「教育」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|遠野遥

「教育」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|遠野遥

著者:遠野遥 2022年1月に河出書房新社から出版

教育の主要登場人物

勇人(ゆうと)
本作の主人公。翻訳部に所属。学校に従順であり、成績向上を第一に考えた生活を送っている。

真夏(まなつ)
勇人のクラスメイトであり、セックスパートナー。学校の徹底した管理体制に疑問を持っている。

小宮(こみや)
校内でも美人で有名な翻訳部の副部長。先生との関係も噂される。

海(うみ)
翻訳部の下級生の女子。成績は悪い。セックスに興味はなく、本を読むことが好き。

未来(みらい)
催眠部唯一の部員である下級生の女子。勇人に催眠術をかけることになる。

教育 の簡単なあらすじ

一日三回以上オーガズムに到達することが推奨されている全寮制の学校。

徹底した管理体制の中、勇人は成績向上のための日々を過ごしていました。

勇人はセックスパートナーの真夏に彼氏ができたことショックを受けます。

学校の支配と抑圧に着実に適応していく勇人と対照的に、真夏は彼氏との関係がうまくいかず成績を落としていきます。

真夏を助けることはできないと悟った勇人は考えるのをやめ、成績向上の日々に向かうのでした。

教育 の起承転結

【起】教育 のあらすじ①

歪んだ価値観の中で繰り広げられる競争と恋愛模様

ある全寮制の学校の生徒である勇人は、自室でポルノ・ビデオを観ています。

この学校では一日三回以上オーガズムに達すると成績が上がりやすいとされていて、セックスとオナニーが推奨されています。

また学校中にカメラが設置されており、常に監視されています。

下級生は上級生に逆らえず、上級生も、先生と警棒を差した巡回には決して逆らえません。

勇人には、互いの成績を上げるためのセックスパートナーであるクラスメイトの佐藤真夏という女子生徒がいます。

しかし真夏から演劇部の部長である樋口と付き合うことになったことを告げられます。

勇人はショックを受けつつ、仕方がないことだと諦めます。

もっとも、勇人はこれまで真夏と付き合おうとはしませんでした。

特定の人間と付き合うと、その人以外とセックスをすることができなくなるからです。

勇人の学校で最も重要なのは超能力テストです。

その内容は、モニターに映し出された4枚のカードと一枚の写真を見て、写真と同じものがプリントされたカードを当てるというものです。

結果によってクラスが振り分けられ、成績が良いほど待遇の良い居室が与えられます。

勇人は順調に成績を伸ばしており、上機嫌で所属する翻訳部の部室に向かいます。

部室では、翻訳部の下級生である海が黙々と読書をしています。

勇人はある海外小説の翻訳作業をします。

翻訳部の上級生、校内でも美人だと評判の小宮はその翻訳を聞きつつ、勇人とセックスをします。

小宮が去ったあと、勇人が海にセックスについて尋ねると、怖いものだと答えます。

そんな時演劇部の樋口がやってきます。

樋口は、真夏には近づかないよう勇人に忠告します。

真夏に未練がある中、勇人は下級生で催眠部の女子生徒の未来に出会います。

未来はレズビアンで、部長のひとみと付き合っていましたが、ひとみはある日は突然いなくなってしまい、部員は未来だけになったといいます。

勇人は未来の部屋を後にします。

【承】教育 のあらすじ②

学校の抑圧下で生きる女子生徒たち

校内のジムのプールで海に会った勇人は、気が合いそうだから未来と仲良くなってはどうかと提案します。

海は出来が悪い者同士だから気が合いそうだと思うのかと言います。

海と別れた後、勇人は真夏に会い、樋口との関係がうまくいっていないことを聞かされます。

樋口はセックスの際に台本を用意し、真夏にその通りにするよう要求するというのです。

真夏は断れずに承諾してしまい、要求は次第にエスカレートしていきました。

真夏は台本を覚えるために眠ることすらままならず、成績も下がっていました。

心配する勇人は、今度真夏が脚本を担当する演劇部の公演を観に行く約束をします。

その晩勇人と真夏は食事を共にしますが、真夏は食欲がなく半分ほどしか食べることができません。

勇人は、良い成績は健康な体に宿るという学校の教えに忠実で、真夏にも完食するよう促します。

真夏を部屋に送り届けた後、勇人は未来に会いに行きます。

未来は、ひとみはいなくなってしまったが、幸せな思い出があれば生きていけると言います。

未来は催眠術をかけ勇人を女子高生にします。

未来はその女子高生について語ります。

女子高生は高校を17歳の誕生日に中退し、アルバイトを転々とした後、20歳の誕生日に遊園地でアルバイトを始めます。

以降40歳までの20年間そこでアルバイトを続けるのでした。

真夏と過ごす時間がなくなった勇人は、海を誘い二人でバドミントンをします。

海はバドミントンをするより本を読むほうが好きでした。

