「おじさんとおばさん」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|平安寿子

「おじさんとおばさん」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|平安寿子

著者:平安寿子 2010年4月に朝日新聞出版から出版

おじさんとおばさんの主要登場人物

川野緑(かわのみどり)
ヒロイン。20代半ばから子育てと家事を堅実にこなしてきた。表向きだけ調子を合わせるのがうまい。

有川澄江(ありかわすみえ)
緑の恩師。勤続37年の教師で人望がある。

有川修(ありかわおさむ)
澄江の息子で副市長。スライド式で市長の座を狙う。

川野明(かわのあきら)
緑の夫。休みの日はゴルフ三昧で老後にビジョンを持っていない。

中田高志(なかたたかし)
緑の小学生の時のクラスメイト。妻に先立たれて職場では閑職に回されている。

おじさんとおばさん の簡単なあらすじ

小学生の時に担任だった有川澄江の息子・修の応援会のために集まったのは、専業主婦として退屈を感じていた川野緑です。

妻と死別した中田高志や地方局でラジオ番組をやっている三村寛治との再会がきっかけで、少しずつ気持ちが揺らいでいきます。

病に倒れて取り巻きに見放された修に自らの行く末を重ねた緑は、夫に添い遂げることを選ぶのでした。

おじさんとおばさん の起承転結

【起】おじさんとおばさん のあらすじ①

おばさんがおじさんにトキメキ

お世話になった有川澄江先生の呼び掛けに応じたのは、川野緑をふくめて150人以上の元6年3組の児童たちです。

ホテルの大広間を貸し切りにして、ステージには「有川修くんを応援する会」という横断幕が掲げられていました。

政令指定都市のナンバー2にまで上り詰めた息子が今度の市長選に立候補するそうですが、緑にとっては小学校卒業以来45年ぶりの級友との近況報告の方を楽しみにしています。

おじさんとなった男子たちを見ているとほのぼのとした気持ちになるのは、ほとんどが小学6年生の時から進歩していないからでしょう。

ただひとりだけ気になっているのは、つい最近になって妻を亡くしたという中田高志です。

勤め先は製薬会社、50歳で早期退職を促されるものの拒否、現在は営業職から内勤に移動、景気後退と業績の不振を理由に給料は据え置き。

再婚話をいろいろと持ち掛けられることが多い中田ですが、単身赴任時代に覚えた料理や掃除のおかげでひとり暮らしも苦になりません。

【承】おじさんとおばさん のあらすじ②

小さな同窓会が大きな火遊びに

市議会議員や有力企業の社長やらのスピーチにウンザリした5〜6人の中から、政治的な色を排したこぢんまりとしたクラス会の話が出ました。

幹事を引き受けたのは3人の子どもたちが独立していてパートを辞めたばかりの緑、話し合いの場所として自宅を提供してくれたのが中田。

27年前に購入したという建て売り住宅に、お供え用の花束を持って訪れた緑たちは仏壇に線香をあげて手を合わせます。

緑の中田へ情熱が急激に引いていったのは、大好きでロケ地まで足を運んだ韓流俳優の悪口を言われたからです。

ローカルラジオでアナウンサーとして活躍している三村寛治は理解があり、文化事業部で扱う来日イベントの招待券までプレゼントしてくれました。

せっかく用意してくれたチケットですが、当日になって夫・明の父親が脳梗塞で倒れたために出掛けることができません。

義理の母親を引き取ることになったために都合が悪くなったことをメールで報告すると、三村からはすぐに返信が届きます。

【転】おじさんとおばさん のあらすじ③

知らぬ存ぜぬでピンチを脱出

無理をしないで、頑張りすぎないで、ひとりで背負い込まないで… 三村からのメッセージはあらゆるメディアで使い古された言葉でしたが、自身に置き換えてみると初めて救われました。

保存したメッセージを何度も読み返しては密会を試みる緑ですが、明の母親の世話を押し付けられているために十分な時間が取れません。

ようやくチャンスが巡ってきたふたりは最寄りの駅裏で待ち合わせをすると、迷わず駅裏のラブホテルへと直行しました。

華やかな放送業界でドラマチックな人生を歩んできた三村、中堅どころの通信機器会社で平凡なサラリーマンをしている明。

ふたりを比べていた緑ですが、携帯電話のデータを義母に盗み見されてしまいます。

窮地に立たされた緑が思い付いたのは、徹底的に白を切り通すことです。

明としても休日は自分の趣味に明け暮れていて、夫婦のこれからについてまったく考えていなかった負い目もあったのでしょう。

体だけは丈夫な義母に町内会やシルバー向けの講座を紹介した緑は、それ以降少しは自分の時間が取れるようになりました。

【結】おじさんとおばさん のあらすじ④

わたしたちの再出発を熱唱

出馬直前で入院した有馬修はしばらくは投薬治療が続くそうで、周囲にいた支援者たちは波が引くように去っていきました。

1人5000円のカンパを募って治療費に役立ててほしいと、中田と緑がみんなを代表して手渡しにいきます。

これからは教え子ではなく我が子を支えると思ったよりも澄江は元気そうで、クラス会にも喜んで顔を出してくれるでしょう。

ひと回りほど若い修の闘病姿にショックを受けた緑は、三村とは友だちとして付き合いお互いに家族を大切にするつもりです。

中田は小6の時の緑がどんな女子だったかを思い出そうとしていましたが、今と同じお人よしのおばさんといったイメージしか浮かんできません。

二次会ではカラオケを予定しているために、お見舞いの帰りに病院の近くで見つけたお店を下見してみます。

愛のプレリュード、男の子女の子、HELP!、希望… 店内に設置された最新の検索システムに驚きつつも、ふたりが選曲するのは1970代に流行した歌ばかりです。

中年時代が終わりを告げて新しい旅が始まることを確信したふたりは、大声でデュエットするのでした。

おじさんとおばさん を読んだ読書感想

主人公の川野緑や中田高志は1953年生まれ、おそらくは団塊の世代の妹や弟に当たるでしょう。

ひとクラスが50人は当たり前という彼ら彼女たちの、大人になった姿は千差万別です。

夢をかなえた者、現実と折り合いをつけた者、いまだに夢を追いかけている者。

それぞれがこれまでの人生で獲得してきたステータスを、カードゲームのように見せびらかす様子は小学生と大して違いはありません。

パッとしない中田から成功者とも言える三村寛治に、あっさりと方向転換してしまう緑が実にしたたか。

終盤ではすべてをなかったことにする荒業に打って出るなどかと思えば、結局のところは妻・母として盤石に収まるなどちゃっかりしていますね。

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