「おしかくさま」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|谷川直子

おしかくさま

著者:谷川直子 2012年11月に河出書房新社から出版

おしかくさまの主要登場人物

瀬尾ミナミ(せおみなみ)
ヒロイン。幼い頃は文学少女だったが49歳になった今はフリーライター。ギャンブルが好きで生活は不規則。

アサミ(あさみ)
ミナミの妹。民生委員や子育てで忙しい。

ユウ(ゆう)
ミナミのめい。中学1年生。暇さえあればYouTubeを見ている。

瀬尾洋子(せおようこ)
ミナミの母。高校教師を引退した夫と年金生活。

藤木野アリス(ふじきのありす)
元郵便局員。貯金だけが生きがい。

おしかくさま の簡単なあらすじ

離婚が原因で軽度のうつ状態が続いていた瀬尾ミナミが父を通じて知り合ったのは、「おしかくさま」の熱心な信者たちです。

お金こそがすべてと信じる人たちとの交流を深めていくうちに、少しずつこれまでの自堕落な生活を改めていきます。

おしかくさまの導きで元夫の幸せそうな再婚生活を目の当たりにしたミナミは、過去を振り切って前に進むのでした。

おしかくさま の起承転結

【起】おしかくさま のあらすじ①

金運付きたバツイチ女

夫と別れてから拒食症や不眠症に悩んでいた瀬尾ミナミは、3歳年下の妹・アサミから父親が浮気をしているのか確かめてほしいと頼まれました。

あと1年で50歳になるミナミは貯金をとっくに使い果たしてしまい、クレジットカードの利用限度額もいっぱいです。

インターネットショップのサイトに載せる大げさな商品説明を書いたりするような仕事ばかりで、収入も安定していません。

浮気の証拠をみつければ母親の洋子から1万円をもらえると聞いたために、駅の手前を右に曲がった先にある一軒家まで尾行します。

向かい側のアパートの塀に隠れて1時間ほど張り込みをしていましたが、あっさりと父に見つかったために仕方なく家の中にお邪魔しました。

家主は藤木野アリスという初老の女性で、「おしかくさま」という神様を信仰しています。

藤木野のもとに「お告げ」が舞い降りたのは東日本大震災発生から半年後の9月11日のことで、ひったくりの被害に遭った時にたまたま通りかかった父が犯人を捕まえてカバンを取り戻してくれたそうです。

それ以来藤木野は父のことをおしかくさまの「お遣い」と慕っていて、現役時代に高校の国語の先生をしていた父も信者たちを集めて勉強会を開くようになりました。

【承】おしかくさま のあらすじ②

幸運の神様にすがる負けっぱなしな人たち

ミナミから報告を受けたアサミは、インターネットに詳しい娘のユウにおしかくさまについて調べてもらいました。

オフィシャルサイトによると金運の神様で、特定の銀行のATMを「お社」に指定して預金を活性化するそうです。

一方のミナミは相変わらず働かずにお金を稼ぐのが大好きで、宝くじや馬券を買っていましたがハズレてばかりです。

駅前のパチンコ店でずいぶんと負けると自分の代わり映えのなさに嫌悪感を抱いてしまい、気分転換のために藤木野の家に遊びに行ってみました。

コーヒーとお菓子をごちそうしてミナミのことを「先生のお嬢さん」とおもてなしする藤木野は、これまでの人生を語り出します。

容姿にコンプレックスがあった幼少期、定年まで郵便局で働いていたけど縁がなくて70歳をこえた今でも独身、趣味はお金をためること。

この家に集まってくる人たちは事情はバラバラですが、世間から言わせれば「負け組」でしょう。

結果だけ見れば自分もひどく似通っていることに気がついたミナミは、どうしようもなく荒んだ気持ちになってしまいます。

【転】おしかくさま のあらすじ③

おふだのご利益で再出発

運気をアップするアイテムとして、おしかくさまのサイトでは「無紋のおふだ」を1万円でネット販売していました。

姉が1万円を出して無紋のおふだを購入したと聞いて、アサミはショッピングセンターの中にある喫茶店で待ち合わせをして見せてもらいます。

大きさこそ縦が76ミリで横160ミリと1万円札とまったく同じサイズですが、どう見てもただの白い紙切れです。

このおふだを財布に入れてパチンコに行くと大当たりが出たと喜んでいて、アサミにもいくらかお裾分けしてくれました。

売上金のほとんどは東日本大震災の被災地へ義援金として送られるそうですが、アサミには新手の詐欺としか思えません。

近頃ではくだらない原稿を書いたり、どうでもいい座談会をテープ起こしするライターの仕事に嫌気がさしているようです。

ウォーキングで体力アップに励んだり近所のスーパーでのパート勤務を考え始めていたミナミは、突如としておしかくさまからお告げを受け取りました。

【結】おしかくさま のあらすじ④

お金で買えないもの

おしかくさまに会えるのは10月15日の午後2時、場所は上野動物園でチャンスは1度しかありません。

藤木野たちや父までが勝手についてきて、駅で切符を買ってミナミを先頭に電車に乗り込む様子は学校の遠足のようです。

モノレールの東園駅から西園へと向かう途中にひと気のないビーバーの池があり、時計台の針が2時を指した瞬間に気がついたらその少女はみんなの前に立っていました。

赤いチェックで丈の短いダブルのジャケット、パニエで膨らませたミニのフレアスカート、つやつやと肩までたれた黒い髪。

国民的アイドルグループのメンバーのような彼女は、ミナミの「いちばん見たくないもの」を見せると宣言します。

少女の背後から現れたのは、別れた夫と見知らぬ女性が小さな男の子の手を引きながら楽しそうに園内を散策する姿です。

ひとしきり涙を流したミナミは、どんなにお金を積んでも過ぎ去った時間だけは絶対に買い戻せないことを理解します。

ようやく何かを乗り込えたミナミがスーパー「カスミ」で見習いとして働き始めたのは、おしかくさまの名で1億円が日本赤十字社に振り込まれた次の日のことです。

お客さんとして来店した妹の顔を見たミナミは、いたずらっぽく笑いながら「まいどありがとうございました」と頭を下げるのでした。

おしかくさま を読んだ読書感想

まもなく50歳を迎えようとしている主人公・瀬尾ミナミが、お小遣いのために実の父親の浮気調査に乗り出すオープニングに笑わされました。

クリニックに通っていて精神的に安定しないはずのミナミが、探偵のまね事までアクティブにこなしていてビックリです。

震災直後の不安な空気感をたくみに取り込んで浸透していく、「おしかくさま」の教えにも不思議な説得力があります。

「神様」でありながらインターネットでショップ販売をしたり、神社ではなくATMに宿るところにも時代が反映されていますね。

怪しげなカルト教団として暴走していくのかと思いきや、ミナミの再起を後押しするラストは爽やかです。

コメント