「どろにやいと」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|戌井昭人

「どろにやいと」

著者:戌井昭人 2014年8月に講談社から出版

どろにやいとの主要登場人物

わたし(わたし)
物語の語り手。ケガでプロボクサーを断念。一時期は荒れていたが根は真面目。

松岡陣太(まつおかじんた)
わたしの対戦相手。実力者だが時々集中力が切れる。

武田紀之(たけだのりゆき)
わたしの悪友。風俗店の名義だけの役員でこれといった仕事はしてない。

大房敏郎(おおふさとしろう)
わたしの父の顧客。夜尿症に悩んでいたがお灸療法で治る。

タナベタケル(たなべたける)
10歳で施設に預けられる。成人後は窃盗を繰り返しながら放浪。

どろにやいと の簡単なあらすじ

亡くなった父親の代わりに2代目の行商人となった「わたし」は、日本海と3つの山に囲まれた小さな村にやってきます。

父のなじみの客に自家製のお灸を売りにきたわたしを、警察関係者だと勘違いしたのは窃盗犯のタナベタケルとその妹です。

ふたりに殺害されそうになったわたしは元ボクサーの本領を発揮して何とか振り切り、山の中で救助を待つのでした。

どろにやいと の起承転結

【起】どろにやいと のあらすじ①

グローブをはめれないボクサー

高校生の頃にボクシングを始めたわたしは、卒業後は多摩川のほとりにある石けん工場で働きながらジムに通っていました。

プロテストに合格したのは20歳、スーパーライト級の日本チャンピオンへの挑戦権を勝ち取ったのは24歳。

順風満帆だったわたしの前に立ちはだかったのは松岡陣太という選手で、東洋太平洋の3位にランクインしています。

結果は8ラウンドで判定勝ちでしたが松岡は試合終了後に病院に運ばれて亡くなり、それ以来わたしはどうしてもグローブをはめることができません。

引退して無気力になったわたしが出入りするようになったのは、中学時代のクラスメート・武田紀之の父親が経営する堀之内のソープランドです。

昼間は従業員と一緒に出前を食べて風俗嬢とトランプ、夜になるとキャバクラで豪遊。

荒んだ生活を送っていたわたしは熊に襲われて急死した父親の葬儀に顔を出した時に、父の弟から1冊の顧客名簿を手渡されます。

もぐさの葉っぱにニンニクを調合した万病に効果があるお灸「天祐子霊草麻王」を開発したわたしの父は、田舎の小さな村や山奥の集落にまで足を伸ばして売り歩いていました。

【承】どろにやいと のあらすじ②

ありがたい3つのお山に再起をかける

現役の頃には試合を見にきてくれたり金銭的な援助をしてくれた恩があるために、父の仕事を継いでほしいという叔父からの頼みを断れません。

四十九日が終わった翌日には川崎を出発して、名簿を片手に全国各地を歩き回りました。

最初こそ戸惑うことや慣れないことも多かったわたしを、生前の父を覚えているお得意さんたちは優しく迎え入れてくれます。

地元に戻ることもなく1年ほどで行商をこなせるようになったわたしが、ある時に訪れたのは日本海に面した港町・志目掛村です。

この村は3つの霊山に囲まれていて、修行僧の聖地でもあり山岳信仰の対象にもなっていました。

過去と死を象徴する牛月山、現在を表す魚尾山、未来とこれから生まれてくるものを意味する湯女根山。

3つの山をお参りすると生まれ変わって新たな人生を歩むことができるそうですが、村からでは牛月山と魚尾山しか見えません。

湯女根山を拝むには山を登らなければならないために、白装束を着て国道を歩いている修験者の後をついていきます。

【転】どろにやいと のあらすじ③

白い装束に身を隠す危険人物

修験者が入っていったのは公民館の前にある小さな商店で、わたしも魚肉ソーセージやジャムパンなど軽食を購入しました。

レジ番をしているのは紺色のパイル地のホットパンツを履いた女性で、その派手なたたずまいは志目掛村には似つかわしくありません。

女性の話では国道で土砂崩れが発生したために通行止めになっているそうで、開通までには2日はかかるでしょう。

できる限り出費を抑えるようにしているわたしが素泊まり3000円以下の商人宿を探していると、生前の父にお世話になったという大房敏郎が自宅に招待してくれます。

修験者の右の頬っぺたから目にかけてやけどの跡があったこと、湯女根山に行く裏の山道へ向かっていたこと。

わたしの目撃情報を聞いた大房は、修験者ではなくタナベタケルという警察に追われている泥棒だと忠告してくれました。

次の日のお昼には山岳会から応援に駆け付けた青年たちが村の出口へ送り届けてくれるそうで、待ち合わせ場所は竹林を切り開いた急な斜面の前にあるお堂です。

【結】どろにやいと のあらすじ④

過去からのパンチと未来から現れた山に救われる

約束の時刻よりも少しだけ早めにわたしがお堂に到着すると、扉が開く音がしてホットパンツ姿の店員が出てきました。

昨日商店であった時の穏やかな顔つきとは別人のような形相で、彼女の後ろからはタケルが品定めするようにわたしをにらんでいます。

タケルは端からわたしのことを刑事だと決めつけているようで、お灸の行商にやってきただけだと説明しても信じてもらえません。

ホットパンツの女性はタケルに命じられるままにわたしのリュックを取り上げて物色していますが、中には天祐子霊草麻王の原料となるもぐさが入っているだけです。

タケルが包丁を突き付けてきたためにわたしが現役さながらのストレートで反撃すると、灯油を入れて放置してあったペットボトルが倒れてもぐさに引火します。

燃え上がるお堂を飛び出したわたしは斜面から転落していき、最後に聞いたのはホットパンツがタケルに「お兄ちゃん」と呼び掛ける声です。

土の中からはい出したわたしはようやく湯女根山を見ることができて、遠くの方からは山岳会のメンバーが腰に付けている熊よけの鈴の音が響いてくるのでした。

どろにやいと を読んだ読書感想

生きがいだったボクシングを奪われてあっという間に自暴自棄になっていく、オープニングの主人公の姿が痛々しいです。

リングの上では激しく殴り合い時には死傷者を出してしまうほどのファイターが、多くの人を癒やすためにお灸の行商人になってしまうという急展開は予想できません。

たどり着いた先は雄大な日本海を臨みつつ、霊験があらたかな山々がそびえ立つ村でも不思議なめぐり会いが待っていました。

田舎の雑貨屋の店番とは思えないほどの色っぽいホットパンツ女や、人の道を踏み外した過去を白装束で覆い隠すタナベタケルが忘れがたいです。

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