「破戒」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|島崎藤村

「破戒」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|島崎藤村

著者:島崎藤村 1954年12月に新潮社から出版

破戒の主要登場人物

瀬川丑松(せがわうしまつ)
主人公。子供たちから慕われる小学校教師。穢多出身である事を隠して生きてきたが、穢多の思想家・蓮太郎との出会いにより、出自を欺く事に思い悩むようになる。下宿先の蓮華寺で出会ったお志保に恋をする。

お志保(おしほ)
丑松の元同僚教師・風間敬之進の娘。兄弟が多く貧乏がゆえ蓮華寺で奉公している。弟の省吾は丑松の生徒である。

猪子蓮太郎(いのこれんたろう)
穢多出身である事を公言している思想家。

土屋銀之助(つちやぎんのすけ)
丑松の同僚教師であり親友。良き理解者として丑松を支える。

校長(こうちょう)
丑松と銀之助が務める小学校の校長。自分より生徒から慕われる丑松を毛嫌いしている。

破戒 の簡単なあらすじ

長野の小学校教師である丑松は、穢多出身である事を隠して生きていました。

部落差別のある社会で生きるためには、出自を隠さねばなりません。

隠せ、という父の戒めを守り、丑松は優秀な教師として平穏な生活を送っていました。

丑松は、穢多であると公言している思想家・蓮太郎を敬愛し、蓮太郎に己の出自を打ち明けたいと思っていましたが、できないままに蓮太郎は殺されてしまいます。

更に、丑松が穢多であるという噂も流れ始めました。

丑松は蓮太郎の死に絶望しつつも、自分を隠さず生きていく事の大切さに気付き、戒めを破って自身が穢多である事を告白しました。

そして知人に誘われたテキサスでの事業に参加するため、友人たちに見送られ、東京へと旅立ったのでした。

破戒 の起承転結

【起】破戒 のあらすじ①

平穏に生きるための戒め

自分が穢多である事は決して誰にも話さずに隠し通せ。

そんな父の戒めを守り、丑松は優秀な教師として、長野・飯山の小学校に勤めていました。

部落差別のある社会で生きるためには、出自を隠さねばなりません。

穢多というだけで人間扱いされない苛烈な差別を目の当たりにしながら、丑松は戒めを胸に平穏な日々を送っていました。

そんな丑松は、穢多であると公言している思想家・蓮太郎を敬愛していました。

蓮太郎は元講師でしたが、穢多である事を公言して学校を辞め、社会変革のため活動していました。

蓮太郎の著作を読んで、丑松は思い悩むようになります。

同じ人間なのにも関わらず、穢多というだけで苛烈な差別を受ける事への憤り。

穢多である事を公言しながらも、社会で強く生きる蓮太郎への憧れ。

しかし丑松自身、今の生活があるのは、穢多である事を隠して生きてきたからだと理解していました。

鬱々として様子がおかしい丑松を、親友である同僚教師・銀之助は心配していました。

銀之助は、丑松が蓮太郎の著書を愛読している事は知っていましたが、丑松自身が穢多である事は知りません。

悪気なく、穢多である蓮太郎を見下すような話をしてしまった銀之助たちを見て、丑松はひとり怒り、更に憂鬱を深めました。

蓮太郎の著作を、どうして隠れてこっそり読まなかったのだろう。

そう悩んだ末、丑松は決心しました。

もう蓮太郎に関する事は他人の前では口にしないようにしよう、平穏無事に生きるために父の戒めを守り、決して破らないようにしよう、と。

それから丑松は、隠れて蓮太郎と手紙のやり取りをするようになりました。

【承】破戒 のあらすじ②

戒めに縛られる苦悩

ある日偶然にも、丑松は自分の生徒・省吾の家が貧しい事を知ります。

省吾は元同僚教師・敬之進の息子であり、下宿先の蓮華寺で奉公しているお志保の弟でもあります。

敬之進は子沢山でありながら、恩給が貰える半年前に学校を辞めさせられており、困窮を極めていました。

丑松は一家を憐れみ、お志保の事も気に掛けるようになりました。

そうした日々の折々に、疑う事も疑われる事も知らず、学友と無邪気に笑い合えた学生時代を思い出しては、悲しくなっていました。

丑松が何かに悩んでいる事に、心配している銀之助同様、校長も気付いていました。

旧態依然の古い教育観を持つ校長と、丑松は相容れず、丑松が優秀で生徒から慕われているのもあり、丑松は校長から毛嫌いされていました。

なんとかして丑松を他の学校へ転勤させたいと考えていましたが、理由がなければそれもできません。

校長は丑松を転勤させる口実を見付けるため、丑松の様子を伺っていました。

ある日の宿直中、丑松は父の呼ぶ声を聞きます。

父は山奥の牧場で暮らしているため、学校にいるはずがありません。

丑松は恐れました。

実は丑松は蓮太郎を文通を続けていて、知己の仲になっていました。

