著者:中山七里 2020年11月に講談社から出版
復讐の協奏曲の主要登場人物
御子柴礼司(みこしばれいじ)
本作・本シリーズの主人公。弁護士。非常に優秀だが、依頼人がどんなに極悪人でも不利な状況でも引き受けるため、悪徳の評がある。14歳の時に幼児を殺害し遺体をバラバラにした犯罪歴があり、当時の名は園部信一郎(そのべしんいちろう)。<死体配達人>というマスコミの呼称で世間を騒がせた。
日下部洋子(くさかべようこ)
御子柴の法律事務所に勤める女性事務員。
谷崎完吾(たにざきかんご)
東京弁護士会会長。老齢の男性。過去を知った上で御子柴を気にかけ、時に手助けする。
復讐の協奏曲 の簡単なあらすじ
過去に殺害した女児・佐原みどりの母が依頼人となった裁判で、御子柴はその罪を世に暴露した。
その後、御子柴には犯罪を知った一般市民からの懲戒請求が大量に届き、また事務員の洋子が一緒に食事をした知原徹矢の殺害容疑で逮捕されてしまう。
弁護のために調査を始めた御子柴は、洋子が佐原みどりの友人だったことを知る。
彼は洋子の冤罪と真犯人を突き止めたが、その裏ではある人物が糸を引いていたのだった。
復讐の協奏曲 の起承転結
【起】復讐の協奏曲 のあらすじ①
女児を殺害しバラバラにした<死体配達人>の過去を世間に知られた後も、御子柴はやってくる依頼を通常通りこなしていました。
ある日、東京弁護士会会長・谷崎から事務所に呼び出され、彼の過去を知った一般市民から御子柴への大量の懲戒請求書が届いていることを知ります。
内容は請求者の情報を除いて同じ文面で統一され、その懲戒事由も「世間を騒がせた犯罪者だから」という正当性に欠いたもので、それらの請求には<この国のジャスティス>というブログ主が関わっていることがわかりました。
谷崎は御子柴の事務所にも同様に請求書が届くだろうと言い、助けが必要なら人員を送ると言いました。
御子柴が事務所に帰ると、すでに事務員・洋子が大量の請求書を処理していました。
彼はブログ主を炙りだす目的で、請求者全員に業務妨害と名誉毀損で損害賠償を請求することにし、処理を洋子に任せます。
その数日後、洋子は共通の友人を介して知り合った外資系コンサルタント・知原徹矢と共に食事をしました。
しかし、その晩に知原は殺害されてしまいます。
御子柴の不在を狙った刑事・桶屋が事務所にやってきて、洋子は彼の殺害容疑で逮捕されてしまいました。
【承】復讐の協奏曲 のあらすじ②
御子柴は事務所に帰ると、残されたメモで洋子が警視庁にいることを知ります。
そこで刑事・桶屋と話し、彼女が殺人容疑で逮捕されたことを知ります。
面会した洋子によれば、証拠品は彼女の指紋の残った凶器のナイフで、アリバイはなく、痴情のもつれが動機と疑われているとのことでした。
彼女は知原が共通の知人・南雲涼香(なぐもすずか)を介して会っていただけの友人であり、殺人を否定し、ナイフにも見覚えがないことを主張します。
御子柴は弁護で彼女を外に出すことを約束し、調査に動き出しました。
すぐに谷崎の事務所を訪ね人員を頼むと、代わりの事務員として既知の過払専門弁護士・宝来(ほうらい)がやってきて、ブログ主を突き止めることを条件に報酬を払う約束を取り交わします。
調査では、最初に洋子と知原が行ったレストランを訪ね、知原が女性を週替わりで連れてきていたことや、その日に担当した給仕は森沢雛乃(もりさわひなの)という女性一人という情報を得ました。
しかし、森沢はすでに辞めたあとで連絡も取れないことがわかります。
次に犯行現場であるレストラン最寄りの駅周辺を見て、さらに知原の勤めていた企業<アルカディア・マネジメント>へ行き、上司である野際貴子(のぎわたかこ)と会います。
知原は顧客を得るための情報源として女性と交際し、目的を達成するとその女性を捨てることを繰り返して高い業績を出していました。
そのために女性とのトラブルも絶えず、突然女性が訪問してくるなど企業側も巻き込まれていました。
その女性たちの名前のリストを御子柴は手に入れます。
また知原と女性たちの仲介役であった女性の存在もわかり、洋子の主張と一致するのを確認しました。
ところが、その仲介役がいたというカフェに赴いた帰り、駐車場で御子柴は何者かにハンマーで襲われます。
その場で嗅いだ臭いに引っかかるものを感じつつ、異常に気付いた宝来の手を借りて救急車を呼びました。
【転】復讐の協奏曲 のあらすじ③
病院で治療を受けた御子柴は幸い重症ではなく、襲撃事件の担当となった室田という刑事に聴取を受け、そのまま帰宅します。
