「放課後ひとり同盟」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|小嶋陽太郎

「放課後ひとり同盟」

著者:小嶋陽太郎 2018年4月に集英社から出版

放課後ひとり同盟の主要登場人物

林(はやし)
ヒロイン。女子力のない女子高生。祖母は認知症で父はリストラ寸前。

原田幹雄(はらだみきお)
林のクラスの人気者。スポーツマンで顔も爽やか。

三崎(みさき)
林のクラスメイト。心と体の不一致に悩む。

サキ(さき)
三崎の2番目の弟。他人には見えない負の感情が見える。

栗田(くりた)
サキの学校の転校生。クラスに溶け込むためお調子者を演じる。

放課後ひとり同盟 の簡単なあらすじ

通学中に痴漢の被害に遭った林は、デパートの屋上で「蹴り男」から不幸をやっつけるおまじないを教わります。

林のことが大好きな原田幹雄は、経済的に困っているという彼女を助けることはできません。

女の子になりたい男子高校生の三崎は、原田や林との交流を通してありのままの自分を受け入れていきます。

三崎の弟・サキは転校してきた栗田のひと言がきっかけで、冷戦状態だった母と兄の仲を取り持つのでした。

放課後ひとり同盟 の起承転結

【起】放課後ひとり同盟 のあらすじ①

降り注ぐ災難をキックで撃退

林が太もものあたりからお尻にかけてに生温かい指の感触を感じたのは、いつものように学校へ向かう7時42分発の電車の車内です。

近所の道場で護身術を習いたいのですが、祖母が老人ホームに入院して父親の給料も減っているために月謝が払えません。

放課後に学校と駅の中間くらいのところにあるパルコに寄り道して、屋上にいる40歳くらいの男性に会いに行きました。

左足を軸にして右足を空に向かって真っすぐに蹴り上げている40歳くらいの男性は、「蹴り男」と呼ばれていて中高生のあいだで人気があります。

かれこれ5年くらいは空に飛び蹴りを続けている理由は、不幸が世の中に墜ちてくるのを防ぐためだそうです。

天井のあるところはダメ、屋外でそれもできるだけ広いスペースを確保して、自分の頭の真上を狙うイメージで可能な限り高く。

細かくレクチャーを受けた林は、昼休みの1時間を使って校舎の屋上で蹴りの練習をしていました。

蹴り男がスーパーで万引をして逮捕されたのは数日後、アルコール依存性で前科もあるためにしばらくは釈放されないでしょう。

林は蹴りに費やしていた時間を有効に活用して家計を支えるために、週に3回ほどアルバイトを始めます。

【承】放課後ひとり同盟 のあらすじ②

完璧男の予期せぬつまずき

2年F組のホームルームが始まる10分前、原田幹雄の周りには数人の女子生徒が集まっていますが林にだけは声を掛けても無視されてしまいます。

午前中の授業が終わると同時に教室を抜け出して居なくなるために、コッソリと後を付けてみると人気のない屋上です。

全身のバネを使って見事な飛び蹴りを決めている林は制服姿で、原田の角度からだとパンツが丸見えですが本人はまるで気にしていません。

悩んでいることがあるならば打ち明けてほしいと親身になって相談に乗りますが、「お金をくれ」だとは予想していませんでした。

運動神経に恵まれていて成績も優秀、うまい冗談が言えるけど出しゃばり過ぎない、男子とも女子とも仲良し。

どんな悩み事でもパパッと解決できると信じていた原田のプライドは、あっさりと打ち砕かれてしまいました。

レギュラーだったサッカー部では調子が落ちてきて顧問から怒られてしますが、ただひとつだけ嬉しかったことは林が「この前はゴメン」と謝ってくれたことです。

【転】放課後ひとり同盟 のあらすじ③

恋敵の美脚にほれる

三崎が生まれてきた性別を間違えてしまったと思い始めたのは、家庭科の調理実習で原田と同じグループになった時です。

卵を割る、小さじ中さじ大さじで調味料を測る、ボウルに混ぜてかき混ぜる、ニンジンを包丁で切る… 母親の代わりに3人の弟の晩ご飯を毎日のように作っている三崎は慣れたもので、その手つきを原田は大げさにほめてくれました。

髪の毛を伸ばしてお年玉で女の子用の洋服を買いあさりましたが、学校では好奇心の目を向けられて家でも母に理解してくれません。

ただひとりだけ変わらない態度で接してくれたのが原田で、思い切って告白してみます。

今の自分は男でも女でも林以外の人は好きになれないこと、三崎とは友だちでいたいこと。

その林が「不幸蹴り」に夢中だときいて見学してみると、スカートから伸びる彼女の太ももの細さと白さはまさに三崎が理想とする美しさです。

誰かと関わることで人間は少しずつ変われると信じている三崎は、登下校の際に林と言葉を交わすようになりました。

【結】放課後ひとり同盟 のあらすじ④

ぐるぐるを吹き飛ばし常識の定規をへし折る

先月に10歳になったばかりのサキの目の前には、ふとした瞬間に暗い色の渦巻きのようなぐるぐるが出現します。

兄が伸ばした髪の毛をポニーテールにした時、それを見た母親が「みっともない」と腹を立てた時。

この春に別の地区から引っ越してきた栗田もみんなから「カッパ」と呼ばれてニコニコと笑っていますが、サキにだけは頭上のぐるぐるが見えました。

ふたりっきりの時に「無理してない?」と声をかけると、ようやくホッとした様子です。

栗田の右手の指と指のあいだの皮膚は異様に長くて水かきのような形のために、前の学校ではいじめを受けていました。

栗田が言うには誰もが自分の定規を持っていて、そこからはみ出したことに対応するのは難しいのだそうです。

次の日にハッキリと「やめて」と言えるようになった栗田のことを、からかう者はいません。

サキは筆箱から取り出したプラスチックの定規を真っ二つにすると、家に帰って何があっても兄の味方になると同盟を結ぶのでした。

放課後ひとり同盟 を読んだ読書感想

洗いざらしでヨレヨレになった白いシャツ、膝や裾の当たりが破れたジーパン、日に焼けて真っ赤になった首筋や額。

平日の真っ昼間から某デパートに出没するという「蹴り男」は、普通のティーンエイジャーであれば絶対にお近づきにはなりたくないでしょう。

そんな怪しげな中年男性にある日突然に弟子入りしてしまう、高校2年生の林はずぶとい神経の持ち主ですね。

汗を拭いながら世の中の不幸と戦っているかのような彼女に、原田幹雄や三崎がひと目で魅せられてしまうのも無理はありません。

個性的なキャラクターが緩やかにつながりつつ、それぞれが小さな1歩を踏み出していく姿に青春を感じました。

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