丑松は蓮太郎に、自分も穢多である事を打ち明けたいと思っていましたが、どうしてもできずにいましたのです。

そんな自分の迷いを察し、戒めを思い起こさせるために自分を呼んでいるのではないか、と。

丑父の幻聴を聞いた翌日、丑松の元に父の訃報が届いたのでした。

【転】破戒 のあらすじ③

葛藤

父の訃報を聞き、丑松は帰省するために汽車に乗りました。

そこで偶然にも、蓮太郎と相席になります。

蓮太郎の連れである弁護士・市村は、社会的弱者の味方となるべく政治家を目指しており、蓮太郎はその応援をしていたのです。

道中話は盛り上がりましたが、丑松には物足りませんでした。

蓮太郎といくら打ち明けても、嬉しい言葉をかけられても、余所余所しい他人行儀なところがあるように思えました。

丑松は同じ穢多だからこそ、蓮太郎に特別親しみを感じていましたが、蓮太郎は丑松が穢多である事を知りません。

丑松は蓮太郎に真実を打ち明ければ、同じ境遇の者として真に心通わせられるに違いない、と思いました。

そして、蓮太郎と再会したら、今度こそ自分が穢多である事を告白しよう、と決心しました。

丑松は父の牧場を訪ね、叔父と共に葬式を執り行いました。

その後蓮太郎を訪ね、自分が穢多である事を告白しようと何度も試みましたが、やはり言い出す事ができません。

父が遺した戒めを破る事を躊躇し、恐れ、躊躇いました。

父の戒めを破る事は、父に反抗する事でもありました。

丑松は悩みました。

成長して大人になった丑松は、もう父に従順に従うような子供ではありません。

そう思ってはいても、どうしていいかわかりませんでした。

蓮太郎に告白できないまま、丑松は蓮華寺に帰りました。

その日、市村のライバル候補者・高柳が丑松を訪ねてきます。

高柳は穢多の女と政略結婚をしていましたが、妻が穢多である事を世間に隠しており、妻の知り合いである丑松に妻の身分を口外しないように頼みに来たのです。

高松は丑松に、蓮太郎と親しくしているのか、とも尋ねましたが、丑松は自己保身のために否定しました。

そんな中、高松を切っ掛けにして、丑松は穢多であるという噂が校内に広がり始めていました。

更に追い打ちをかけるように、市村の応援演説の帰りに高村の支持者に襲われ、蓮太郎は殺されてしまいました。

【結】破戒 のあらすじ④

戒めを破れ

真実を告白できないまま、蓮太郎は亡くなってしまいました。

丑松は悲しみ、絶望しました。

父の死の時ですら泣かなかったのに、涙が止まりませんでした。

蓮太郎は自分を偽らず、ありのままの自分を公言しても、社会の中で確固たる地位を築いていました。

穢多である事を恥じずに、強く生きていたのです。

蓮太郎の人生と自分の人生を比べ、丑松は初めて気が付きました。

自分は本来の自分を隠そうと必死になったがために、自分を擦り減らし、隠そうとしているものを忘れる事ができなかったのだと。

自分を欺き、偽りの生涯を送っていたからこそ、こんなにも苦しかったのです。

丑松は父の戒めを破り、自分が穢多である事を告白しようと決心しました。

そして授業を全て終えた後、生徒たちに、自分が穢多である事、穢多も同じ人間である事、卑しい生まれとされる者でも、生徒たちの将来のために教育に尽力した事、今日限りで学校を辞める事を話して聞かせ、身分を偽って教鞭をとっていた事を深く詫びました。

生徒たちは丑松を引き留めようと校長に直談判をしましたが、丑松が学校を辞めるのは確定していました。

丑松は知人の紹介もあり、テキサスで新たな人生を歩む事を心に決めました。

お志保もまた、丑松の人柄に惚れており、丑松の生活が安定次第、結婚する事を誓ってくれました。

銀之助やお志保、生徒たちの応援を受け、丑松は新天地・テキサスでの人生を夢見て、ひとまず東京へと向かうのでした。

破戒 を読んだ読書感想

詩人・島崎藤村初の小説作品であり、代表作です。

部落差別という社会問題に深く切り込みつつ、学問によって自我に目覚めた青年の苦悩・悲しみを痛切に描いた名作であります。

被差別階級に生まれたというだけで人間扱いされない社会の中、身分を隠す事で教職に就けるほどに学問に親しみ、それがゆえに悩みが生まれてしまった善良な青年の苦しみ。

どうして学問などしてしまったのだろう、同じ人間だという事を知らなければ社会で軽蔑されても平気だったのに、野山を駆ける獣だったならこんな苦しむ事もなかったのに、と嘆くシーンは胸が痛くなります。

しかし、学問をして見識を深めたからこそ、丑松は新たな道を切り開く事ができました。

昔のような露骨な身分差別がなくなった現代でも、また別の差別が生まれたり、自己肯定感の大切さが叫ばれています。

世界中の人々と自分を比べる事も、学ぶ事も容易になった今、丑松のように自分を信じて生きていく強さが大切なのかもしれないと思います。

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