「鳩とクラウジウスの原理」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|松尾佑一

鳩とクラウジウスの原理

著者:松尾佑一 2010年4月に角川書店から出版

鳩とクラウジウスの原理の主要登場人物

磯野(いその)
主人公。小さな広告会社でデザインやキャッチフレーズを企画する。異性とのコミュニケーションが苦手。

ロンメル(ろんめる)
磯野の大学時代の友人。元家電メーカーの派遣社員。ミリタリールックにこだわり空気を読まない。

犬塚栗(いぬづかくり)
磯野の後輩。アパレル関係の会社を退職して現在は無職。好奇心が旺盛で思い付きで行動する。

柳田宗道(やなぎだむねみち)
長年に渡って大阪で事業団を運営する。情報収集が得意。

間宮(まみや)
磯野の教育係。ボンデージファッションで身を固めていて強気な性格。

鳩とクラウジウスの原理 の簡単なあらすじ

広告関係の仕事に行き詰まっていた磯野のもとを訪ねてきたのは、大学時代のサークル仲間・ロンメルと犬塚栗です。

ふたりを養うために鳩を使ってラブレターを運ぶ事業団で働き始めますが、磯野が大学時代に作った反恋愛組織「クラウジウス団」を引き継いだロンメルから妨害を受けます。

犬塚の思いに気が付いたロンメルはクラウジウス団を解散させてふたりは恋人となり、磯野は広告担当として事業団をサポートしていくのでした。

鳩とクラウジウスの原理 の起承転結

【起】鳩とクラウジウスの原理 のあらすじ①

廃業寸前の広告マンに将軍と犬

磯野が住んでいるのは大阪湾の側にある熊寺で、阪堺電気軌道の線路に面したの6畳ひと間のアパートでひとり暮らしをしていました。

社員がふたりしかいない会社で地元の企業から広告コピーの仕事を請け負っていましたが、近頃では商店街の看板やチラシの印刷くらいしか出番がありません。

いつものように空腹と金欠でフラフラしながら帰宅すると、部屋の前で大学を卒業してから2年ほどあってなかったロンメルが立っています。

190センチの大男でアマガエル色のドイツ軍の軍服を身にまとった姿は、まさに第2次世界大戦のアフリカの英雄・ロンメル将軍にそっくりです。

家電製品を作る会社に就職したものの、工場を転々とさせられた揚げ句に社員寮を追い出されたというロンメルは他に行く当てがありません。

当然のようにロンメルが寝泊まりするようになるとを、大学生の時に唯一仲良くしていた女子学生であり同じく会社を辞めたばかりの犬塚栗まで転がり込んできます。

3人での共同生活が始まりますがロンメルと犬塚は就職活動する様子もなく、一緒に野垂れ死にしないためにも磯野は副業を始めるつもりです。

【承】鳩とクラウジウスの原理 のあらすじ②

翼に載せてお届け

生命保険会社のパンフレットを作るために公園で鳩の写真を撮影していた磯野に話しかけてきたのが、PAC(鳩航空事業団)の大阪室長をしている柳田宗道です。

情報を扱う特殊法人の一員だという柳田は、磯野の勤め先の景気が悪いことも2人の居候を抱えていることも調査済みでした。

南海鉄道難波駅から歩いてすぐの大手お笑い事務所のビルの屋上に連れて行かれた磯野は、PACの大阪管制部に足を踏み入れます。

管制部といっても大きなアンテナが設置されたバラック小屋のような作りで、正規雇用の職員は柳田の他には赤い首輪に露出度の高い衣装を着た間宮という女性しかいません。

しばらくの間は間宮の下でいろいろと教えてもらうことになった磯野は、鳩の世話をしたり体調管理を任されます。

職務に関することはくれぐれも内密にと念を押された磯野は、ロンメルや犬塚にも打ち明けていません。

ようやく磯野が仕事に慣れ始めた頃、新たに始まったサービスがラブレターの郵送システム「ハトコイ」です。

【転】鳩とクラウジウスの原理 のあらすじ③

恋の旅路を邪魔するもの

ラブレター輸送用の鳩を捕まえて中の手紙を書き換えてしまう悪質なイタズラが続いていたために、柳田たちは頭を悩ませていました。

ご丁寧にも犯行声明文がPACに送り付けてきましたが、磯野には末尾の「クラウジウス団」という署名に心当たりがあります。

モテない男子大学生たちが数人ほど集まって結成したのがクラウジウス主義の会で、その創設者こそが磯野です。

この世のありとあらゆる恋愛に報復をするという単純な行動原理は、磯野が会を去ってからも変わっていません。

鳩の背中には衛星測位システムが取り付けられていて管制部のレーダーで位置情報を把握できますが、クラウジウス団は電磁波をシャットアウトする技術を使っているようです。

同じ大学に通っていてお互いに4年間で1度も彼女ができずに、やたらと電子工学に詳しい人間といえば磯野にはひとりしか思い浮かびません。

間宮から鳩舎のカギを借りた磯野は、彼女が手塩にかけて育て上げたとっておきの鳩・トシヤに全てを託します。

【結】鳩とクラウジウスの原理 のあらすじ④

舞い降りてきた愛と大口顧客

鳩の頭の中には磁気を感じる器官が備わっているために惑わされやすいですが、ずば抜けて優秀なトシヤはいかなる妨害工作にも引っ掛かりません。

クラウジウス団を引き連れてボロボロの軽トラックでトシヤを追いかけるのは、メンバーたちから「団長」と呼ばれているロンメルです。

トラックが止まった場所は府民の森の入り口のところで、上空には大勢の鳩が竜巻のようにくるくると旋回していました。

鳩たちの下では犬塚がひとりで待ち構えていて、舞い降りてきたトシヤの赤い首輪から取り出した手紙をロンメルに手渡します。

クラウジウス団が解散してロンメルと犬塚が熊寺のアパートを去っていったのはそれから間もなくのことで、誰もいなくなった部屋にいても磯野はやることがありません。

久しぶりに広告会社の方に顔を出してみると、新規のお得意様が見つかったと社長はニコニコしています。

鳩に恋文を運ばせているという風変わりな取引先のために、磯野はとっておきのキャッチフレーズを考えるつもりです。

鳩とクラウジウスの原理 を読んだ読書感想

路面電車がすぐ側を駆け抜けていく、ノスタルジックな雰囲気がたっぷりな大阪の下町がストーリーの舞台になっています。

お金もなく彼女がいない主人公・磯野ですが、人望はあるようで次から次へと珍客たちが古ぼけたアパートの扉をたたいてきて笑わされました。

昼間から「リストラ鍋」と名付けた手料理を振る舞うロンメルや、職もないのに捨てられた犬を拾ってエサを与えている犬塚栗も嫌いになれません。

ひとつ屋根の下での男2人女1人の暮らしはほのぼのとしていますが、いつかは終わりがくるような予感も伝わってきます。

SNSや電子メールが全盛の今の時代に、伝書鳩によって誕生したカップルがほほえましいです。

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