「あふれる家」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|中島さなえ

「あふれる家」

著者:中島さなえ 2020年5月に朝日新聞出版から出版

あふれる家の主要登場人物

稲葉明日実(いなばあすみ)
ヒロイン。子供扱いされるのが嫌いな小学4年生。グループに属さず想像がたくましい。

稲葉遥(いなばはるか)
明日実の母。司書をしているが子育てに関しては放任主義。

稲葉豊(いなばゆたか)
明日実の父。ずいぶん前に会社を辞めて現在の消息は不明。

土門寿美子(どもんすみこ)
明日実の祖母。海外旅行が好きで社交界にも顔が広い。

真理(まり)
明日実の友人。しつけの厳しい家庭で育てられている。

あふれる家 の簡単なあらすじ

稲葉明日実の母・遥は夏休み前に交通事故に巻き込まれて入院中、父の豊は日本全国を渡り歩いていて帰ってきません。

両親が不在の上に赤の他人が入れ代わり立ち代わりしている環境の悪さを心配して、土門寿美子は孫娘を引き取ろうとします。

明日実は仲間たちと生まれ育った家での生活を選び、やがてケガが良くなった遥の退院が決まるのでした。

あふれる家 の起承転結

【起】あふれる家 のあらすじ①

足はくぎ付けでも愛娘は奔放

稲葉遥はスーパーマーケットからバイクで帰る途中で軽トラックと衝突してしまい、足にボルトを3本入れる手術を受けました。

少なくとも1カ月は病院のベッドですごす羽目になりましたが、夫の豊は常に何かに熱中していて今も旅に出ています。

娘の明日実は10歳ですが勝手にレトルト食品やカップラーメンを食べて、気が向いた時には学校へ行っているようです。

母の土門寿美子は山の上の高級住宅街に住んでいましたが、勘当されているために明日実の面倒を見てくれそうもありません。

実家から車で15分ほど坂道を下っていくと川と畑が無造作に広がった地域があり、ここに遥たちの小さな家がありました。

遥の友だちやその友だちが連れてきた友だち、豊の知り合いにその知り合いから紹介された知り合い… 稲葉家は多くの居候を抱えていて、夜から朝までお酒を飲んで日中はみんなで雑魚寝をしています。

明日実のことも我が子のようにかわいがってくれる人たちなので、遥は特に心配はしていません。

【承】あふれる家 のあらすじ②

縛られた家とあふれる家

幼稚園の頃の明日実はどこの家もわが家のように、知らない人たちであふれかえっているのだと思っていました。

小学校に進学してからは誰ともつるまないようにしていましたが、4年3組に転校してきた真理とは何となく気が合っています。

1学期が終わる直前に初めて彼女が遊びに来た時には6畳の居間に劇団員、奥の和室には下着姿の若いカップルがいて足の踏み場がありません。

服をここに入れなさい、床を水でぬらしてはダメ、夕方の5時までに帰ること… 真理の家には子供部屋から洗面所、階段の1段1段にいたるまで張り紙がしてあるそうです。

両親が口うるさい性格のために、たくさんの約束事に囲まれて叱られないようにしていました。

明日実の家では服がそこらに脱ぎ散らかしていて、置いてあるお金で買い物をするのも学校を無断で休むのも自由です。

言い付けさえ守っていれば旅行に連れていってくれたりご褒美をもらえる真理、夏休みになっても放ったらかしで母のお見舞かプールに行くしかない明日実。

お互いの正反対な事情について語り尽くしたふたりでしたが、どちらが幸せなのかは分かりません。

【転】あふれる家 のあらすじ③

お上品なお屋敷よりも懐かしい匂いのマイホーム

8月に入ったある日の朝、大きなクラクションが聞こえたために玄関へ出てみるとクラウンの運転席から土門寿美子が降りてきました。

イタリアから帰ってきたばかりだという彼女は、モヒカン頭のバンドマンが庭で水浴びをしてるのを見て露骨に顔をしかめています。

和室では猫の親子や生まれたてのウサギが走り回っていて、寿美子の話によるとこの家は雑菌にまみれて呪われているそうです。

後部座席に明日実を押し込むと勢いよく発進させてしまい、キャミソール姿の薬剤師が止めるのも聞きません。

車が4台は停められそうな駐車場、来客用の日本家屋、洋風のリビングに飾り棚、年代物のオルガンがある音楽室。

土門家は何もかもが桁外れで、明日実もフリフリのレースがついた薄いピンク色のワンピースを着せられてしました。

夕食はお抱えのシェフが作ったビーフストロガノフで、夜の9時にはキングサイズのベッドが置かれた寝室に案内されます。

枕とシーツには香水が振りかけられているために、全身が拒否反応を起こしてしまい眠れません。

ワンピースを脱ぎ捨てて汚れたTシャツとジーパンを身につけた明日実は、真っ暗闇の山道を駆け抜けて動物と人間の体臭のする家を目指します。

【結】あふれる家 のあらすじ④

大きな宿題を残して夏が終わる

夏休みも残りあとわずかになってきましたが、明日実はまったく宿題に手をつけていません。

遥の折れた骨が治っていく過程を写真で記録していたために、理科の課題である「生物観察日誌」くらいなら提出できるでしょう。

かなりの有名人だという寿美子と一緒に高級ホテルのパーティー会場に出かけた時には、小学生時代の遥に関する逸話の数々を知ることができました。

駅前に植えてあった記念樹を真っぷたつに伐り落としたとか、市民館に展示されていた美術品を粉々に壊したとか。

「立派なレディー」になるという期待をあっさりと裏切ったひとり娘のことを、寿美子は今でも許していません。

2日後に帰宅する予定の遥とは会うつもりはないと意地を張っていますが、明日実が出演する来月の学芸会は見学にきてくれるそうです。

パーティーはお開きとなり明日実を愛車で稲葉家まで送り届けると、見事なハンドルさばきで走り去っていきます。

豊は相変わらず出て行ったきりのままでしたが、家の中はたくさんの生き物と人であふれているのでした。

あふれる家 を読んだ読書感想

小学校の低学年にして人生を達観しているかのような、大人びたまなざしを帯びた女の子の姿が思い浮かんできました。

そんな主人公の明日実を上回るほどの強烈かつユニークなキャラクターが、次から次へと登場してきます。

強面のミュージシャンに色っぽい薬剤師、武骨な肉体労働者に知的な学者肌まで。

職種から年代がまるでバラバラな人たちが、ひとつ屋根の下でコミュニティーを作っているようで楽しげですね。

淑女を自称する土門寿美子が、思わず眉をひそめてしまうのも無理はありません。

こんなお堅い母親から破天荒な遥が生まれたのは信じがたいですが、いつの日にか明日実を含めた3世代で団らんする日が訪れるのでしょう。

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