「甘いお菓子は食べません」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|田中兆子

甘いお菓子は食べません (新潮文庫) 文庫 – 2016/9/28 田中 兆子

著者:田中兆子 2014年3月に新潮社から出版

甘いお菓子は食べませんの主要登場人物

私(わたし)
物語の語り手。芸能界に憧れていたが現在は専業主婦。断酒のためにストイックな生活を志がける。

武子(たけこ)
ビーズアクセサリー作家として成功。淡泊な夫に退屈している。

立花香穂(たちばなかほ)
武子の元同僚。広告関係の職場でリーダーシップを発揮している。

熊沢亜理紗(くまざわありさ)
ウィッグメーカーを解雇されたばかりで無職。

甘いお菓子は食べません の簡単なあらすじ

性欲が湧かない夫に不満を抱いていた武子は、「花車」と呼ばれる秘密の会でお相手を探すのに夢中です。

武子に花車を紹介した立花香穂は、母を亡くした寂しさから既婚男性の携帯に電話をかけてしまいます。

香穂からの電話で夫の浮気を知った「私」ですが、酒癖が悪く迷惑をかけてばかりなために文句は言えません。

私が公園で声をかけた熊沢亜理紗は、リストラにも負けず就職活動に励むのでした。

甘いお菓子は食べません の起承転結

【起】甘いお菓子は食べません のあらすじ①

筆を折った画家に物足りない

武子の夫・宗太郎が突如として「夜のおつとめ」を引退したいと言い出したのは、ビーズアクセサリーの講師を始めてから13年目のことです。

自著のビーズ本を出版したりテレビ出演もこなす武子と比べてみても、宗太郎の日本画家としての見通しは立っていません。

かつての会社の同期で武子の作品を企業に紹介している立花香穂に相談してみると、「花車」に登録することを勧めてきました。

肉体的に満たされない中年の男女を引き合わせる相談所のようなもので、スポーツクラブやエステサロンと同じ感覚で利用できます。

会員になるとすぐにお相手の男性のプロフィールが送られてきましたが、プライバシーの保護のために顔写真は送付されていません。

2週間後にふたりっきりで会うことが決まって、その日に向けてダイエットをしたり洋服を新調したりしました。

当日にホテルで男性と対面しましたが、生理的に体臭が合わなかったために武子は逃げ出してしまいます。

宗太郎は相変わらず男性として役に立っていませんが、夫婦仲は以前にも増して良好です。

【承】甘いお菓子は食べません のあらすじ②

母にならなくても実りのある人生

中堅の広告代理店で第一営業部の部長を任されるようになった立花香穂でしたが、10歳以上年下で男性の部下・小宮とはうまくいっていません。

離婚してから独りで暮らしているペット可の賃貸マンションに帰っても、ボランティアで引き取った4匹の猫が待っているだけです。

先日には母を亡くしたばかりで、寂しさのあまり花車で1年前に紹介されたIT企業に勤めるサラリーマンの携帯に電話してしまいました。

電話越しに聞こえてきたのは彼の妻だと名乗る女性で、香穂はあわてて電話を切ります。

憂うつな気持ちのままで出社すると、小宮が飲料メーカーの社名を間違えて2万部もパンフレットを発注してしまったと大慌てです。

クライアントに謝罪に行ったりパンフレットの上に手作業でシールを張ったりと尻拭いをしているうちに、ようやく小宮も心を開いてくれました。

47歳になった香穂は再婚するつもりも母親になるつもりもありませんが、これからも部下を育てて猫を養っていくつもりです。

【転】甘いお菓子は食べません のあらすじ③

あらゆる欲望からの解放

女優になる夢を抱いていた私でしたが、合コンで知り合った國生から熱心にプロポーズされたのを期に家庭に入りました。

妊娠中と授乳期をのぞいては一日中飲酒を続けていると35歳の時にアルコール性肝炎で倒れて、ようやくこの病気と向き合っていきます。

7年間断酒と「スリップ」と呼ばれる再飲酒を繰り返した私が学んだことは、徹底的にお酒を誘うものから遠ざかることです。

食べ物では枝豆やポテトフライにステーキ、小説では村上春樹や川上弘美、映画では小津安二郎、音楽ではジャズ。

自分がいろいろな欲望を手放したために、國生がよそで性的な欲望を解消するのは仕方がありません。

つい先日もリビングのソファに置き忘れていた國生のスマートフォンに見知らぬ女性から電話がかかってきて、反射的に妻だと名乗ってしまいました。

夜に外に出ると居酒屋やバーに立ち寄ってしまうために、私が出かけるのは昼間のスーパーマーケットくらいです。

春の温かい昼下がりに買い物の帰りに公園に寄り道をしてみると、芝生の上に40代くらいの小柄な女性が倒れています。

【結】甘いお菓子は食べません のあらすじ④

平べったい彼女の再出発

名前は熊沢亜理紗で49歳、女性用のウィッグを製造販売する会社に勤めていましたが早期退職の通告、独身で両親もすでに亡くなり持ち家もなし。

土の上で平べったくなっているのが何よりも好きだという彼女の笑顔を見ていると、久しぶりに私まで気持ちよくなってしまいました。

退社してから最初の3カ月は昼夜逆転の生活を続けていた熊沢ですが、徒歩で行けるエリアで数多くの公園に遠征しているうちにみるみる健康になっていきます。

求人情報を見て履歴書を送りいくつかの会社と面接までこぎつけましたが、再就職先はなかなか見つかりません。

落ち込んでいた熊沢を飲みに連れていってくれたのは、20代の頃に一緒に宝石販売員をしていた松本です。

公園でうつぶせで寝ていた時に死体と間違われてしまったことを打ち明けてみると、葬儀会社の職員を勧められます。

意外にも自分に向いているかのような気がした熊沢は詳しく調べてみることにして、久しぶりに充実感を味わうのでした。

甘いお菓子は食べません を読んだ読書感想

趣味を生かして家計を助ける武子から、バリバリのキャリアウーマン・立花香穂、崖っぷちの熊沢亜理紗まで。

さまざまな境遇の4人の40代女性の日常が映し出されていき、時おりさりげなく交錯していく展開が面白いです。

夫婦の赤裸々なお悩みから職場でのあるあるネタまでが盛り込まれているために、幅広い世代で共感できるでしょう。

ビジネスにもプライベートにも貪欲な彼女たちの生きざまには、時には圧倒させられつつも時にはエネルギーをもらえました。

宗太郎や小宮のような頼りなく存在感がないキャラクターに、男性の皆さんは自身を重ねてしまうかもしれません。

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