勇人は海に、相変わらずセックスはしていないかと尋ねます。

海は本を読むのに夢中になっているからセックスをする必要がないと言います。

海は、巡回の島田が本を読んでいるのを見つけます。

海は島田に近づき、何の本を読んでいるのか尋ねます。

島田は、巡回が生徒と交流を持ってはいけないといいます。

勇人は慌てて島田に謝罪し、海にそのようなことをしては処罰されてしまうからいけないと諭します。

【転】教育 のあらすじ③

学校閉鎖の噂と真夏との決別

勇人は好成績を維持していました。

テスト終了後、先生がモニター上に現れて勇人に何か特別なことをしているのかと尋ねます。

勇人は、学校が推奨するように睡眠、食事、運動に気を遣い、一日三回のオーガズムを欠かさないことを伝えます。

その後勇人は翻訳部部長の高木から、学校が閉鎖されるという噂を聞きます。

外部の人間が、学校の生徒がひどい扱いを受けていると主張しているというのです。

成績を上げることだけに集中してきた勇人は、学校がなくなることを考え不安に襲われます。

小宮とセックスを始める勇人ですが、学校指定の避妊具をせずに挿入しようとします。

次の瞬間勇人は高木から辞書で殴られました。

高木はそんなことをしてはいけないと言い、繰り返し勇人を蹴りつけます。

満身創痍の勇人は未来の部屋に行きます。

勇人は催眠術で女子大生になります。

その後勇人は、未来から海と友達になったことを聞かされます。

その矢先、突然部屋に現れた先生と島田が、未来の成績が落ちているため補習を受けるよう伝えます。

恐怖する未来はすがるように勇人を見ますが、勇人にできることはありません。

未来は先生たちに連れていかれます。

その後、真夏から樋口と別れることができたと告げられます。

学校閉鎖の噂が気になる勇人は先生から署名集めを提案され、すぐに取り掛かりました。

署名集めに精を出す中、勇人は真夏が脚本を書いた演劇部の公演を観ます。

公演後、勇人は学校閉鎖に反対する署名が順調に集まっていることを真夏に話します。

しかし真夏は学校が閉鎖されてもよいと言います。

言い争いの末、真夏は泣いてしまいます。

真夏を助けられるのは自分だと考えた勇人はセックスをしようとします。

しかし、真夏の手にはシャーペンが握られていました。

身の危険を感じた勇人はその場から離れ、未来の部屋に行きます。

未来は「教育」されており、男とセックスをしてオーガズムを求めるようになっていました。

【結】教育 のあらすじ④

「教育」に屈服する勇人

新学期、無事に一クラス上に進級を果たした勇人は、廊下で真夏とすれ違います。

真夏は一クラス降格していました。

勇人は真夏に対して取り返しのつかないことをしてしまったと思いますが、これ以上考えるのは自分が自分でなくなりそうだからやめることにしました。

勇人は翻訳部の部室で、世の中では感染症が流行がしており、学校閉鎖を叫ぶ人たちもそれどころではなくなっているらしいということを耳にします。

勇人は今期から特進クラスに上がった小宮とセックスをします。

海と未来は疎遠になっていました。

海は、未来が男の子と遊ぶようになり、以前の未来ではなくなったような気がすると言います。

勇人が未来ともセックスをしていることを話すと、海は悲しそうな顔をしました。

そんな時、「勇人、助けて」という声が聞こえました。

真夏が先生と島田に追われていたのです。

勇人は先生に言われるがままに真夏を捕まえます。

勇人は真夏を安心させようとして、補習を受けるように促します。

その時、真夏が勢いよく勇人の首を掴みました。

真夏に向けて島田が警棒を抜いたとき、勇人はぞっとしてとっさに真夏の顔を殴りました。

倒れた真夏は赤ん坊のようにいつまでも泣いています。

真夏を起こそうとする島田の腰に差した警棒が勇人の目に入ります。

勇人はあの警棒を奪えば真夏を救うことができるだろうかと考えます。

ふと先生を見ると、先生も勇人を見ていました。

自分にできることなどないと悟った勇人は先生に頭を下げ、自分の部屋に戻ります。

勇人は今起きたことについて考えるのは終わりにし、これから何をするか考えることにしました。

この日はまだ二回しかオーガズムに達していなかったので、選択の余地はありませんでした。

勇人はリモコンを操作し、ポルノ・ビデオを再生するのでした。

教育 を読んだ読書感想

芥川賞を受賞した遠野遥氏の初の長編小説です。

正常がねじ曲げられた環境の中であまりにも純粋な主人公は、愛する人への気持ちが常に歪んだ形で行動に現れてしまいます。

その描写は恐ろしくもあり、切なくもあります。

当前のように行われる「教育」にはいったいどれほどの意味があるのか。

また、果たしてそれは本当に人を幸福にしているのか。

自分の頭で考えることなく、閉じられた世界の中で従順であることの異常性が不気味に描かれています。

ともすれば決められたルールの中で主体性なく生きてしまいがちな現代社会に警鐘をならす作品です。

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