、望み通りに居残って我が道を進むと決意したのでした。

新章神様のカルテ を読んだ読書感想

以前所属していた本庄病院では臨床一辺倒、立場としても科内で一番下だった栗原が、大学病院に籍を移し大学院で知識をつける傍ら、医局内の班では後輩医師を抱える中堅になっていることに、とても感慨深いものがありました。

ただがむしゃらに理想を追いかけてひたすらに前へ進む、といった若者時代を経て、押すところと引くところをわきまえることを身につけ、しかし理想と現実のあいだで自らの信念を曲げずに貫こうとする栗原の姿は、現実世界のさまざまなしがらみの中で生きる同世代の人間に勇気を与えてくれるものだと感じました。

また、栗原以外の登場人物でも幸せな方向に進んだ面々の近況が書いてあり、懐かしい友人の話を聞いているように感じられる場面もありました。

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