著者:小野寺史宜 2018年4月に祥伝社から出版
ひとの主要登場人物
柏木聖輔(かしわぎせいすけ)?
主人公。鳥取県出身。両親を亡くし、東京の大学を中退。おかずの田野倉で働きながら父と同じ料理人になるため、調理師免許取得を目指しています。
井崎青葉(いざきあおば)聖輔の高校の時のクラスメイト。東京の大学で健康福祉学部に通い、看護師を目指しています。砂町銀座商店街で聖輔と偶然再会します。
高瀬涼(たかせりょう)
慶應大学経済学部の3年生で青葉の元彼氏。青葉とヨリを戻したいと思っています。?
田野倉督次(たのくらとくじ)
聖輔の勤め先、砂町銀座商店街おかずの田野倉の主人。
船津基志(ふなつもとし)
聖輔の母親のいとこで聖輔の唯一の親戚。
ひと の簡単なあらすじ
相次いで両親を亡くした二十歳の青年、柏木聖輔は奨学金を返済する自信もなく大学を中退。
所持金もほぼないまま、空腹に負け、立ち寄った商店街の総菜屋が人生を大きく変えます。
ひとりぼっちになったけれど、ひとの温かみに触れ、聖輔は前向きに人生を歩んでいきます。
ひと の起承転結
【起】ひと のあらすじ①
鳥取出身の柏木聖輔は高校時代に料理人の父親を事故で亡くし、そこから女手一つで母親に育てられます。
母親の勧めもあり、東京の大学へ進学した聖輔でしたが、大学2年生の秋、今度は母親を突然死で失います。
奨学金を返せる自信もない聖輔は、大学を中退し働くことを決意します。
しかし仕事は決まらず、ただ時間だけが過ぎていく毎日でした。
ある日空腹に耐えきれず立ち寄った商店街の総菜屋で、聖輔は他のお客さんにコロッケを譲ったことがキッカケで、その店「おかずの田野倉」でアルバイトを始めます。
父親と同じ料理の道に進み、調理師免許取得を目指すのです。
ある日、いつものように聖輔がおかずの田野倉で働いていると「柏木くんだよね?」と声をかけられます。
高校時代のクラスメイト井崎青葉でした。
彼女も鳥取から上京し、今は大学で看護師の勉強をしています。
その日彼女は元彼である高瀬涼と商店街を訪れていたので、連絡先だけを交換してその場は別れます。
後日、聖輔と青葉はカフェで待ち合わせ、聖輔の母親が亡くなったこと、高校時代からやっていたバンドや大学を辞めて今は働いていることを話します。
青葉も母親が再婚して、高校時代とは名字が変わったことや、おかずの田野倉で再会した時に一緒にいた元彼、高瀬涼について話しをします。
2人は東京で鳥取を感じられるのが嬉しく、その後も連絡を取り合います。
【承】ひと のあらすじ②
両親を亡くして独りになってしまった聖輔ですが、母親のいとこで唯一の親戚である船津基志が鳥取に住んでいました。
彼は母親の葬儀の際、葬儀屋の手配やその後の遺品整理などをまとめてやってくれた人物でした。
葬儀が終わったあと、母親が基志さんに50万円借金していたと聞かされ、聖輔は母親が残してくれた貯金から50万円を返済しました。
ところがある日、基志さんがさらに30万円ほど用立ててほしいと東京の聖輔の家までやってきます。
聖輔は考えさせてほしいとその場は断りますが、基志さんはその後もお金を工面してほしいとおかずの田野倉までやってきます。
聖輔が考えた末、葬儀の際にお世話になったお礼として10万円を渡し、これ以上は出せないと告げます。
基志さんはお金を受け取り、聖輔の顔も見ずに立ち去ります。
聖輔は、10万円の痛い出費を工面しようと、高校時代から愛用していたベースを売ろうと考えます。
しかしベースは高値で売れないため、おかずの田野倉で一緒に働いているシングルマザーの一美さんの息子へ譲ることにします。
青葉とはたまにLINEでやりとりをする関係になり、近所のあらかわ遊園まで二人で出かけます。
お金がない聖輔と青葉ですが、入園料200円のあらかわ遊園で十分に楽しみます。
その後居酒屋で食事をし、一週間前に青葉が二十歳になったのでそのお祝いをします。
その際、聖輔が高校時代から使っていたベースをおかずの田野倉で働いている一美さんの息子に譲ったことを話すと青葉は、「今の柏木くんが人にものをあげられるって、すごいね」と返します。