野際貴子から入手したリストを元に調べていくと、女性たちには恨みはあれど殺害は否定、仲介人である南雲涼香の存在が共通していました。
ただリストの中には一人だけ男性がおり、訪ねてみると知原と交際し、その後自殺した女性の上司ということでした。
自殺した女性は日比野美鳥(ひびのみどり)といい、彼女の妹と息子が残された家族ということでした。
御子柴が彼女の息子である優一(ゆういち)を訪問すると、知原は恨んでいるが殺してないといい、恨んでいるのは美鳥の実家である森沢家も同じであると答えました。
また、御子柴は洋子の弁護にあたって、なぜ凶悪犯罪をした自分から離れないのかを知りたいこともあり、彼女の身辺も同時進行で調べていました。
事務所に来る前に勤めていた会社でも問題はなく、突然辞めた理由ははっきりとしません。
洋子は母子家庭で母は亡くなっており、さらに請求した戸籍は存在しませんでした。
そこで住民票を追って調べると、福岡のとある町にたどり着きます。
そこは御子柴が殺めた女児の住んでいた町でした。
すぐ福岡に向かい、当時の洋子について訪ねて回っていると、一人だけ洋子のことを覚えている老齢の女性・スミに出逢います。
彼は以前、自分の過去を明かした裁判の際に調査で世話になった故・高峰(たかみね)老人の友人で、彼女もまた御子柴に協力し、洋子の身上を話してくれました。
洋子の母・須黒春奈(すぐろはるな)の離婚に関わる事情で洋子は戸籍を得られず、姓だけは新しい父・日下部のをもらい、住民票を得たといいます。
殺めた女児・みどりには、洋子のほか、今は居場所もわからないが”たかちゃん”という友人がいたこともわかりました。
しばらく後、宝来が懲戒請求の件でブログ主を特定するための手続きを進めていることを伝えてきました。
【結】復讐の協奏曲 のあらすじ④
初公判前日、御子柴は洋子と接見し、彼女の身辺を探ったことを告げ、仕事をしてくれればいいと告げました。
そして初公判当日、検察官・古瀬(こせ)に対し、洋子は毅然と無罪を主張します。
ナイフを加工し凶器として使用したという主張に対し、御子柴は、ナイフの加工方法が明らかにされておらず、家宅捜索でも事務所の中にも加工に使えそうな道具や痕跡はなかったことを挙げます。
さらに知原は失血死で相当の返り血が予想されるが、血に濡れた服や替えの服を購入した記録も見つかっていないと述べました。
さらに第二回の公判では、ナイフに残った指紋がステーキナイフを扱う時の位置と同じであり、ナイフの柄と材質から知原が通ったレストランで使用されているものであると御子柴は説明します。
この時、御子柴は傍聴席にいた女性を指します。
彼女は犯行当日の給仕であった森沢雛乃その人であり、自殺した日比野美鳥の妹でもあり、その恨みからたまたま食事にきた洋子に罪を着せる形でナイフを盗んで犯行に及んだのでした。
御子柴は、傍聴席の整理券を襲撃事件で関わった刑事・室田に、公判のことを知って出てくるであろう森沢雛乃を見つけて渡すよう事前に頼んでいました。
さらに室田に同行を頼み、野際貴子を訪ねます。
彼女は殺されたみどりの友人”たかちゃん”であり、ブログ主<この国のジャステイス>であり、御子柴を殴った襲撃犯でもあり、そして仲介人・南雲の正体でもありました。
貴子は腋臭をきつい香水で隠そうとしており、御子柴はその臭いを襲撃時に感じたことなど、証拠を挙げると彼女はそれを認めました。
さらにその背後には、佐原みどりの母・成美(なるみ)がいました。
御子柴や周辺の人物へ恨みのある人物を使い、今回の事件を操ろうとしていたのでした。
御子柴は会いたいと言った洋子を連れて成美に今回の顛末を告げると、怨嗟を背に受けつつ、洋子の無罪放免パーティーへと出かけて行きました。
復讐の協奏曲 を読んだ読書感想
ドラマ化もされた御子柴シリーズの最新作です。
前作で御子柴は自らの過去を世に晒したわけですが、なんでもない風をしつつ、内心では自分という人間について考え、葛藤を続けています。
またそばにいる洋子の真意についても、ようやく関心を見せてきたという回でもあります。
しかし、そうして人間らしさを取り戻すということは、過去の罪の残酷さに向き合う辛さも深まるということになるでしょう。
ショッキングな設定の主人公ではありますが、心情にかなりの変化が見られたいま、この物語がさらにどう掘り下げられていくのか大変気になるところです。
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