【転】ひと のあらすじ③
聖輔は、料理人だった父親が鳥取でお店を開く前に、東京で修行していた店を見て見たいと思いつきます。
父親が亡くなったあと母親が何度か口にしていた「やましろ」というお店を探しますが、すでに店はなくなったあとでした。
かつてやましろがあった場所には別のお店が建っており、そのお店はかつての父親の先輩が営んでいました。
そのお店で聖輔は、やましろの元オーナーが銀座で別のお店をやっていることを知り、銀座のお店「鶏蘭」に詳しい話を聞きに行きます。
「鶏蘭」ではやましろの元オーナー山城時子さんから当時の話を聞くことができました。
当時の父親の様子や、父親がやましろを辞めることとなった経緯を知ることができました。
聖輔は帰り際、山城時子さんから困った時はいつでも自分を頼るようにと温かい言葉をかけてもらいます。
店を出た聖輔は今の自分と若い頃の父親とを重ね合わせ、当時の父親の心情を想像します。
おかずの田野倉で働き始め8カ月が過ぎたある日、聖輔は仕事の休憩中に店主の督次さんに、店を継ぐ気があるか?と聞かれます。
督次さんは、今すぐではなくとも将来は聖輔にお店を継がせる気持ちがあると伝えるのです。
聖輔は督次さんがそういう風に言ってくれたことを嬉しく思い、周りの人々の温かさを感じるのです。
青葉とはお店の定休日に銀座で会うことになりました。
銀座といっても歩くだけです。
二人は銀座の街を歩きながら青葉の学校の話や将来の話をします。
銀座で見つけた楽器屋さんで青葉は、高校時代に聖輔がベースを演奏していた姿を思い出し、久しぶりに聖輔のベースを聴きたいと言います。
そこで聖輔は楽器屋さんでベースの試奏をさせてもらいます。
ベースを弾いている聖輔を見て青葉は「何もかもあきらめなくてもいいんじゃない?」と問いかけます。
そこで聖輔は青葉の事が好きだと自覚するようになるのです。
【結】ひと のあらすじ④
ある日聖輔は青葉の元彼である高瀬涼からカフェに呼び出されます。
そして高瀬涼が青葉とやり直そうと思っている事、そのために聖輔に空気を読んで、ふたりの間をかき乱さないでほしいと言われます。
そう言われた聖輔は腹立ちを覚え、高瀬涼の分のコーヒー代も支払い、店を出ます。
おかずの田野倉では先輩である映樹さんの彼女が妊娠し、結婚することになりました。
身近なところで重い死が続いた聖輔にとっては心から喜ばしい出来事でした。
聖輔がおかずの田野倉で働き始め約1年が過ぎようとしていました。
聖輔は督次さんに、おかずの田野倉を辞めたいと切り出します。
映樹さんの婚約発表から考え出した結論でした。
聖輔は調理師免許を取るにあたり、総菜以外の調理経験を積むためにお店を辞めることにしたのです。
また、婚約し新たな生活をスタートする映樹さんにこそ、店を継いでほしいという思いもあったようです。
そんな聖輔の思いを督次さんは尊重し、温かく送り出してくれます。
二十歳で両親を亡くし、今後は泣く事ははないだろうと思っていた聖輔の目から涙が流れます。
そして聖輔は青葉に好きという気持ちを伝えます。
仕事を終えた聖輔は、今から会おうと青葉に電話をかけます。
青葉の家の最寄り駅まで着いた聖輔は青葉に会うなり、「おれは青葉が好き」と伝えて、物語は終了します。
ひと を読んだ読書感想
全体のストーリーとしては、あまり大きな出来事は展開されませんが、両親を亡くした聖輔が大学を辞め、調理師免許を目指しながら日々仕事に取り組む姿や、青葉との会話、ふたりのデート風景にとても好感を覚えます。
独りになってしまった聖輔を応援したいと手を差し伸べてくれる「ひと」もいれば、聖輔の元へお金をせびりに来るのもまた「ひと」です。
本を読んだ後は思わず装丁を見直し、これ以上にぴったりとくるタイトルはないだろうと思わされます。
コロナ渦で孤独を感じる人が多い今だからこそ、ぜひ読んでほしい一冊になっています。
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